表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

戦場で、僕は一人も殺せずに戦死すると思っていたのに

 僕が大人になった頃、戦争が始まった。戦争は多数決を取ると大体は反対する人の方が多いそうだ。「友達や恋人が死に、足や手がもげ、一生苦しみ続けるのを望むか?」と質問されたなら、大体の人は「嫌だ」と答えるだろうから、これは当たり前に理解できる。“戦争”とは、そーいった事が高確率で起こるものなのだから。

 では、何故戦争が始まるのかと言えば、自分達にはほとんどリスクがなく、責任も取らないで済む立場の人達が上の方にいるからだ。犠牲になるのは他の誰か。なら、戦争をしたって別にいいか。そんな風に考えている人達が。

 つまりは、そんな連中の為に、僕らは戦争に行かされる訳だ。誰も殺したくない僕らが、誰も殺したくない敵兵達と殺し合いをさせられる。

 いくらなんでも理不尽過ぎる。

 ――誰も?

 否、殺したい人間なら僕にだっているかもしれない……

 

 僕は子供の頃から喧嘩が弱かった。それは身体がそれほど大きくないからでもあったのだけど、それ以上に誰かを殴る事すらできない意気地なしだったからだった。

 そんな体たらくだから、戦場で、僕は一人も殺せずに戦死すると思っていた。思っていたのに……。

 

 夢を見ているようだった。

 そこはジャングルの中の小さな村で、気が付いたら僕は多数の敵兵士を殺していた。戦闘能力が高くない僕がそのような戦果を上げられたのは、卑怯で卑劣な戦略を思い付いたからだった。そして、人を殴ることすらできない僕が、そのような戦略を執れたのは、僕がドラッグで酩酊状態にあったからだった。

 人は簡単には人を殺せない。だから、軍は兵士にドラッグを投与し罪悪感を麻痺させたのだ。

 僕は知らなかったのだけど、そのような手段は戦争において頻繁に用いられているらしい。

 ドラッグによる快感で、正常な判断力を失っていた僕は、まるで面白いパズルゲームでも解くようにその戦略を実行した。敵に対する憎悪も何もなかった。ただただそのゲームに勝つことだけを考えたんだ。

 だけど、ドラッグの効果が切れた瞬間に信じられない程の罪悪感が僕を襲った。

 “……どうして僕は、こんな事をしてしまったのだろう?”

 あまりの衝撃で呆然となった。

 自分がしてしまった罪に苦しみ、僕は自殺を決意した。

 だけど、死ななかった。

 死が恐ろしくなったから?

 違う。

 死のうと思っている時に、こんな話が飛び込んで来たからだ。

 

 「お前に勲章が授与されるらしいぞ」

 

 その勲章授与は、どうも軍のトップが直々に行うらしい。

 

 ――勲章授与式。

 目の前には髭面のいかついオヤジがいた。

 僕らにしたくもない殺し合いをさせた張本人。

 僕が殺したいと思っている数少ない人間の内の一人。

 その男から、勲章が僕に渡される。勲章が手に触れた瞬間、自然と僕の手が動いた。隠し持っていた拳銃を握ると、そのまま素早く頭を撃ち抜く。

 即死だったろう。

 きっと。

 会場は騒然となり、直ぐに僕に向かって銃弾が放たれた。胸やわき腹にそれらは当たった。激痛が走る。まだ意識はあったがきっと致命傷だ。もう助からない。

 

 こいつが死ねば、戦争は終わる。

 そう思って僕はこの男を殺そうと心に決めたのだ。どうせ死ぬのなら、意味のある死に方をしようと。

 ……でも、

 とも思う。本当にこの男が戦争の原因だったのだろうか? この男が死んでも、代わりの誰かがこの男の位置に就き、そして戦争は継続されるのではないか?

 もしそうなら、本当に必要なのは、そのような構造そのものをなくす事なのかもしれない。

 ただ、いずれにしろ、もう全てが手遅れだった。

 僕はこのまま終わるのだから。

 そして、意識が真っ暗になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
タイトルと、作者名の(難しい童話)という言葉に惹かれてやってきました。 ドラッグで酩酊しているときの少年の心理描写部分が特に好きです。 千文字程度に簡潔にまとまっており、短いながらも感情が大きく動かさ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