血管、浮いてました
ギルドに、新しい依頼人が現れた。
黒いローブ。 冷静な目。 無駄のない立ち姿。
名は――ヴェイン・ルミナス。
「あなたが……ガチム・キンニクス?」
ガチムは胸を張る。 「そうだ。筋肉の連動を司る男だ」
ヴェインの目が、ゆっくりとガチムの腕へ落ちる。
浮き上がる前腕。 戦闘帰りで、血流はまだ高い。 皮膚の下で、青い線が脈打っている。
彼女の瞳が、わずかに揺れた。
「……美しい」
「何がだ?」ガチムは真顔だ。
「その橈骨動脈の走り方。前腕の静脈の分岐。収縮のリズム……完璧」
沈黙。
アイラが小声で言う。 「……新種?」
ペルペチュアが耳を押さえる。 「鼓動のテンポが早くなったよ、あの人」
ヌルが鼻をひくつかせる。 「匂い……興奮してる」
ヒンヤリは空気を測る。 「室温上昇中。原因、あの女性」
ヴェインは一歩近づく。
「力を入れて」
「なに?」
「上腕二頭筋、最大収縮を」
ガチムは困惑しつつも、自然にポーズを取る。 ギュッ、と力が入る。
血管が、浮く。
ヴェインの呼吸が止まる。
「……走っている……流れている……」
「おい」
「この血流の張り。壁の厚み。拍動の強さ。戦闘中はもっと浮くのでしょう?」
ガチムは腕を下ろす。
「当然だ。筋肉は戦いの中で完成する」
ヴェイン、うっとり。
「最高……」
ギルド長が頭を抱える。 「また増えたのか」
数日後。
ヴェインは正式に同行依頼を出した。
目的はただ一つ。
「実戦時の血管変化の観察」
ガチムは腕を組む。 「合理的だな」
「どこが!?」アイラが叫ぶ。
戦闘が始まる。
ガチムが剣を振るう。 筋肉が膨張する。 血管が浮き上がる。
ヴェインは遠巻きに双眼鏡で観察。
「来た……最大拍動……!」
「観察対象って言ってるぞあいつ」ペルペチュアが笑う。
ヌルが頷く。 「耳裏と同じ匂いだな。執着」
ヒンヤリが冷静に言う。 「温度上昇。血流ピーク」
ガチムが最後の一撃を叩き込む。
ドン!!
静寂。
ヴェインはメモを閉じた。
「やはり、あなたは理想的です」
「理想?」
「筋肉と血管の協調。無駄がない。芸術」
ガチムは胸を張る。
「当然だ」
アイラがぼそっと言う。 「狙われてる自覚あるのかな……」
夜。
焚き火の前。
ヴェインは静かに言った。
「私の理想は、血管が最も美しく浮く瞬間を見続けること」
ガチムは頷く。
「ならば鍛え続けるだけだ」
ヌルが小声。 「相性、いいな」
ペルペチュア。 「似た匂いする」
ヒンヤリ。 「温度、ちょっと高い」
アイラ。 「増えたね……仲間……」
ヴェインは微笑む。
「私は狙っています。あなたの最高到達点を」
ガチムは真顔。
「いいだろう。見届けろ」
焚き火がはぜる。
パーティはまた一人、 妙な方向に理解者を増やした。
そのとき、ガチムの足元で――
尻尾を全力で振りながら、
犬が跳ねた。
「ばう! ばう!」
なぜか嬉しそうだった。
血管は今日も、整っている。




