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普通に買い物しました


「市場だな」  ガチムが言った。

「人多いね」  アイラがきょろきょろする。

「音が多い」  ペルペチュアはそれだけで少し機嫌がいい。

「溶ける前に氷を買う」  ヒンヤリはもう進行表を頭に描いていた。

「……うん」  ヌルは短く頷いた。

 五人は普通に歩き出した。

 本当に、普通に。

「果物からだな」 「硬さ見たい」 「噛み応えも確認できる」 「音、転がるやつがいい」 「匂いもね」

 果物屋の前で立ち止まる。

「どれにする?」  店主が笑顔で聞いた。

 アイラが林檎を持つ。 「これ」

「理由は?」 「押した時、ちゃんと返ってくる」

「それ理由?」  店主が首を傾げる。

 ガチムが梨を持つ。 「これは噛んだ時に逃げない」

「……逃げない?」 「筋肉に誠実だ」

 店主の笑顔が少し固まる。

「音は?」  ペルペチュアが籠を軽く揺らす。 「今の、いい」

「今の?」 「果物同士の接触音」

「……そうですか」

 その横で、ヌルがぽつりと言った。

「この店、落ち着く」

「何が?」  アイラが聞く。

「空気」

「空気?」 「人多いのに、ざわつかない」

 店主が曖昧に笑う。

 会計をして、紙袋を受け取る。

「……あ」  ペルペチュアが止まる。

「どうした?」 「袋」

 持ち替える。  しゃり。

「今の、良い」 「耐えてる音」

「袋が?」 「袋が」

 店主はもう何も言わなかった。

 次は氷屋。

「これ」  ヒンヤリが即決する。

「早くない?」 「触った」

「触っただけで?」 「十分」

 氷を袋に入れてもらう。

 その時、ヌルがまた言った。

「……ここ、人の匂い薄い」

「市場なのに?」  ガチムが聞く。

「うん」 「首の後ろが一番静か」

 一瞬、時間が止まる。

「……首?」  店主が聞き返す。

「耳の後ろとか」  ヌルは普通の声だった。 「熱こもらないから」

 沈黙。

 周囲の客が、一斉にこちらを見る。

「……今の、何の話?」  アイラが小声で聞く。

「市場の話」  ヌルは真顔だ。

「市場で耳の後ろ?」 「風の通り道」

「……なるほど?」  誰も納得していない。

 市場の音が、消えた。

 呼び込みが止まり、

 袋の擦れる音もしなくなり、

 五人の会話だけが浮いている。

「買い物、終わったな」  ガチムが言う。

「終わったね」 「普通だった」 「効率的」 「静かでよかった」

 歩き出す五人の背中を、誰も追わなかった。

「……なあ」  ガチムが小声で言う。 「今の、変だったか?」

「どこが?」 「わからない」 「普通だよな」 「普通」

 市場は、しばらく再起動しなかった。


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