見えない月をさがして
どんなに、どんなにさがしても
やみいろのねこは見つかりませんでした。
二つのお月さまと一つのかげが、よるのはらっぱをあるいています。
そのかげは、にんげんでもどうぶつでもない、かいぶつのかげでした。
そのかいぶつは、そんなに大きくなくて、はだはまっくろで、つよそうなつめとキバと、まっかな目をもっていました。
よるは、かいぶつのじかんです。
ひるのあいだはねむっていて、よるになるとはらっぱをのっしのっしとあるきまわります。
くさをゆらしていくかぜや、どこからかきこえてくる虫のなきごえは、とてもきもちがよくて。
かいぶつは、はらっぱが大すきなのでした。
ある日のよる。かいぶつがいつものようにはらっぱにいくと、先にだれかがきていました。
「だれだ、おれのはらっぱにいるやつは」
なんだかはらっぱをとられたきがして、かいぶつは大きなこえをだしました。
先にきていただれかは、びっくりしてとびあがりました。
「ごめんなさい、ごめんなさい! すぐにいなくなりますから、もう少しだけまってください!」
かいぶつがよーく見ると、そこにいたのはねこでした。
見たことのないねこに、かいぶつはききました。
「どうして、ここにきたんだ?」
「お月さまが、なくなってしまったんです」
かいぶつのかたにのってしまうほど小さな、よるのそらのいろをしたねこは、きんいろの目でかいぶつを見上げていいました。
「なにをいっているんだ、お月さまならそらにあるだろう?」
「いいえ、よーくみてください。そらにあるのはひとつだけでしょう?」
かいぶつは、もういちどそらを見上げました。たしかに、きのうまで二つあったはずのお月さまは一つだけになっています。
「見えなくなってしまったお月さまをさがして、ここにきたんです。なかったらすぐにかえります」
「でも、はらっぱはとても広いし、一人じゃたいへんだろう?」
かいぶつでも、このはらっぱがどこまでつづいてるのかはしりません。
ただ、とてもとても広いことはたしかなのでした。
それをきいたねこは、しばらくのあいだこまったようにうなっていましたが、なにかいいことをおもいついたようで、ぱっとかおを上げて、こういいました。
「それじゃあ、いっしょにさがしましょう!」
かいぶつはびっくりしました。まさか、そんなふうにいわれるとはおもってなかったのです。
「だめですか? 一人よりも二人のほうがいいとおもったんですけど……」
だまってしまったかいぶつに、いいわけのようにはなすねこのこえは、だんだん小さくなってしまいました。
「いや、おれもいっしょにさがそう」
そんなねこがちょっとかわいそうになって、かいぶつはいっしょにさがしてあげることにしました。
「ほんとうですか?! ありがとうございます!」
すごくすごくうれしそうにねこがいったので、かいぶつは少しくすぐったくなりました。
こっちのほうがさがしやすいだろう、といって、かいぶつはねこをじぶんのかたの上にのせました。
ねこは、こんなにたかいところからせかいを見たのははじめてだと、すごくよろこびました。
それから二人は、お月さまをさがしはじめました。
はらっぱにながれていた小さな川や、かいぶつがひるまねているどうくつ。
きれいな花がさいている丘、ぽつんと立っていた木の上。
たくさん、たくさんさがしました。
それでも、お月さまはみつかりません。
だんだんそらがあかるくなってきます。
ひとつだけになってしまったお月さまも、さっきよりずいぶんとかたむいていました。
「みつからないな」
「みつからないですね」
ふと、かいぶつはふしぎにおもいました。お月さまがみつからないのに、ねこがぜんぜんかなしそうではないからです。
「どうして、お月さまが見つからないのにわらっているんだ?」
かいぶつは、かたの上のねこにききました。
「だって、たのしかったんですもの」
ねこは、にっこりとしながらかいぶつのしつもんにこたえます。そのこたえが、かいぶつにはよくわかりません。
「たのしかったら、見つからなくてもいいのか? お月さまをさがしていたんじゃないのか?」
それにはこたえずに、ねこはおろしてほしいといいました。
かいぶつがおろしてやると、ねこはまっすぐにかいぶつを見上げます。
「お月さまは見つからなかったけど、あなたといっしょにいろいろなところにいけたから、わたしはうれしいんです」
かいぶつは、なんだかふあんになりました。
「どこかにいってしまうのか?」
お月さまがみつからなかったんだから、このままみつかるまで、ねことはいっしょにいられるものだとおもっていたのです。
ちょっとかなしそうに、ねこがいいました。
「わたしはかえらなくちゃいけないけれど、これからもずっとずっと、見ていますから」
とたんに、かいぶつはものすごくかなしくなりました。いつのまにか、かいぶつはねこにずっといっしょにいてほしいとおもうようになっていたのです。
「いやだ! ずっといっしょにいてほしいんだ!」
かいぶつがねこをつかまえようと手をのばすより先に、ねこはちかくのくさむらにかくれてしまいました。
「だいじょうぶ。ずっとそばにいます。さみしくなったら見上げてください。わたしは、そこにいます」
くさむらからねこのこえだけがきこえて、そしてまたしずかになりました。
よるのそらのいろをしたねこは、どこかにいってしまいました。
つぎの日のよる、かいぶつはねこをさがしました。
いっしょにいった小さな川や、きれいな花がさいていた丘。
ぽつんと立っていた木の上。
どこにも、ねこはいませんでした。
どんなに、どんなにさがしても
ねこは見つかりませんでした。
かいぶつは、ひとりになりました。
いままでずーっとひとりだったかいぶつは、さみしいということがわかりません。
でも、ねこといっしょにお月さまをさがしてから、かいぶつは、ひとりでいることがどうしようもなくかなしくなりました。
これがさみしいということなのかな、そうかんがえました。
そして、ねこがさいごにいったことばをおもいだしたのです。
『だいじょうぶ。ずっとそばにいます。さみしくなったら見上げてください。わたしは、そこにいます』
かいぶつは、上を見上げました。
かいぶつのあたまの上のそらでは、二つのお月さまが、かいぶつをしずかに見ていました。
読んでいただいてありがとうございます。
二つの月が昇る世界の、ふしぎなねことかいぶつのおはなし。いかがだったでしょうか?
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