白の過去
第5話 白の過去
「まあ、なんて綺麗な白なのかしら。まるで幸せの象徴ね」
僕は背筋を伸ばし、堂々とした佇まいで座った。
僕の褒め言葉は全て正しい。
僕を否定する言葉は全部間違い。
だって、僕は今、とっても幸せだから。
「白、お客さんよ。しっかり今日もお告げを聞かせてね」
そうご主人様が言い、扉を開かれると若い男が中に入ってきた。
「白様、親友を助けるお告げを下さい。私の親友はSNSで誹謗中傷を繰り返していました。その結果、開示請求を受けました。このままでは、親友の社会的地位も無くなってしまいます。どうにかならないでしょうか?」
僕は話を聞き終わると、いつものように何も考えずに鳴いた。
「白様は、あなたが「親友のスマホを使って誹謗中傷をした」と庇いなさいと仰っています」
「え!?そんなことをしたら私の社会的地位が失われてしまいます」
「その程度で見捨てるなら親友ではありません」
「しかし…よく考えさせて下さい」
「またのお越しをお待ちしております」
「…やったわね!白、今日も白のおかげで随分稼げたわ。やっぱり白は幸せの象徴ね」
僕は得意気に背筋を伸ばす。
「私や白を虐待するお母様から逃げて、路上生活をしていた時は、こんなに裕福な暮らしができるとは、思わなかったわ。路上生活していた時も、白が居たから幸せだったけれどね」
ご主人様が僕の頭を撫でた。
その時、昔、僕を庇って熱湯を被った時の火傷の跡が見えた。
僕はその火傷の跡を舐める。
「ふふ。じゃあ、白のご飯を買いに行きましょうか」
僕はキャリーケースに入ると、ご主人様と一緒に買い物に向かった。
その1ヶ月後、僕はいつものようにお告げを終えると、ご主人様とニュースを見ていた。
ご主人様は様々な悩みに対応するため、ニュースで勉強していた。
勉強と言っても、流れる時間は穏やかで疲れるお告げの合間に訪れる、リラックスできる時間でもあった。
しかし、1つのニュースがその時間を壊す。
『次のニュースです。〇〇市の男性27歳が自宅で首を吊っているのを発見しました。』
ご主人様は真剣な目で口を開いた。
「悩み事で死を選んじゃう人も居るんだから、悩みを聞く私達も気をつけないとね。間接的にでも人殺しにはなりたくないわ」
『遺書には、「兄弟同然である親友を庇って誹謗中傷の犯人になったが、その後の家族の視線や会社での態度に耐えられなくなった。当の本人である親友はそんな私の状況を見て見ぬふりをして絶望した」と記されています』
「…え?この、自殺した男の人って…」
状況があまりにも酷似しすぎていた。
自殺した男は以前、お告げに来ていた男性だと、疑いの余地が無かった。
「そんな…私のせいで…」
ご主人様は酷く動揺していた。
僕はご主人様の膝の上に乗る。
「白…そうよね…今更、後悔したって遅いわ」
ご主人様はそういうと自室に引きこもってしまった。
それからだ、ご主人様が自責の念に囚われ、おかしくなったのは。
お告げの時も常にビクビクするようになって、お告げの時間以外は自室に引きこもって
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
と謝罪の言葉を繰り返した。
そんなご主人様に元気になってもらおうと、僕はネズミを狩ってきた。
(ご主人様!見てみて!)
僕はネズミをご主人様に見てもらおうと、ご主人様の自室に向かって歩き出した。
珍しくドアは開いており、中に入ると、ご主人様は首を吊っていた。
僕は加えていたネズミを落とした。
ネズミはどこかに走り去っていった。
僕はご主人様の遺書を読めなかった。
ただ、1つ気づいたことがある。
人間は安易な考えで、人を傷つけ、その罪を知った時、耐えられなくなって死を選ぶ。
死がご主人様の救済になったのなら、僕はそれを肯定しよう。
そして、ご主人様以外の人間が居なかったら、ご主人様は死んでいなかったことを恨もう。