普通に準備運動しました
朝の広場は静かだった。
依頼前の時間帯。人も少なく、風の音がよく通る。
「……始めるか」
ガチムが言うと、自然に全員が立ち位置を取った。
「ちょっと待って」
ペルペチュアが手を上げる。
「今の立ち方、音が足りない」
「音?」
アイラが首を傾げる。
「関節が黙ってる。可動域が固いまま」
「……準備運動だな」
ガチムは納得した。
「当然でしょ」
ヒンヤリも言う。
「体温、まだ低い」
「匂いも硬い」
ヌルが付け足す。
「動いてない時の匂い」
ガチムが肩を回す。
ゴリ。
ペルペチュアの目が光った。
「今の、いい。でも左右差ある」
「じゃあ、もう一回だ」
ガチムが反対側を回す。
ゴキ。
「揃った」
「何が?」
ガチム。
「音」
次にアイラが屈伸する。
ミシ。
「床との接触音はいいけど、膝が遠慮してる」
「じゃあ、深めに」
アイラがもう一度。
ポキ。
「……出た」
ペルペチュアは満足そうだった。
「その音、信用できる」
「褒められてる?」
アイラ。
「かなり」
ヒンヤリが腕を伸ばす。
スッ……パキ。
「冷え、抜けたわ」
「胸郭の音、綺麗」
ペルペチュア。
「褒め言葉なのそれ」
最後にヌルが首を倒す。
コク、コク。
「音、小さいな」
ペルペチュアが言う。
「匂い優先だから」
ヌルは気にしない。
「でも一回、背中伸ばした方がいい」
「……そう?」
ヌルが背伸びをする。
パキッ。
「今の」
ペルペチュアが静かに言った。
「今日一番」
全員が一瞬止まる。
「……準備運動、終わりだな」
ガチムが言った。
「うん、整った」
アイラ。
「音的に安全」
ペルペチュア。
「温度も問題なし」
ヒンヤリ。
「匂い、動ける」
ヌル。
そこへ通りがかった冒険者が、恐る恐る声をかけた。
「……あの、今の何してたんですか?」
「普通に準備運動」
五人同時だった。
冒険者は何か言おうとして、やめた。
代わりに、自分も軽く屈伸した。
ポキ。
ペルペチュアが振り返る。
「……今の、悪くない」
「え?」
「もう一回やる?」
冒険者は黙って走り去った。
五人は気にしない。
体は軽く、音は揃っていた。
それが、今日も普通だった。




