普通に冒険者新人教育しました
ギルド新人教育の予定日前日。
本来担当だった冒険者が魔物の一撃で負傷。
当日、代打として呼ばれたのが――よりによって、彼らだった。
「俺たちは普通だ。問題ない」
ガチムが胸を張る。
新人は五人。目を輝かせ、未来の英雄を夢見ている。
ギルド職員は一瞬だけ迷った顔をしたが、すぐに目を逸らした。
「……よろしくお願いします」
①ガチムの基礎講座
「まず覚えるべきは、自分の筋肉の名前だ」
新人①「……え?」
「上腕二頭筋? 甘い。俺は“決断の二頭”“突破の三角”“裏切らない広背”と呼んでいる」
新人たちは必死にメモを取る。
「筋肉に名前をつけろ。そうすれば裏切らない」
新人②が小さく呟く。
「俺の腹筋……“不屈の六枚”……」
目が輝いている。
②ヌルの斥候学
「斥候に必要なのは視界じゃない。耳の裏だ」
新人③「耳の裏……?」
「戦闘前、人は緊張で匂いが変わる。耳の後ろは真実を語る」
新人たち、互いの耳裏を嗅ぎ始める。
「……なんか違う!」
「いや、わかるかもしれない!」
ヌルは満足げに頷いた。
「整っている。いい新人だ」
③アイラの魔法理論
「魔法は詠唱ではない。触感よ」
新人④「触感!?」
「魔力の流れは布の滑らかさと同じ。ざらつけば暴発、すべすべなら安定」
新人たちは杖を撫で始める。
「……先生、これ少しザラついてます!」
「危険ね。磨きなさい」
新人の一人が、杖を布で磨き続ける。
目が完全に“目覚めて”いる。
④ヒンヤリの環境制御
「戦場は温度と湿度よ」
新人⑤「そこまで見るんですか!?」
「湿度が上がれば集中は落ちる。温度が一度違えば判断が鈍る」
新人たち、無言で室内の空気を感じ始める。
「今、少し暑い……」
「湿度が重い……!」
ヒンヤリは満足そうに頷いた。
「いい感性。あなた達、伸びるわ」
⑤ペルペチュアの身体調整
「最後はストレッチね」
新人たちを並ばせ、屈伸、肩回し、背伸び。
ポキッ。
ミシッ。
ペルペチュアの瞳が輝く。
「ふふ、今の音……もう一回」
新人が自発的に鳴らす。
ポキポキポキ。
新人⑤が呟く。
「……なんか、癖になりそうです」
目が完全に開いている。
訓練終了。
新人たちは深く礼をした。
「これが……冒険者に必要なスキル……!」
ガチムは頷く。
「普通だ」
ヌルが鼻を鳴らす。
「いい匂いの未来だ」
アイラは新人のローブを撫でる。
「滑らかさも育つわ」
ヒンヤリは空気を整える。
「温度、安定」
ペルペチュアは小さく拍手した。
「いい音だった」
そのとき、魔物犬が尻尾を振りながら新人に近づく。
新人①が目を輝かせる。
「魔物を仲間に……!? さすが上級者……!」
五人は完全に尊敬の眼差しだった。
こうして――
五人の新人は、それぞれ新たな“感覚”に目覚めた。
筋肉に名前を付ける者。
耳裏の匂いを読む者。
魔法を撫でる者。
湿度を語る者。
音を鳴らす者。
ギルドはまだ知らない。
この弟子たちと共に、彼らが本気を出すことを。
そしてスタンピード――魔物氾濫を、五感で制圧することを。
これは、その前日譚である。




