普通に飯を食べました
ダンジョンを出た瞬間、無言のまま全員が同じ方向を向いた。
「……飯だな」 ガチムがそう言うと、誰も否定しなかった。
「匂い的に、こっち」 ヌルが鼻をひくつかせ、迷いなく歩き出す。
「床の音も悪くない」 ペルペチュアが足音を確かめるように言う。
「温度も安定してる」 ヒンヤリは空気に手をかざし、淡々と判断した。
「椅子の感触、期待できそう」 アイラはもう楽しそうだった。
そうして入ったのが、街道沿いの小さな食堂だった。
扉を開けた瞬間、肉と油と香草の匂いが広がる。 ヌルが満足そうに息を吸う。
「うん、いい。層がある」
席に座ると、木の椅子がきしりと鳴った。 ペルペチュアの目が一瞬、輝く。
「音、合格」
料理が運ばれてきた。 最初は煮込み。
ヒンヤリが一口食べ、即座に言う。 「温度、ちょうどいい。舌を攻撃してこない」
アイラはスプーンで肉を割り、表面を眺める。 「柔らかいけど、内側に抵抗がある。触りがいあるね」
「噛み応えが少し足りない」 ガチムは顎を動かしながら真顔だ。 「筋肉が満足しきれない」
「でも匂いは最高」 ヌルが目を細める。 「口に入れる前と後で変わる」
「咀嚼音が静かすぎる」 ペルペチュアが首を傾げた。 「もう少し主張してほしい」
続いて焼き肉。
鉄板が鳴り、油が弾く。 ペルペチュアが即座に反応する。
「今の音、いい」
「この弾力!」 ガチムが嬉しそうに噛みしめる。 「筋繊維が逃げない!」
「脂の匂いが立ち上がるタイミングが完璧」 ヌルは完全に真剣だった。
「箸でつまんだ時の反発がいい」 アイラは肉を軽く揺らす。 「感触が正直」
「……少し冷め始めてる」 ヒンヤリが静かに言う。 「今が食べ頃の限界」
完全に戦術会議だった。
店主が水を持ってきたが、表情が引きつっている。
「……お味は、いかがでしょうか」
「筋肉的に優秀」 「匂いの構成がいい」 「音の完成度が高い」 「温度管理が安定してる」 「触感の完成度が高い」
店主は言葉を失った。
周囲の客が、そっと席を立ち始める。
食事を終え、全員が満足そうに立ち上がる。
「良い食事だった」 「また来たい」 「次は別メニューも検証しよう」
会計を済ませ、出口に向かう背中に、店主が震える声で言った。
「……あの……うちは普通の食堂なんで……
その……研究とかは、外でお願いします……」
外に出てから、全員で顔を見合わせる。
「普通に食べただけだよな?」 「うん」 「客観的だった」 「合理的だった」
誰一人、問題があったとは思っていなかった。




