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第2話:知らない世界

 ぱっぱー!とけたたましい音と共に、すぐ目の前をぶぉんと何かが過ぎ去っていく。なんだろう、とそれを見ようとして、身動きが取れない事に気付く。柔らかい感触。誰かに抱えられてるような。


「………死にてぇのか」


 間近で、声だけで人を殺せそうなドスの効いた声がする。なにこれチョー怖い。体が解放されて、私は漸く相手を見た。


「あっ……………の、」

「怪我はねぇか」

「は…?」

「怪我はねぇかって訊いてんだバカヤロウ!!」

「ひっ、ひゃいっ、ありません!!」


 怒鳴られて、思わず気をつけの姿勢で私は答える。なんなのこの人。なんでイキナリ怒ってんの!?

 年の頃は、お兄さんとはとても言えないが、お爺さんと言うにはまだまだ早いだろうってぐらい。オッサン?オッチャン??って呼ぶのが丁度いいだろうか。頭を角刈りにして、白い綿の上下に腹巻きを巻いている。似たようなのがアンディーの村にもいたなぁ……その人は額に捻り鉢巻をして、魚屋をやっていたが。

 そして何よりその、目。なにこの眼力。マジで2~3人ほど殺ったことあるんじゃないだろうか。コワイヨー。


「おら、ぼさっと突っ立ってんな、往来の迷惑だろうが」

「あ、あの、わたし…?」

「あァん!?」

「ごめんなさいッ!!」


 条件反射で謝ってしまう。コワイヨー。


「だから、何だ」

「私、どうしてこんな所にいるんでしょう?ていうか、そもそもここは何処なんです?」

「どうした、車に跳ねられかけて頭でも打っちまったか」

「車って………あの凄いスピードで走ってる塊ですか?」


 指差した先をビュンビュンと車という物が走り抜ける。よく見たらあの中に人がいる。よく振り飛ばされないものだなぁ、馬より速いのに。


「…………………熱はねぇな」

「ぎゃっ!何するんですか!?」

「デコに手ぇ当てただけでギャーギャー抜かすなっての」


 熱を計られて、訝しげにオッサンが見てくる。そりゃ怪しいでしょうよ。私だって何がなんだか分からないもん。

 よくよく風景を見てみれば、私の知らないものばかりで溢れていた。走る鉄の塊もそうだけど、例えば十字路の角にある看板。【止まれ】って何屋さんなんだろう。でも周辺に店らしきものもないしなぁ。あと、建物が全体的に全部でかい。そして背も高い。どうやったらあんな高くてでかい建物ができるんだか。


「……とにかく、怪我がねぇならいい」

「大丈夫です。えっと……助けて下さったんですよね?ありがとうございます」

「あんな道路の真ん中で突っ立ってりゃ誰だってビビるっての……おーいて、」

「オッサ……んんっ、お兄さんが怪我してるじゃないですか!」


 流石に本人に向かってオッサンはよくない、うん。慌てて言い直してオッサンが気にしている肘を見ると、擦ったのか血が滲んでいた。


「す、すいません!」

「あァ?こんなのかすり傷だろ」

「今すぐ治しますね!!」


 放っておいて化膿されても大変だし、何より私のせいでって恨まれるのが一番怖い。この人、逃げても地の果てまで追いかけてぶっ殺すって顔してるもの。



治癒(ケア)



 擦りむいた肘に手を翳して呪文を唱えると、青く淡い光が傷を包み込むようにして。ものの数秒で、肘の擦り傷は跡形もなく消えていた。

 怪我の状態にもよるが、かすり傷なら数秒、骨折や内蔵損傷などでも数分~数十分で治せる。また、咳や鼻水や喉の痛みなど、怪我ではなく病気の方には【治療(メディ)】という魔法を使う。老衰などには効果はないが、大体の病はこれで治せる。治療(メディ)の方が使う魔力も呪文も複雑で、正直めんどくさいのだが。おかげでアンディーの村では唐突な即死事故以外は老衰で大往生がほとんどだった。


「はい、これで大丈夫です!」

「…………おめぇ………」


 唖然とした顔で私を見ていたオッサンは、一瞬で人殺しの顔に戻ると。


「ちょっとこっちに来い」


 私は襟首を掴まれて、オッサンの背後にある建物にズルズルと引き摺られた。




 これは私、人買いに売られるフラグですかァァァ!?


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