普通に出禁になりました
冒険者ギルドの朝は早い。
掲示板の前に人が集まり、酒場スペースでは昨夜の愚痴が続いている。
その中央に、例の五人はいた。
「今日は依頼、選び放題だな」
ガチムが肩を回しながら言う。
筋肉がきしむ音に、ペルペチュアが反応した。
「今の音、良い。乾いてて無駄がない」
「でしょ?」
ガチムは満足げだ。
「ちょっと待って」
アイラがテーブルに置かれた木製カウンターを撫でる。
「この表面、最近削り直したわね。前より指に吸い付く」
「ほんと?」
ヒンヤリが手を置く。
「温度も安定してる。人の出入りが多い割に冷えすぎてない」
「匂いも悪くない」
ヌルが深く息を吸う。
「酒、汗、革。混ざってるけど主張しすぎない。あと――」
受付嬢の方をちらっと見る。
「今日は耳の後ろ、ちゃんと拭いてる」
受付嬢の手が止まった。
「……何の話?」
「事実の確認」
ヌルは真顔だった。
その瞬間、背後から低い咳払いが聞こえた。
「お前たち」
ギルド長だった。
「ちょっと奥に来い」
「呼び出しだな」
ガチムがうなずく。
「評価面談かしら」
アイラも前向きだ。
「音的に、叱責ではない」
ペルペチュアが分析する。
「室温、低め。冷静な話し合い向き」
ヒンヤリも続く。
「緊張の匂い、ない」
ヌルが締めた。
――全員、完全に安心していた。
奥の部屋で、ギルド長は深く息を吸った。
「単刀直入に言う。
お前たちは、今日で出禁だ」
沈黙。
「……理由は?」
ガチムが聞く。
「理由が多すぎる!」
机を叩くギルド長。
「依頼主を泣かせるな!
周囲の冒険者を困惑させるな!
受付に“耳の後ろ”の話をするな!」
「え、褒めただけだが」
ヌルが首を傾げる。
「紙の音が気になるって言っただけよ」
アイラも不思議そう。
「音の質は重要だ」
ペルペチュアは譲らない。
「温度管理は安全に直結する」
ヒンヤリも真剣だ。
「筋肉に合わない仕事は効率が落ちる」
ガチムが結論を出す。
ギルド長は頭を抱えた。
「……自覚は?」
「何の?」
五人同時だった。
「普通に冒険してるだけだが」
ギルド長は椅子にもたれ、力なく言った。
「……分かった。
お前たちは“悪い冒険者”じゃない」
「ほう」
「むしろ、優秀だ」
五人の目が少し輝く。
「だがな」
ギルド長は真っ直ぐ告げた。
「このギルドには向いてない」
沈黙のあと、ガチムがうなずいた。
「合理的判断だな」
「環境が合わないだけね」
アイラも納得。
「音が合わなかった」
ペルペチュア。
「温度差は仕方ない」
ヒンヤリ。
「匂いも、もう変わってきてる」
ヌル。
五人は立ち上がった。
「じゃあ失礼する」
去り際、受付嬢がぽつりと言った。
「……もう来ないでくださいね」
「安心しろ」
ガチムが親指を立てる。
「普通に、出禁だからな」
扉が閉まったあと、ギルド内は長い沈黙に包まれた。
誰かが小さく呟く。
「……あいつら、自分たちが変だと思ってないよな」
外では五人が歩きながら話していた。
「次、どこ行く?」
「普通に別のギルド」
「音が良さそうなところ」
「温度安定してるとこ」
「匂い、重要」
――今日も、彼らは普通だった。




