崖っぷち魔法使いの学園無双。臭い魔法が最強でした〜今日もツンデレさんと色々開発中〜
「くっせぇ〜!!」
「なんじゃこらぁ」
あちこちから悲鳴があがる。
国立箱根魔法学園
通称箱根魔法学園
その高等部校舎から少し離れた、第1研究棟の1室が吐き気をもよおす匂いの元のようだ。
水色の髪と瞳が印象的な美少女、一年生筆頭の水上 真凛は、幼馴染でもある、同じく一年生の新発田 明に、ハンカチで口元を覆いながら詰め寄った。
「ちょっと! 明君! 今度は何をしでかしたのよ!」
「え? 俺また何かやっちゃいました?」
「思いっきり悪臭を漂わせているじゃない!! 自分でわかってるでしょ!」
「いや〜、まさかこんな事になるとは……」
「この間の君が開発した、鑑定魔法を付与したメガネ型魔道具の実証実験の時にも問題を起こしたんだからね! いい加減にしないと変なあだ名だけじゃなくて、いじめられちゃうかもしれないんだから!」
「あれは魔道具自体は大成功だったんだ。つい調子に乗って会う人すべてに『フッ戦闘力たったの5か、ゴミめ』とか、つぶやいちゃったのがまずかった」
「当たり前でしょ!」
「おかげで、『ゴミ太』なんて呼ばれるようになってしまった。新発田のたは田んぼのたなのに・・・」
「自業自得です。で、今度はなんでこんなに臭いの?」
「よくぞ聞いてくれました! ついに俺は人類の夢だった『アイテムボックス』の開発に成功したんだ!」
「アイテムボックス? ゲームとかラノベでよく出てくるあのアイテムボックス?」
「そうだ! そのアイテムボックスだよ!」
「凄いじゃない! それが本当なら15才にして『ノーベル魔法学賞』の受賞は間違いないわ!」
「だからホントだってば!」
「アイテムボックスの開発なのになんでこんなに臭いのよ?」
「それはな……」
◇◇◇
2020年
日本近海の無人島に外宇宙より飛来した小隕石が落下した。
その隕石は日本の研究機関に引き取られたが、研究開始以降、原因不明の熱病が発生し次々と感染者を増やしていった。
後にその感染源となる未知のウイルス、通称Xウイルスが発見された。
子供が重症化することはめったに無いのだが、まれに高熱を出す者もおり、熱が引くと特徴ある変化をおこす者も出てきた。
髪や目の色が変化し、いわゆる超能力のような特殊な力を発現したのだ。その幅広い能力の種類から、その現象は『魔法』とよばれ、それを操る者は『魔法使い』とよばれた。
不思議なことに魔法使いとなる者は15才以上には現れなかったため、魔法使いを一箇所に集めて特別教育する事が国により急遽決定された。
2025年 1月
日本トップクラスの発明家、新発田 開の自宅兼研究所内、新発田家地下ラボにて。
「しっかし、明。お前はぜんぜん魔法使いにならねえなぁ」
「そもそも俺は風邪なんかひいたことないんだから、魔法使いになれるわけねえだろ! いいんだよ、俺は父さんみたいな発明家になるんだから!」
「お隣の真凛ちゃんなんて、10才で能力を発現して『ファーストチルドレン』なんて呼ばれて世界一有名な女の子になったっていうのに」
「だからいいんだって! そもそも魔法使いになったら全寮制の箱根魔法学園にいかなきゃなんねえんだろ? それよりもここで父さんの仕事手伝いながら経験つんだほうがいいんだよ!」
「おまえももうすぐ15才になるしな、こりゃ魔法使いは無理か。ん!? そこの組み合わせ間違ってるぞ。さっきからどうした?」
開は明の額に手を当てる。
「おまえ……熱があるぞ、かなり高そうだ。今日はもういいから部屋に戻って寝てこい」
「わかったよ」
「馬鹿は風邪ひかないって言うけど、お前は馬鹿じゃなかったんだな」
「うるせぇ!」
―― 3日後 ――
「すっかり熱もひいたな明。お前は髪の色もそのままだし、やっぱり魔法使いにはなれなかったみたいだな」
「それがな、父さん。なんか変なんだよ」
「心配するな、もとからだ」
