普通の話し合いをしました
普通の話し合いをしました
ダンジョン前。
石造りの入口を前に、俺たちは円陣を組んでいた。
「まずは作戦を立てよう」
剣士のガチム・キンニクスが腕を組む。
筋肉の塊みたいな男だが、本人は理論派のつもりでいる。
「正面突破は避けたい」
「理由は?」
俺――ヌル・フェチオが聞くと、ガチムは真剣な顔で答えた。
「入口付近の敵、筋肉の張りが不自然だ。
無理な力の入れ方をしている。
つまり、奇襲を想定している可能性が高い」
なるほど。
筋肉フェチの意見だ。
「同意見ね」
魔法使いのアイラ・スベスベリアが頷く。
「床の魔力、触るとザラついてる感じがするわ。
あれは踏むと嫌な感触になるタイプ」
罠の話をしているらしい。
触感フェチの判断だ。
「音もおかしいわ」
回復役のペルペチュア・オトミミが耳に手を当てる。
「反響が均一すぎる。
人がよく通る場所の音じゃない。
何か仕込まれてる音」
音フェチである。
「それに、入口周辺だけ空気が冷たい」
斥候のヒンヤリ・サラサラが淡々と言った。
「冷気が溜まってる。
風の流れが悪い。
長居すると良くない」
温度と湿度フェチだ。
全員の視線が、自然と俺に集まる。
「ヌルは?」
「……臭い」
「臭い?」
「うん。
湿った土と、焦げた金属の匂いが混じってる。
好きじゃない」
完全に匂いフェチの直感だった。
少しの沈黙の後、ガチムが頷く。
「つまり――」
「正面は危険」
「右ルートも避けるべき」
「左から回り込み」
「短時間で突破」
「臭くない方へ」
全員の意見が、ぴたりと一致した。
「論理的だな」
ガチムが満足そうに言う。
「ええ、客観的判断ね」
アイラも冷静だ。
「感覚に頼らず、状況を整理した結果よ」
ペルペチュアが微笑む。
「普通の会議」
ヒンヤリも頷いた。
(……どこがだよ)
俺は思ったが、口には出さなかった。
少し離れた場所で、別の冒険者パーティがこちらを見ていた。
どうやら会話が聞こえていたらしい。
「なあ……」
「今の聞いたか?」
「ああ……」
彼らはヒソヒソと話し始める。
「筋肉の張りで判断って何だ?」
「床の触感?」
「音が死んでる?」
「空気が冷たいから撤退?」
「最後、臭いって……」
全員、顔が引きつっていた。
「……上級者すぎないか?」
「俺たちには真似できねぇ……」
「近づかない方がいいな……」
そう言って、静かに距離を取る。
その様子を見て、ガチムが首を傾げた。
「何かおかしなこと言ったか?」
「いいえ、普通よ」
アイラが即答する。
「常識的な会話だったわ」
ペルペチュアも同意する。
「判断基準が明確だった」
ヒンヤリも淡々としている。
俺は心の中で呟いた。
(全員フェチの話をしてただけなんだけどな……)
だが、誰一人として疑問に思っていない。
こうして今日も、
このパーティは普通の話し合いをして、
普通に危険を回避した。
なお、周囲からは
変な連中だと思われている。
本人たちは、まったく気づいていないが。




