普通に戻れませんでした
スタンピードを止めた3日後。
ギルドホールは花束と横断幕で埋まっていた。
『英雄たちに感謝を!』
『街を救った五人と一匹!』
拍手。歓声。子どもが犬を撫でている。
犬は誇らしげに「ばう!」と一声。
だが――
当の本人たちは、いつも通りだった。
ガチムは壇上で腕を組み、真顔。
ペルペチュアは床板を軽く踏み鳴らして音を確認。
ヌルは壁際で鼻をひくひく。
アイラはカウンターの布を撫でている。
ヒンヤリは空気をすっと触る。
ギルド長がこめかみを押さえた。
「……お前たち」
全員が振り向く。
「今日はだな、街の者が“安心”したい日なんだ」
静まり返るホール。
ギルド長は指を一本立てた。
「頼むから今日は――普通でいろ」
沈黙。
「英雄らしく、こう……“皆さんの力があってこそです”とか言え」
「筋肉の話をするな」
ガチム「……え?」
「壊れる音が整っていた、とか言うな」
ペルペチュア「え?」
「耳の裏の匂いが実った果実みたいだった、とか絶対言うな」
ヌル「それは事実だ」
「事実でも言うな!」
ギルド長は机を叩いた。
「いいか!? 普通だ! 普通の英雄だ!」
ヒンヤリが小さく手を挙げる。
「……普通の室温は何度基準ですか?」
「温度の話もするな!」
ギルド長、崩れ落ちる。
「頼む……頼むから今日は、街に安心を与えてくれ……」
そして壇上。
町人代表が涙目で言った。
「本当に……ありがとうございました……!」
大きな拍手。
ガチムが前に出る。
「筋肉の連動が美しかっただけだ」
「……え?」
ペルペチュアが一歩出る。
「壊れる音が整ってただけ」
「……え?」
ヌルが真顔で続ける。
「匂いが熟していた」
「……え?」
アイラが優しく微笑む。
「触感も問題ありませんでした」
「……何が?」
ヒンヤリが空気を触りながら言う。
「皆さん、落ち着いて。今、部屋の温度が上昇中よ」
ギルド長が頭を抱える。
「戻れ!!普通に戻れ!!」
その瞬間、アイラが首をかしげた。
「……普通に戻るって、どういう状態かしら」
ペルペチュアがくすっと笑う。
「私たち、何も変わってないけど?」
ガチムが胸を叩く。
「筋肉はさらに高みに行った」
ヌルがうなずく。
「匂いも進化した」
ヒンヤリが静かに言う。
「温度も整ったわ」
アイラは真剣に考え込む。
「……つまり、“普通”が更新されたのでは?」
ギルド長、絶句。
町人、ざわ……ざわ……
子どもが犬に聞く。
「ねえ、あの人たち変?」
犬「ばう!」
誇らしげである。
その様子を見て、ギルド長は深くため息をついた。
「……もういい。ギルド公認だ」
「え?」
「お前たちはもう“普通じゃない英雄”として登録する」
ホールが静まり返る。
ガチムが腕を組む。
「合理的だ」
ペルペチュアが笑う。
「悪くない響き」
ヌルが鼻を鳴らす。
「肩書きの匂いも悪くない」
ヒンヤリが頷く。
「公認……温度安定」
アイラがまとめる。
「つまり、私たちは普通の冒険者だということね」
ギルド長は遠い目をした。
「……そういうことにしておけ」
外ではまだ拍手が続いている。
英雄扱い。
だが本人たちは一切変わらない。
普通に戻れなかったのではない。
最初から、これが普通だったのだ。
犬が高らかに吠える。
「ばう!!」
ギルド長がぽつりと呟く。
「お前達が普通でさえいれば…俺の上からの評価も」
パーティは首をかしげた。
「何か問題でも?」
ギルド長は空を見上げた。
「いや……もういい……」
――こうして彼らは、
街公認の“普通じゃない普通の冒険者”になった。