「そうじゃねーよ! そうじゃなくてだな、何かこうイメージがわいてくるんだよ。自分の力の可能性というか……」
「なんだ、もうすぐ中学生は終わりだというのに、もう1年、中二をやり直すのか?」
「だから違うって! 真面目に聞いてくれよ!」
「わかったわかった、それって魔法使いの初期症状じゃないのか?」
「えっ!? そうなの?」
「そうらしいぞ、『BOX』庁からの発表で、4年前はけっこうニュースで大騒ぎになっていた」
「『bionic』(生体工学)•『ordeal』(厳しい試練)•『Xvirus』(エックスウイルス)』でB•O•Xだっけ?」
「さすがにそれぐらいは知ってるか。初期症状の話真凛ちゃんから聞いたことないのか?」
「真凛は4年前からは箱根魔法学園の初等部に転校しちゃったし、あまり話したがらなかったから聞いてないよ」
「そうか、まぁいい。元気なら明日BOX庁に行って詳しく調べてもらうぞ。本当に魔法使いになってたら今までの傾向から詳しく自分の系統を教えてもらえるらしいからな」
翌日、BOX庁能力鑑定課にて明の系統は『無属性』、能力は全魔法使い中初の『魔法開発』だという事が判明した。
そして4月からは、全寮制の国立箱根魔法学園の高等部へと入学する事が決まった。
「それにしても『魔法開発』魔法か。正直うらやましいぞ。研究者からすれば一番良い魔法なんじゃないか? 夢が広がるな。地味だけど」
「地味って言うな! どんな魔法が開発できるのか、俺も今から楽しみだな。魔法の開発がはかどるように、まずは鑑定魔法から始めたいんだよな」
「まぁ、それはお前が好きにすればいいさ。その後はどうするんだ? 『魔法開発』の名前の響きからしたら何でも出来そうな気もするけど、便利な生産系を目指すのか? それとも最強系を目指すのか?」
「どっちもに決まってるだろ。俺も男だ、最強の魔法の開発なんてロマンがひろがる!」
「ならここはやはり、時空間魔法じゃないか? ディ○様みたいに時間を止めて『無駄無駄無駄〜!』って俺がやりたい!」
「完全に父さんの趣味じゃねえか! でも良いな、時空間魔法。そうだな、鑑定魔法の次はロマンを求めて時空間魔法の開発をしてみるか」
2025年4月
国立箱根魔法学園 高等部入学式
新入生代表として挨拶を終えた真凛が自分の列に戻る途中、明と目が合い微笑みかけた。
それを目ざとく見付けた暗い茶色の瞳をした男がいた。髪も茶色でヤンキー然とした態度の悪い男だ。その男の名は土田 力という。
クラス分けが発表され、最初のホームルームが終わると真凛が話しかけてきた。
「明君、久しぶりに同じクラスだね♪」
「俺は高校デビューで完全にアウェーだから、一人でも知ってる人がいて嬉しいよ。真凛と同じクラスで良かった」
「明君の魔法はレアだから目をかけてもらってるみたいだね。学園生の中では攻撃魔法使いが一番偉いみたいな風潮があるけど、先生や国はむしろ無属性の特殊な能力の方を高く評価してるみたいだよ。ほら自然現象は科学でも代用出来るものが多いじゃない?」
「なるほどなぁ」
「私は委員会の方が忙しくってほとんど幽霊部員なんだけど、私も第一研究室所属だから文代ちゃんを紹介してあげるね」
そう言うと真凛は、黒髪を三つ編みにした委員長然とした、めがねの女の子の所に行った。キリッとした雰囲気の美人さんだ。
「文代ちゃん紹介するね。 私と同じ小学校に通ってた新発田 明君。明君、春休みに話した加藤 文代さんね」
「はじめまして」
「第1研究室に来るつもりなら、詳しい事はそっちでお話ししましょう」
文代に連れられた明は、真凛と別れて第1研究室へと向かった。
「顧問の円山 勝利だ。君達の魔法研究のサポートとして主に演算処理を補助している。後は数学の担任もやっている。よろしくな」
「新発田 明です。『魔法開発』魔法が1月から使えるようになりました。よろしくお願いします」
