魔王の憂鬱と小さな発見
「もうすぐしたら皮膚科へGo!」
吹雪はベッドから起き上がりながら、呟いた。
今日も休みだ。
一昨日も休みで、昨日は出勤。そしてまた休み。
こんなシフトだと結構体が楽で助かる。
睡眠時間もしっかり取れているから、体は元気だし、気力も溢れている。
こんな状態で休みを迎えると、なんでもできる気がするんだよな。
「……とは言っても、結局あんまり何もできない事が多いんだけどな」
キッチンで朝食の準備をしていた先輩の健太が、呆れたようにため息をつく。
健太は、魔王の城で共同生活を送る唯一の常識人だ。
「だから休日に過度の期待を抱いちゃいけないって、いつも言ってるだろ、吹雪。過度な期待は、夜には自分の不甲斐なさを感じて終わる一日になるんだからな」
「むぅ……先輩の言う通りだ。休日のワクワクは、独り身の魔王にとってはあまり期待してはいけないのだ」
吹雪は真剣な顔で頷く。
しかし、健太は慣れたもので、表情一つ変えない。
「でもさ、吹雪、外出をすれば、一つ一つは小さな行動でも、実は結構な作業量をやっていることにも気づけたんだろ?ダイエットには最適だもんな。だからまずは外出することだ。ここから人生がひらけてくる、なんて言ってたじゃないか」
健太の言葉に、吹雪はハッとする。
そうだ、以前そう結論付けたはずだ。
「その中でもやっぱり『本当の用事』があると、内容は進化するんだ。一人で考える一人予定の行動は、あまり活動が活発ではないからな」
吹雪はそう言いながら、手際よく作ったバケットサンドをバッグに詰めていく。
「今日は皮膚科に行くって決まってるから、朝から平日とほぼ同じように行動できたしな。時間に少し余裕があったから、なかなか手を出さなかった靴洗いも行うことができたぞ」
「へえ、それは良かったな。珍しい」
健太はフッと笑った。
吹雪は朝一で24Hスーパーに行って、バゲットを買ってきた。
4個入り128円のコロッケも30%オフになっているものがあったらしい。
それを二つもゲットしたという。
「コロッケは一つは冷凍にして食べたい時に食べる。炊き込みご飯でコロッケを入れてもいいな……それがいいかな?」
吹雪は真剣に悩む。
「なあ、吹雪。今使ってるカルローズ米って、白米で炊くとすぐ固くなっちゃうんだろ?でも、炊き込みご飯とか焼き飯とか、油を使ったものになると美味しくなるんだよな」
健太は見透かしたように答えを出してきた。
「うむ。ずっと炊き込みご飯にしてて、正直飽きていたんだが、これを境にもう一度、野菜中心の炊き込みご飯にしてみるかな」
「でも俺の食事内容で足りないのはタンパク質なんだよな」
吹雪は得意げに続けた。
「そこでだ、ソイプロテインのカフェオレ味で炊き込みご飯ができるかどうか検索してみたんだが、あきらかに美味しくはなさそうだったな」
健太は顔をしかめる。
「当たり前だろ、吹雪。そんなもん誰が美味しいと思うんだよ」
「……やっぱり炊き込みは魚になるんかな?」
吹雪は少しがっかりした様子だ。
そんな二人のやり取りを、隣でココアを飲みながら聞いていた幼馴染のアリアが、にこやかに言った。
「それなら、今度私がお魚の美味しい炊き込みご飯のレシピを教えてあげるね!でもカフェオレ味のプロテインは、普通に牛乳で割って飲むのが一番美味しいよ!」
アリアの言葉に、吹雪と健太は顔を見合わせて笑った。
アリアはいつも、二人の間のギスギスした空気を、不思議な言葉で和ませてくれる存在だ。
そしてその後、皮膚科に行ってきた。
その足で天候寺駅へと向かう電車に乗る予定だったが、持ってくる本を間違えたので、一度家に帰ろうとした時だった。
商店街の小さな野菜屋さんを覗いたら、野菜が安い!
めっちゃ安かったのでつい買ってしまった。
白菜半玉が88円、大きめの人参が3本で98円、青梗菜が2株で55円。
晩飯はまたしばらく野菜中心になりそうだ。
帰宅した後、少しゆっくりしようと思ったが、家にいると朝作った飯を食ってしまいそうになった。
俺は休日に家で飯を食うと、その日一日動けなくなる性分なのだ。
なので、買ってきた野菜と薬を置いて、予定していた本をバッグに入れると、慌ててまた家を出た。
同じ駐車場にバイクを停めると、パチンコ屋さんが開いていたので、そこに置いているマンガを読むことにした。
2冊読んだら満足したので、いつもの電車に乗った。
今度は持ってきた本を電車で読んだ。
途中で飽きてしまった為、予定通り天候寺駅で降りた。
マクドンの近くにあるベンチで、作ってきたパンを食べて、買ってきた桜もちを食べた。
それからマクドンに行ってコーヒーを注文。
もちろん事前にアンケートに答えているので、おまけとしてソフトクリームも頼んでいる。
これも合計で130円だ。
ブログを書きながら、ふと吹雪は思った。
「……疲れたな。そろそろ実家に顔を出すかな」
魔王の気ままな休日は、まだ終わらない。