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整った群れになりました


俺は魔獣結構つよい。

最初に思ったのは。

「なんだこいつら」

だった。

森の小道。

俺は様子見で出てきただけだ。

いつもなら人間は二種類。

叫ぶか、斬るか。

だが、こいつらは違った。

逃げない。

武器も構えない。

代わりに――

「筋肉の付き方、悪くない」

なんで上からだ。

「歩く音、一定で心地いい」

聞くな。普通は聞くな。

「温度も適正……危険はなさそう」

いや判断早い。

そして問題は、あの鼻の男だ。

近い。

近い近い近い。

俺は一歩引いた。

だがあいつは引かない。

「……匂いが……すごい」

なにが。

なにがすごい。

耳の裏に顔を寄せるな。

普通ここ噛むぞ?

「耳の裏……完全に安定している……整っている!」

整っているって何だ。

俺は困った。

噛むべきか。

だが。

怖くない。

変だが、怖くない。

匂いが静かだ。

焦りがない。

敵意もない。

代わりに――期待?

なんで期待してる。

俺は試しに尻尾を振った。

振ってしまった。

その瞬間。

理解した。

こいつらは、恐怖で動いていない。

筋肉の男は腕を組み、

「動きが安定している。筋肉も悪くない」

音の女は耳を押さえ、

「歩く音も一定で心地いい」

冷たい空気の女は、

「体温、安定。危険域じゃない」

触る女はじっと見て、

「観察対象としては興味深い」

敵ではない。

測っている。

判断している。

そして――排除しない。

俺は座った。

鼻の男が、さらに顔を近づける。

耳裏に息が触れる。

普通なら、噛む。

だが――悪くない。

落ち着く。

群れの中でも嗅がれたことはある。

だがこれは違う。

恐慌の匂いがない。

焦りがない。

ただ――

「整っている」

その言葉だけ。

筋肉の男がうなずいた。

「認める。いいリアクションだ」

認められた。

なぜ。

俺は魔獣だぞ?

だが、そのときもう分かっていた。

この群れは、走らない。

暴走しない。

整えてから動く群れだ。

だから。

スタンピードのときも、俺は迷わなかった。

森が恐怖で満ちた。

群れが暴走する。

血と焦りと破壊の匂い。

だが。

あいつらは動じなかった。

「鼓動、正常」 「体温安定」 「裏切らない匂い」

冷静すぎる。

鼻の男が言った。

「恐慌の流れ、切るぞ」

冷たい女が空気を下げ、

筋肉の男が地面を揺らし、

音の女が崩れを読み、

触る女が進路を示す。

命令はなかった。

ただ一度だけ。

「ついてこい」

それだけ。

俺は走った。

噛むためではない。

流れを裂くために。

恐慌の匂いの濃い個体を弾き飛ばし、

崩れそうな木を吠えて知らせ、

背後から来る魔物に牙を向けた。

あいつらは俺を縛らなかった。

鎖も、命令も、恐怖もない。

ただ――

整っている。

壊れない。

だから俺は選んだ。

従っているのではない。

選んでいる。

今もだ。

夕暮れ。

空気が冷える。

「ばう」

音の女が笑う。

「今の音、きれい」

触る女が振り返る。

「今日も毛並み、整ってる」

鼻の男が満足そうに息を吸う。

「耳裏、完璧」

当然だ。

俺は、この妙な群れの一員だからな。

魔獣は群れを選ぶ。

そして今。

俺はこの群れを選んでいる。

整っているからだ。



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