「あらためまして、加藤 文代よ、私は付与魔法が使えるわ。『魔法開発』だなんて凄いじゃない! 夢が広がるわね!」
「加藤さんも付与魔法なんて凄く良い魔法じゃないか。二人で力を合わせたら凄い魔道具ができそうだ」
「具体的に『魔法開発』魔法とは何なのだ?」
「今のところわかっているのは、あらゆる極小の『魔法の素』を発見したり、組み合わせたり、育てて大きくしたりする事が可能なようです。事前に考えてきたロードマップをみていただいて一緒に研究できたらと思うのですが」
「まずは鑑定魔法からか、良いチョイスだな」
「新発田君! 鑑定魔法を開発できて、私の付与魔法でそれをメガネに付与する事ができたら凄いことになるんじゃない!?」
「そうだな!? そうなれば鑑定で分析できる人が増えて更に開発が捗りそうだ! 加藤さん凄いぞ!」
「具体的にはどういうアプローチをとるんだ?」
「目に見えない地球上をめぐる情報の波みたいなものを、魔法の力でキャッチして可視化できるんじゃないかと期待しています。」
1週間後
「おかしいな。データの振れ幅が大きすぎる!」
「おい! 加藤ふよ! 暇ならこっちのデータのモニター頼む!」
「誰がふよよ! ふみよよ、文代! 気にしてるんだから次言ったらぶっとばすわよ!」
「じゃあ、ふみよ! なんでも良いからモニター頼む!」
2週間後
「おお! この波長じゃないか!?」
「ほんとだ! 先生やりましたね! ふよもこっち来て見てみろよ!」
呼ばれた瞬間文代のメガネがギラリとひかり、裏拳が明の鼻先をかすめる!
「次言ったら、当てるわよ」
「す、すみませんでした」
3週間後
ボンッ!
「てめぇぇぇえ! 新発田ぁ! 俺の愛機に何をしやがった! スパコンなみの演算能力を発揮するように組み上げてあるんだぞ!」
「ミーテル波(新発見の情報の波)を入力しただけだよ! そんなの国に新しいの買って貰えばいいでしょう!」
「ばかやろう! 最新型だけじゃ物足りなくて、自費で魔改造してたんだよ!」
4週間後
「つ、遂に出来た! 人類の夢、スカ○ターの完成だ!」
「やったな新発田!」
「新発田君おめでとう!」
「二人共ありがとう! 二人がいなかったら絶対に完成してなかったよ! 早速スカウ○ーで二人を見てみよう!」
明は円山先生と文代をメガネ型魔道具(戦闘力だけでなく、色々な情報が出てくる)で鑑定してみる。
「先生の戦闘力は1、文代は108か。 えっ? 108?? めっちゃ強くない!?」
「ちょっと! 私のことは見ちゃだめよ!」
「あれ? 早速壊れてるのか? おかしいな。 他の学園生のも見てこよう」
明は研究室を飛び出して、片っ端から鑑定していく。
「戦闘力は3、7、10、5、2、5、1、18……」
そしてゴミ発言も繰り返し、遂には明は『ゴミ太』と呼ばれるようになった。
5月下旬
「さて、新発田よ、それでは次の魔法の開発に取り掛かるか。」
「はい先生! ゆくゆくは色々な時空間魔法を使いこなしたいので、まずはアイテムボックスから取り掛かりましょう!」
「私の付与魔法が組み合わされば、ドラ○もんの4次元ポケットね! 良いじゃない!」
「今回はどういうアプローチでいくんだ?」
「今回は4次元空間や虚数空間の探知から始めたいと思います!」
1週間後
「やはり難しいな。まったく他空間にヒットしないぞ」
「アプローチを変えて空間に干渉する力の究明にしてみますか。 文代は今のまま空間の探知を続けてくれるか?」
「随分と気安く名前をよんでくれるわね! 私だって忙しいんだからね!」
「俺の事も気安く明ってよんでくれていいんだぜ」
「いやよ!」
2週間後
「おい、新発田! 見てみろ! 今のK方式の出力だと空間に微弱だが反応があったぞ」
「ほんとだ! ふよも見てみろ!」
振り返った明が見たものは、ひらめくスカートの中身だったが、見事な文代の廻し蹴りにより、その日の1時間の記憶と共にきれいさっぱり忘れてしまった。
3週間後
ボンッ!
