普通ごっこが流行りました
スタンピードから10日後。
ギルド前の広場が妙に騒がしかった。
「見て! 筋肉の連動が美しいだろ!」
小さな男の子が両腕をぶんぶん振り回している。
「違うよ! もっと合理的に動かさないと!」
別の子が真顔で注意する。
ギルド長は遠い目をした。
「……嫌な予感しかしない」
広場の隅では、女の子が友達の肩に手を当てている。
「ちょっと動いてみて? ポキッていわせて?」
「え、やだ」
「今の音、悪くない……もう一回」
ギルド長、崩れ落ちる。
その横では別の子どもが犬に顔を近づけている。
「耳の後ろ……整ってる!」
犬「ばう?」
さらに別の集団。
「部屋の温度が上昇中よ。落ち着いて」
「ここ、滑らかすぎないか……問題なし」
もはや完全に感染していた。
そこへ当の本人たちが現れる。
ガチムが腕を組む。
「……ほう」
アイラが広場のベンチを撫でる。
「……流行ってるわね」
ペルペチュアは耳をぴくりと動かす。
「子どもの関節音、軽やか……」
ヒンヤリが空気を測る。
「熱気がすごいわ」
ヌルは静かに鼻を鳴らす。
「若い匂いだな」
ギルド長が駆け寄る。
「お前たちのせいだ!!」
ガチム「合理的な教育の結果だ」
「教育してないだろ!」
その時、ひとりの少年が駆け寄ってきた。
「見てくれ! 俺も冒険者になる!」
少年は胸を張る。
「筋肉は裏切らない!」
ガチム、目を輝かせる。
「良い素質だ」
少女がペルペチュアの前に立つ。
「私もポキポキ鳴らせるよ!」
ポキッ。
ペルペチュア、感動。
「……才能ある」
ギルド長が頭を抱える。
「だめだ……未来が心配だ……」
だが、事件は起きた。
広場の端で、小さな魔物が暴れ始めた。
低級のスライム。
子どもたちが悲鳴を上げる。
ギルド職員が動こうとした瞬間――
少年が叫ぶ。
「温度上がってる! 落ち着け!」
少女が言う。
「滑りやすい! 触感注意!」
別の子が叫ぶ。
「今だ! 連動だ!」
ぐしゃ。
連携が妙に正確だった。
スライムはあっさり拘束される。
沈黙。
ギルド長がゆっくり振り返る。
「……え?」
ガチムが腕を組む。
「合理的だ」
ペルペチュアが小さく笑う。
「音、整ってた」
ヌルが鼻を鳴らす。
「恐怖の匂いもすぐ消えた」
ヒンヤリが頷く。
「温度管理が完璧だったわ」
アイラがまとめる。
「問題なし」
犬が誇らしげに吠える。
「ばう!!」
子どもたちは目を輝かせた。
「やっぱり普通の冒険者ってすごい!」
ギルド長は天を仰ぐ。
「……普通って何だ……」
広場ではすでに次の遊びが始まっていた。
「次は“匂いごっこ”だ!」
「俺、筋肉役やる!」
「私は音役!」
完全にシリーズ化している。
ガチムが静かに言う。
「未来は明るいな」
ギルド長が震える声で返す。
「いや、方向性が怖い」
ペルペチュアが笑う。
「普通が広がっただけだよ?」
アイラが頷く。
「更新されたの」
ヒンヤリが静かに締める。
「街の温度、上昇中ね」
ヌルが小さく笑う。
「悪くない匂いだ」
夕日が差し込む広場。
子どもたちの声が響く。
犬がもう一度、高らかに吠えた。
「ばう!!」
――こうして街では、
“普通ごっこ”が大流行した。
ギルド長だけが、まだ理解できていなかった。




