普通に筋肉と会話しました
ガチム・キンニクスは森の奥でストレッチを始めた。
「よし、パワーガード、今日も張りがいいな」
胸筋に向かって話しかける。筋肉が答えるわけではないが、ガチムにとっては反応が返ってきたように感じる。
「アサルトブレイカー、昨日の訓練お疲れ」
二頭筋を軽く叩き、伸ばす。アイラが横で眉をひそめる。
「……また始まった」
「うん、普通の冒険者なら当然の儀式だろ?」ガチムは笑う。
「……儀式?」ペルペチュアが耳を押さえつつ小声でつぶやく。「普通に聴覚拷問」
ガチムは腕を回す。
「カールマスター、今日も完璧に張ってるな。準備はいいか?」
「……準備って、何に?」ヒンヤリが首をかしげる。
「戦闘のために決まってるだろ」
「でも、筋肉と会話してるだけじゃ……」ヌルは鼻をヒクヒクさせる。
「筋肉の反応は正直だ。準備不足なら俺に知らせる」
ガチムは背筋に手を回し、ささやくように話しかける。
「バックブレイカー、今日も頼むぞ。敵に負けるな」
アイラがつぶやく。「……魔法より筋肉を励ます方が優先?」
「もちろんだ。筋肉が安定してこそ魔法も効く」ガチムは胸を張る。
ガチムは腹筋に視線を落とす。
「コアタンク、柔軟性を維持せよ」
ペルペチュアが耳を押さえ、「歩く音まで聞こえる…集中できない」
「フフ、音フェチも心配無用だ。筋肉の張りが正しければ君の耳も安心だろう」
ガチムは腿に手を置く。
「ストライクランナー、今日も弾力が完璧。踏み込みを間違えるな」
ヒンヤリは手元の温度計を見ながら呟く。「……筋肉の温度を測ってる?」
「いや、心配は無用」ガチムは笑う。「筋肉が冷えても、俺が温める」
そして最後に肩を回す。
「ガーディアンショルダー、今日も守ってくれ」
「守る? 肩が?」アイラが呆れる。
「肩も戦士だ。全員、名付けられ、尊敬されるべき存在だ」
ヌルは鼻をヒクヒクさせる。
「……匂いは確かに安定してる」
ペルペチュアは耳を押さえながら微笑む。「音も……まあ、悪くない」
ヒンヤリは冷静に空気を読みつつも、「温度は少し低めだけど……筋肉の指示通りか」
ガチムは全身をぐっと伸ばし、満足そうにうなずいた。
「よし、全員、今日も任務に備え完璧だ」
森の中、パーティは静かに見守る。
誰も文句は言わない。なぜなら――ガチムにとっては全員の筋肉が最重要で、全員の筋肉を労るのが普通だからだ。
ガチムは笑みを浮かべながら歩き出した。
「行くぞ、普通の冒険者たち……いや、筋肉を愛する戦士たちよ!」
パーティは笑いをこらえつつ、今日も極めて常識的に、極めて変態的に冒険を続けた。