「てめぇぇぇ! 新発田ぁ! 今度は何をやりやがった! 三徹して以前を超える性能に組み上げたんだぞ!」
「4次元空間の座標を入力しただけだよ! 前回ので予算たっぷりついたんだから、また新しいのを買ってもらいなよ!」
「ばかやろう! 予算を舐めんじゃねぇ! 何回も同じもの買うなんてそう簡単には認められないんだよ!」
4週間後
「つ、遂に出来た! 人類の夢、アイテムボックス! の魔法!」
「やったな新発田」
「おめでとう新発田君! 私の付与魔法がうまく付与できなかったから、4次元ポケットができなかったのが残念だけど」
「二人共ありがとう。 大丈夫だよ、アイテムボックス魔法の付与はこれからも研究を続ければうまくいくさ」
「よし、早速色々入れてみよう! アイテムボックス!」
ブォンと亜空間の扉が開く
「今回は、市民体育館と同じ位の空間を固定しています。水、土、観葉植物あたりから入れてみるか。 空気はどうなるのかな? 水はペットボトルに入れたやつと、そのままの水をドボドボと入れてみよう!」
3日後
「よし! 観葉植物は元気だ! 次は、手当たり次第に色々と入れてみよう!」
◇◇◇
「……と言う事があったんだよ」
周囲では悲鳴があがっている。
「くっせぇ〜!!」
「なんじゃこらぁ」
真凛は、明に、ハンカチで口元を覆いながら詰め寄っている。
「ちょっと! 明君! それだと肝心のこの悪臭の説明はできてないじゃない! 本当は何をしでかしたのよ!」
「入れた物の特定ができないんだよ」
「え?」
「便利な検索機能なんかついてないんだよ」
「え?」
「市民体育館サイズの空間から手探りで入れた物を見付けないといけないの!」
「えぇ〜!!」
「最初の実験の時は、たまたま入れた物をちゃんと取り出せたから、狙った物を取り出す事が出来ると思い込んでいたけど、そこまで便利じゃなかったんだよ」
「慌ててる時のドラ○もんよりひどい……」
「空気の流入を確かめる為に、匂いの強いモノを入れてみた事があったんだけど……悪ノリして色んなモノを次々に入れたら中のどこにあるのかわからなくて、もう取り出せないんだよな。中はおそらく巨大なゴミ屋敷化している」
「匂いの原因はそれなのね」
「確認してみたところ、時間経過無しとか、状態保存とか便利な機能が付いてるわけじゃなくてだな……中で腐って可燃性のガスも発生してるっぽい」
「最悪じゃない」
「最悪だな。みんなしてゲームとか、ラノベのつもりでアイテムボックスを認識していたからな。要改良だ」
「完全に空間として閉じて無いから匂いがするの?」
「いや、空間は閉じてるよ。出し入れすると空気と一緒に悪臭が漏れるんだ。ちょっと見てろよ。アイテムボックス!」
ブゥンと低い音と共に亜空間の入口が現れる。
明が自分の鼻をつまんで、拾った木の棒を突っ込んでかき回すと……
「おえぇぇえ!」
真凛があまりの悪臭にたまらず逃げ出した。
「ちょっと! やめてよ!」
遠くから叫んでいる真凛の姿が面白くて、明が更にかき混ぜると、あたり一面が猛烈に臭くなる。
やっている本人の鼻は既に麻痺してあまり匂いを感じないのだ。
「やめなさい!」
第1研究室の中から文代が現れ、明の木の棒をはたき落とすと、ようやく新たな悪臭は止まった。
