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普通に依頼を断りました


 昼下がりの冒険者ギルドは、いつもより少しだけ騒がしかった。

 理由は簡単だ。掲示板の前に、例のパーティが立っていたからである。

「で、この依頼だが」

 腕を組んだガチムが、紙をじっと睨む。

 紙そのものではない。視線は、無意識に自分の前腕に落ちていた。

「報酬は悪くない。だが……筋肉的に無理がある」

「え、どこが?」とアイラ。

 彼女は掲示板に貼られた紙の端を、指でつまんでいた。

 ぺらり。

 ぺらり。

「この紙、表は滑らかだけど裏がざらつくわ。長時間持つとストレス溜まるタイプ」

「そこ!?」

 思わずツッコミそうになったのは受付嬢だったが、口を閉じた。

 もう慣れている。

「音もよくない」

 ペルペチュアが言う。

 指で紙を軽く弾く。

 パチン。

「高音が出すぎ。安物。現地で似た音が続いたら集中力が削がれる」

「集中力って何に使うの?」

「判断」

 即答だった。

「それに温度」

 今度はヒンヤリ。

 彼女は掲示板の前に立ったまま、首を傾げる。

「この依頼、北側の洞窟でしょ。冷気が溜まる構造。長居すると判断が鈍る」

「洞窟だから当たり前じゃ…」

「当たり前を無視するのは、普通じゃない」

 ヒンヤリは真顔で言った。

「……匂いがだめ」

 最後にヌルがぼそっと言う。

「この依頼文、書いたやつ、焦ってる。汗の匂いが染みてる」

「紙から!?」

「あと、依頼主、女性だよね。耳の後ろ、ちゃんと洗ってないタイプ」

「関係ないよね!?」

 周囲の冒険者たちが、じわじわ距離を取る。

 ガチムは一度、全員を見回した。

「意見は出揃ったな」

「うん、客観的に見てリスク高いわね」とアイラ。

「合理的判断だ」とペルペチュア。

「普通の選択」とヒンヤリ。

「俺もそう思う」とヌル。

 ――全員、完全に本気だった。

 ガチムは受付嬢に向き直る。

「この依頼、断る」

「……理由は?」

 一瞬、全員が顔を見合わせた。

「総合的に、向いてない」

 それが結論だった。

 沈黙。

 受付嬢は何か言おうとして、やめた。

 代わりに、後ろで聞いていた一般冒険者が口を開く。

「……お前ら、何基準で冒険してんだ?」

 五人は同時に首を傾げた。

「普通に?」

 ギルド内が、静まり返った。


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