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魔王の集中力と睡眠負債

休日。


俺こと魔王吹雪は、いつも通り夜明けと共に起き、スーパーで買い出しを済ませ、自ら弁当をこしらえて魔王城を後にした。


失敗だったのは、魔導書パソコンを収めたリュックの他に、資料やら何やらの手荷物が多かったことだ。まるで小規模な遠征である。


聖地『京橋』に到着し、いつもの無料のフリースペースに陣取る。

窓の外は、城を出た時には嘘のような土砂降りだった。

だが、俺の内面はそれ以上に荒れ模様だった。


「ぬぅ…なぜだ…我が創造の泉が、今日は一滴も湧き出てこぬ…」


小説を書き進めようにも、一向に集中できない。

気付けば、手の中の魔法のスマホを漫然と眺めている始末。


原因は分かっていた。睡眠不足だ。

昨夜は休日前という開放感に負け、仕事後に京橋でデカフェではなく、禁断の果実とも言うべき本物のコーヒーを飲んでしまった。


その高揚感の代償として、帰城は遅くなり、睡眠時間は削られた。


しかし習慣とは恐ろしいもので、それでも朝4時半には目が覚めてしまう。

今の我が城はこの時期、朝8時を過ぎれば灼熱地獄と化す。


それまでに脱出しなければ、冷房魔法を発動させ、結果として城から一歩も出ず、動画を見ながら自堕落に一日を終えるという、最も避けたい未来が確定してしまうのだ。


故に、この「料理→風呂→外出」という朝のルーティンは、俺の行動力を維持するための生命線なのである。


「しかし、このままではいかん…」


気合を入れ直そうと、俺は早々に持参した弁当の蓋を開けた。

だが、これもまた一つの罠だった。


作りすぎてしまった豪華な弁当を勢いよく平らげると、満たされた腹が強烈な眠気を誘発し、ただでさえ乏しいやる気を根こそぎ奪い去っていく。


「うぅ…満腹は、思考能力を著しく低下させる…」


隣で静かに書物を読んでいたドラゴンの先輩、健太さんが、俺の嘆きに顔を上げた。


「原因は明白だろう。休日前夜の過ごし方と、計画性のない食事。自己管理の甘さが今の状況を招いている」

「ぐっ…正論だが、耳が痛い…」


うなだれる俺の肩を、いつの間にか現れた幼馴染のアリアが、ぽんぽんと優しく叩いた。

「ふぶき、なんだか眠そうだね。疲れてるの?じゃあ、お昼寝しようよ!私、得意だよ!」


アリアの屈託のない一言が、俺の脳天に稲妻を走らせた。

「…昼寝?いや、違う…これは…戦略的撤退(仮眠)だ!」


そうだ。このまま机にかじりついていても、時間を浪費するだけだ。


数時間の仮眠を取ることで、午後の戦況を劇的に好転させられるのではないか。

家に帰れば、そこで一日は終わってしまう。

だが、この街で仮眠を取れれば、活動は続く。


「健太、アリア!我に妙案あり!この近辺で仮眠が取れる秘密基地を探す!」


俺はすぐさま魔法の板で検索を始めた。

そして見つけた有望な候補地…それは『カラオケBOX』だった。


「有料にはなるが、個室で、音も気にせず休息が取れる。これは優良物件だ」

さらに、俺が日頃利用している『雷撃フィットネス(チョコザップ)』にも、予約制のカラオケルームがあるらしい。


「ふむ。規約の穴を突くような真似は、魔王としていかがなものかとは思うがな」

健太さんは呆れ顔だが、俺の目は輝いていた。


「わーい!カラオケ!お歌うたうの?お昼寝するの?どっちも楽しそう!」

アリアはもう次の遊び場を見つけて喜んでいる。


そうだ。休日の過ごし方も、もっと柔軟でいい。

どうしても集中できない日は、無理せず休む。

そのための選択肢を、カードを、もっと増やしていけばいいのだ。


「よし、決めた!今後の休日は、この戦略的仮眠を組み込み、活動時間を最大化する!」


外出時間を増やせば、自ずと運動量も増える。

70歳、80歳になっても、この世界を自由に闊歩し、人生を楽しみ尽くす。


そのための土台は、健康で元気に動ける体なのだ。

俺は未来の自分のために、今日の小さな工夫を積み重ねることを、固く誓った。

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