「なにすんだよ!」
「なにすんだ、は、こっちのセリフでしょう! 臭いんだからやめなさいよ」
ぎゃあぎゃあと言い合う二人。
そこへ真凛が鼻を押さえながら戻ってきた。
二人を見ながらジト目で明に言う。
「ふーん、たった3ヶ月なのに随分と文代ちゃんと仲が良くなったんだね」
「そうか? 3ヶ月も経てばこんなもんだろ。なあ文代?」
「なあじゃないでしょ、馴れ馴れしい。新発田君はもうちょっと考えた方が良いわよ」
「何をだ?」
「何かがわからないところをよ」
なんのことだかわかっていない明の事は放っておいて、文代は真凛に言う。
「水上さん、明日は裏山で|鑑定能力付きメガネ型魔道具《スカウタ○》とアイテムボックス魔法の検証をやるのだけど、あなたも来る?」
「明日? 明日ならあいてるから私も行く! 一緒に連れていって! 文代ちゃんありがとう!」
翌日
明、真凛、文代の三人は予定通り裏山で実験を繰り返している。
「それにしても、このスカ○ターって凄いね! 視界に入ったら、鳥とかも名前が瞬時に出てくるから、バードウォッチングしているみたい♪ 楽しいね!」
「一番凄いのは真凛だけどな。なんなんだよ戦闘力301って! 強すぎだろ。」
「むふふ〜。私は能力を練り上げる事に余念がないからね! 努力の結晶なのだ〜♪」
「客観的に見て、あなた1人突出しているから努力だけではないと思うけれど」
「さすがは『ファーストチルドレン』だな。ん? あっちに誰かいるみたいだな。俺達みたいに研究に来ている奴らがいるのかな」
「新発田君、けっこう強い人達の反応だから研究職ではないと思うわよ」
「なんか派手な音が聞こえてきたから、山を荒らしてるなら注意しないと!」
「真凛は真面目だなぁ。じゃあ行きますか」
急いで現場へ到着した三人は信じられないものを見た。
土田達のグループが5人でイノシシの赤ちゃんを的にして、魔法を放っていたのだ。
「やめなさい!」
そう言うと真凛はあっという間に水の障壁をウリ坊の前に出現させ、そのそばに駆けつけた。
邪魔をされた土田がほえる。
「なんだお前ら! 俺達は動く的で魔法の訓練をしてるんだから邪魔してんじゃねえよ」
「何が訓練よ! ただのイジメじゃない! ウリ坊なんか的にしたら親イノシシが駆けつけてくるわよ!」
「わかっててやってんだよ。 的はデカい方が楽しいだろう?」
「なんてことを……」
ドドドドドド怒ドドドドッッッ
「ほら、ちょうど呼び寄せられて近づいてきたみたいだぜ! うおっ! なんだあのデカさは!」
呼び寄せられた親イノシシは通常サイズよりもはるかに大きく、まるで牛のようであった。
しかし、ス○ウターを装着していた3人が驚愕したのは大きさではなかった。
「せ、戦闘力555!」
「つ、土属性!」
「人間以外の生き物が超能力を持っているなんて……」
明は叫ぶ。
「お前ら今すぐ逃げろ! そのイノシシは土魔法を使うぞ!」
「馬鹿め! 人間さま以外は魔法なんか使わねえんだよ! デカくて当てやすい的がきたぞ! ビビってねえで魔法を撃ちまくれ!」
そう言うと土田は早速土魔法を大イノシシに向かって放った。
「喰らえ! ストーンキャノン!」
ラグビーボール程の石の塊が弾丸のように大イノシシに向かって飛ぶ!
