表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/152

魔王、外出は節約なりと気づく

日曜の昼下がり。


魔王城の執務室に、心地よい疲労感を漂わせた吹雪が帰還した。

彼は壁に掛かった大阪の古地図に、新たな進軍ルートを赤いインクで書き加えた。


「健太先輩。本日の『天王寺〜なんばパークス〜鶴橋』方面への偵察任務、大成功でした」

その声は、確かな手応えに満ちていた。


「所要時間は1時間15分。歩数は11,000歩。実に、ちょうど良い塩梅です。特に、店が始まる前の、静かな『なんば』の街。あれは、我が性に合っている。しばらく、このルートを開拓してみようと思います」


しかし、その成功は、新たな課題も浮き彫りにした。


「このルートを完遂するには、6時20分には城を出立せねばならない。そのためには、起床後の魔力収集(ポイ活)の時間を、もっと有意義に使わねば…」


吹雪は、自らの朝の時間の使い方を分析し、そして、この遠征で得た最大の発見について語り始めた。

それは、王国の経済を揺るがす、革命的な気づきだった。


「我は、思い違いをしていました。『自炊こそが、最大の節約』だと。しかし、それは間違いだった。真の敵は、食費そのものではなく、城にいることで増大する、我が『食べる量』だったのです」


家にいると、つい食べ過ぎてしまう。

結果、食費はかさみ、身体は重くなる。


しかし、一日千円以下の予算で外出すれば、食べる量は自ずと制限され、むしろ安上がりになる。


「『食べるものだから、いくらかかっても必要経費』。その思い込みが、我が財政を圧迫していたのです」


健太は、その深遠な真理に、静かに頷いた。

「内なる敵を制する者は、王国を制する。お前は、また一つ、王の知恵を身につけたようだな」


その言葉に、吹雪は自らが追い求める、理想の休日の姿を思い描いた。

彼は、羊皮紙に五つの条文を書き出した。


【魔王が求める、至高の休日五カ条】

一、楽しいこと

二、楽であること

三、怠けられること

四、ゴロゴロできること

五、お金がかからないこと


「しかし、この五カ条をすべて満たすのは、至難の業です。特に、『楽に、怠けて、ゴロゴロできる』、そして『無料』である場所。イオン四條畷の、あの幻の一人用ソファは、どこにもない…」

吹雪は、青いビニールシートを持って公園で寝転がる自分の姿を想像し、小さく首を振った。


その時、執務室のソファで丸くなっていたアリアが、もぞもぞと身じろぎした。

「ん…ふぶきん…?」

どうやら、気持ちよさそうに昼寝をしていたらしい。


「アリアか。すまぬ、起こしてしまったか」


「ううん、大丈夫」

とアリアは大きなあくびをした。


「ふぶきん、難しい顔してる。また、ゴロゴロできる場所、探してるの?」

「ああ。なかなか、見つからなくてな」


アリアは、むくりと起き上がると、窓の外を指さした。

「あそこは? お城のお庭の、おっきな木の下。あそこ、葉っぱがいっぱい落ちてて、ふかふかだよ。風が気持ちよくて、アリア、大好き」


その、あまりにも単純で、あまりにも完璧な答え。


吹雪は、目を見開いた。

自分は、特別なソファや、特別な施設ばかりを探していた。

だが、理想の休息地は、自分の城の、すぐ足元にあったのだ。


健太が、面白そうに口の端を上げた。

「お前が探し求める楽園は、どうやら、最初からお前の領地の中にあったようだな」


吹雪は、眠そうな目をこするアリアと、静かに微笑む健たを交互に見た。

そうだ。必要なのは、特別な場所ではない。

どこにいても、心の底から「楽しい」「楽だ」と感じられる、自分自身の心なのだ。


「…そうだな、アリア。次の休みは、その木の下で、一緒に昼寝でもするとしようか」

「ほんと!? やったー!」


魔王の、理想の休日を探す旅は、まだ続く。

だが、彼は今日、その旅の最も重要なコンパスを手に入れた気がした。


それは、遠くの楽園を探すのではなく、足元にある幸せを見つけ出す、という、単純で、そして何よりも力強い知恵だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