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怪奇拾遺集

呼ぶ女(5/24編集)

作者: 狂言巡

「ジェラール=ブルゴーニュです。えっと……あんまり怖くなくても文句とか言わないでくださいよ? あれは確か……去年の夏日くらいだった気がするんですが……」


 深夜、ジェラールは妙に寝苦しくて起きた。

 でも起きても上に人が……なんてことなく、すぐに寝直せた。暑かったからだと思って。

 でも、その日から毎日寝苦しくなって起きるようになった。最初うなされた時とは違うところがあった。

 起きる直前に毎回同じ夢を見る。赤毛の美しい女性が一人出てきて、何回もジェラールの名前を囁くように呼ぶ……それだけの夢。


「それでも数日くらいなら我慢できたんですですけど、なんと一ヶ月以上も続いたんですよね、これが!」


 正直、気味が悪くなった。これではろくに睡眠もとれない。


「……だから、ちょっと思考回路がおかしくなってたのかもしれません。いっそのこと、貫徹してやろうと思い至ったんですよ」


 適当に深夜のテレビを観てたら……突然、背中から変な感覚がした。

 ねっとりと撫でるように触られているような……気持ち悪い感じが。痴漢されるっていうのは、きっとあんな感じなんでしょうね。

 しかし、ジェラールは何もしなかった。そもそも、躰が言うことをきかなかったのだ。

 そして……。


「ジェラール」


 耳元で自分の名前を囁かれた。何回も何回も、呪文のように。


「ええ、例のあの夢ですよ。でも今回もまた状況が違いました。首へだんだん力がかけられてきたんです。あ、ヤバイ! って思ったら、案外あっさり目が開いたんです」


 目の前には一人の女性……毎晩夢に出てきた、あの女性が目の前に立っていた。赤い涙を流す彼女と、ばっちり目が合った。

 彼女はもう一度私の名前を呼んで、消えていった。その後ジェラールは、久しぶりに深い眠りに落ちることができた。


「……翌朝、改めて夜のことを思い出してみたんです。本当は、全部夢の話だったって思い込みたかったんですけど……無理な話でしたよ」


 顔を洗いにいった時、自分の首に残った真っ黒な痣を見つけてしまったのだから……。


「これで俺の体験談は……って、はい? ああ夢に出てきた女性の正体ですか? ……たぶん、昔付き合ってた恋人の一人だと思います。でも、俺が別の恋人とデートしてるところを見ちゃったらしくて……去年自殺したんですよ。これで本当に俺の話はおしまいです。大した後日談もなく、すいませんね……」

「ほら、あんまり怖くなかったでしょう?」


 青年が語り終えると、誰かに呼ばれたかのようにサッと後ろを振り返った。

酷い男が書きたくなったので。

何でああいう男の方がちやほやされるんでしょうね?

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