しかし、大イノシシもサッカーボール程の石の塊を魔法で飛ばして迎撃し、土田の魔法を撃ち落としてきた。
「馬鹿な! 本当に魔法を使ってきやがった! おい! お前ら早く打て集中攻撃だ!」
取り巻き達も一斉に魔法を放つ。
「ウォーターボール!」
「ウインドアロー!」
「ファイアーボール!」
「アイスジャベリン!」
「もう一発くらえ! ストーンキャノン」
大イノシシが大迫力で「ブフォォォ」と吠えると土石流のような勢いで土砂が襲いかかってきた。土田達の魔法をあっけなく飲み込み、更に迫ってくる。
「だめえぇぇ!」
真凛が横から必死に大量の水を撃ち出すと、かろうじて土石流は土田達からそれた。
愕然とする土田達。
「何なんだ、この化け物は!」
大イノシシに心をへし折られた土田達はへっぴり腰で転がるように山を駆け下りて行く。
だが一人赤髪の男だけが逃げずに残っている。
たまらず明が叫ぶ。
「おい、火村なにやってんだ! 早く逃げろよ!」
「足が挟まって、すぐに動けない! 頼む!助けてくれ!」
話している間に真凛の水魔法と大イノシシの土魔法が再び激突した。
凄まじい轟音! 大質量同士のせめぎ合いが続く。
「今の内に早く助けてあげて!」
「よし、文代一緒に来てくれ!」
火村のそばまで駆け寄った二人は、足が挟まった土砂をどかそうとするがうまくいかない。
「新発田君どいて! 私が魔法でやる! 『水陣』起動!」
文世が腰に下げていた水筒を握りしめ、パスコードを唱えると筒先から大量の水が出てきた。
「何だそれ! カッケー!」
「水魔法を付与した魔道具よ。 いいから離れなさい!」
水が足と土砂の隙間に入りこんでいき、中から膨らんでくる。ようやく火村の足が開放され自由になる。
「助かったよ! ありがとう! 君たちは命の恩人だ!」
「さあ、一緒に逃げるわよ!」
火村 は感謝を述べると素直に文代に従った。
「くっ!」
切羽詰まった声に振り返ってみると真凛が押され始めている。
「真凛! もういつでも逃げられるから受け止めずに土魔法をそらすんだ!」
「わかった! やゃあぁぁ!」
真凛が受け止めつつも斜め横からの新たな水を出現させ、土石流を自分達からそらせた。
魔法を何度も防がれた大イノシシは明らかにイラついて、闘牛のように前脚をザシュッザシュッっとかいている。
「フシュルルルル!」
見るからに猪突猛進の構えだ!
「土魔法と同時に突っ込んでくる気みたいだぞ!」
「文代ちゃんイノシシの方、なんとかできる? 魔法は私がそらすけど、本体の突進までは止められそうにない!」
「やるしかないわね」
「えっ!? 文代があれを!? どデカい牙までついてるぞ! そんな事できるのか!?」
「新発田君と火村君は下がってて。 むしろ牙があるからやれると思うわ」
文代は水筒を腰に戻すとスッときれいな立ち姿を取り瞑目し深く息をはく。
大イノシシが動く。
もの凄い迫力で土石流と共に突撃してきた!
真凛が見事な水のコントロールで土石流を横にそらしていく。大イノシシの突撃もそらせるかとみえたが、牙が突き出してきた!
「文代ちゃん!」
文代が串刺しにされるかと思えたその時、一瞬文代の身体がブレて見えたかと思うと、大イノシシの巨体が凄い勢いで宙を舞った。
「『廻天』」
残心を取るその佇まいは非常に美しかった。おもわず見惚れる明と火村。
「す、凄いな! それも魔法か?」
「これは武術よ」
大木を薙ぎ倒しながらふっとんだ大イノシシを見て、火村がつぶやく。
「やったか?」
「バカやめろ! そういう事言うなよ!」
大イノシシの身体がビクんと震えると、のっそりと起き上がってきた。片方の牙が根元から折れており、あらい鼻息がこちらまで聞こえてくる。ダメージを受けて弱っているのか? 怒り心頭で鼻息が荒いのか?
「まずいわね、今の『廻天』で決めきれなかったら、今の私じゃちょっと荷が重いわ」
「もう一回同じ事ってできないのか?」
「これを見て」
そう言ってつきだされた文代の両腕には、螺旋状の赤黒いミミズ腫れが出来ている。
「うわっ! 大丈夫かよ腕!」
「まだ未熟だから腕にダメージを受けてしまったのよ。折れてはいないと思うけれど、手に力が入らないわ」
「俺と火村でなんとかするしかないのか」
大イノシシは怒りでなのか、真っ赤な目をしている。まるでゲームのモンスターのようだ。
「ん? そうだ! 次は俺に任せてくれ! おい、火村! 合図したらすぐに俺に向けてファイアーボールを撃ってくれ!」
「え!? そんな事したらお前が燃えてしまうぞ!」
「大丈夫だ! いいから絶対にやってくれよ! 文代は俺の後ろに! 真凛はまだいけるか!?」
「まだ大丈夫! 魔法は任せて!」
大イノシシがまたも突進の構えをしている。先程より更に土をける脚に力がこもっているようだ。
「ブオオオオオォ」
雄叫びをあげながら、再び土石流と共に大イノシシが突撃してきた。
真凛の水の動きがますます冴えわたる。土魔法と水魔法は一進一退の攻防をしつつ、土砂は横へとそれていく。しかし、それでも大イノシシの残された牙が突き抜けてきた。
突き抜けてきた大イノシシが明に激突するかと思われたその時、明が唱えた。
「アイテムボックス!」
ブォンという低い音と共に亜空間の扉が大きく開く!
大イノシシはそのまま中へとあっけなく呑み込まれて行った。
「今だ! 火村この穴をめがけて撃て!」
「ファイアーボール!」
火の玉が亜空間へと呑み込まれた直後に亜空間を閉じる!
心なしか空間が振動したような気がする。
「ふぅ~。なんとかなったな。今頃中ではきっと大爆発だぞ」
「あっ! あの悪臭の可燃性ガス!」
「新発田君、凄い発想ね。助かったわ。……ところでこのウリ坊はどうしたら良いと思う?」
「つぶらな瞳がすっごく可愛い……」
ウリ坊はしばらく周囲をうろついていたが、真凛のもとへトコトコと歩いてきた。
「えーっと、私と一緒に来るって事かな?」
そう真凛がたずねると、ウリ坊は「プギィ」と小さく鳴き頭を擦り付けてきた。
「か……かわいい」
「じゃあ一緒に行くか。いいんだな?」
すると今度は返事をするように「プギィ」と大きく鳴いた。
「大イノシシの牙だけでも探して持って帰るか。魔法を使う動物なんて初めての事例だと思うから、学園に報告しないといけないだろうからな」
「そうね。もしこれから私達のように魔法を使う生き物が次々に現れたら、世界は激変するわよ」
◇◇◇
裏山から下山した四人が全てを報告すると、翌日にはBOX庁より全世界へ、Xウイルスに感染し魔法使いになる生き物は人間だけとは限らない、という注意喚起がなされた。
そして今日も第1研究室では楽しい魔法開発が行われている。
「ぎゃあぁぁぁあ〜! また俺のパソコンがぁ!」
俺達の戦いはこれからだ!
――おわり――
最後までお読みいただきありがとうございますm(_ _)m
本作は短編ですが、長編化も視野に入れて、コンテストにも応募しておりますので、よろしければ下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
「美少女モンクにTS転生した俺はとにかく殴る!たまに蹴る!〜底辺の脳筋ジョブと言われたが筋肉を極め知識チートで無双する〜」
https://ncode.syosetu.com/n0505jt/
という完結済み長編ハイファンタジーも投稿しておりますので、よろしければご一読ください♪