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魔王の食卓、カフェオレの香りと共に

「…で、魔王様?」


健太の声に、吹雪は顔を上げた。目の前には湯気を立てる炊飯器。

そこから漂うのは、ほんのり甘く、香ばしいコーヒーの香りだ。

しかし、同時にどこか違和感のある、もったりとした匂いも混じっている。


「なんだ、健太。敬称をつけろと言っただろう」


「いや、敬称はつけてますけどね。なんでこんなことになってるんですか、炊飯器からカフェオレの匂いがするって」


健太は、人間界では「ドラゴン」という異名を持つ、冷静沈着なビジネスマンだ。

吹雪が自称する「魔王」という突拍子もない存在にも、いつの間にか慣れてしまった現実主義者である。


「カフェオレ味のソイプロテインを使った炊き込みご飯だ。ふふ、我ながら天才的なひらめきだと思わないか?」


吹雪は得意げに胸を張る。その手には、カフェオレ色の粉がわずかに残る袋が握られていた。


「天才的、ですか…。確かに、ソイプロテインは熱に強いとは聞きますけど、それを炊き込みご飯にぶち込む発想は、凡人には到底及びませんね」


健太は呆れたようにため息をついた。

その横で、幼馴染のアリアが、炊飯器の蓋の隙間から立ち上る湯気をくんくんと嗅いでいる。

彼女はいつも、奇妙な行動で場を和ませる、不思議な存在だ。


「うんうん、コーヒー牛乳の匂いする!」


アリアは無邪気に笑った。その笑顔に、吹雪はさらに気を良くする。


「だろう? 鶏むね肉、しめじ、にんじんといった定番の具材に加え、隠し味にバターとインスタントコーヒーも入れたぞ。まろやかさと、コーヒーの風味を強調するためにな」


「はぁ…。で、魔王様はこれをなぜ作ろうと思ったんです?」


健太の問いに、吹雪は腕を組んだ。


「健康のためだ。最近、どうも体が重くてな。それに、プロテインを飲むだけでは味気ないだろう? 食事として摂取できれば一石二鳥だと思ったのだ」


「一石二鳥、ですか…。食感が多少変わる可能性もありますし、炊飯器に匂いが残るかもしれませんよ。取扱説明書も確認しましたか?」


健太はすかさず現実的な問題点を指摘する。吹雪は一瞬ひるんだが、すぐに持ち直した。


「ぬ、うむ…それは、まあ、些細なことだろう。新しい味への探求心、それが魔王の使命というものだ!」


「使命、ねぇ…」


健太は肩をすくめた。炊飯器から「ピー!」と、炊き上がりを告げる音が響く。

吹雪は目を輝かせ、アリアは興味津々といった様子で炊飯器を覗き込む。

健太だけが、どこか警戒した面持ちでそれを見つめていた。


蓋を開けると、ご飯はカフェオレ色に染まり、独特の香りがふわりと広がった。

プロテインの粒子が、ご飯粒の間にうっすらと見え隠れしている。


「お、美味しそう!」


アリアが歓声を上げる。

吹雪はしゃもじを手に取り、ご飯をかき混ぜ始めた。

ご飯は少しだけもっちりとした食感になっているようだが、ダマにはなっていない。


「どうだ健太、この見事な出来栄え!」


吹雪が誇らしげに差し出すしゃもじから、健太は一口分のご飯を口に運んだ。

咀嚼する健太の顔は、なんとも言えない表情に変わる。


「…甘じょっぱいですね。そして、ほのかにコーヒーの苦みも。なんというか、想像していたよりは食べられます。でも、ご飯かと言われると、ちょっと…」


健太の歯切れの悪い感想に、吹雪は不満げな顔をする。


「なんだ、素直に美味いと言えばいいものを!」


「いや、正直な感想です。正直、リピートはしないかな、と」


その言葉に、吹雪はがっくりと肩を落とした。

しかし、アリアがにこやかにご飯を口に運び、目を輝かせる。


「アリアは好き! なんか、おやつみたい!」


アリアの言葉に、吹雪の顔に再び光が戻った。


「そうだろう、アリア! やはり、お前はわかっている!」


魔王(自称)の奇妙な食生活は、今日もまた健太の現実主義とアリアの純粋さを巻き込みながら、静かに、そして少しだけコミカルに続いていくのだった。

この、どこか普通ではない日常の中で、彼らはそれぞれの「人生」というものを、小さな一歩ずつ、探しているのかもしれない。


基本的な作り方

材料例(2合分):


米:2合

水:規定量(炊飯器の目盛りまで)

カフェオレ味ソイプロテイン:20g~30g(お好みで調整)

鶏むね肉:100g(一口大に切る)

しめじ:1/2袋(小房に分ける)

にんじん:1/4本(細切り)

醤油:大さじ1

みりん:大さじ1

酒:大さじ1

バター:5g

(お好みで)インスタントコーヒー:小さじ1/2

(お好みで)牛乳:大さじ2


注意点:

プロテインは溶けにくい場合があるので、しっかり混ぜてください。

量は最初は少なめから試して、味や風味の好みに合わせて調整すると良いでしょう。

入れすぎると、プロテインの独特の風味が強く出てしまうことがあります。


炊飯器の臭い移り

プロテインの種類によっては、炊飯器に臭いが残る可能性があります。

炊飯後はすぐに内釜や内蓋を洗い、必要であれば重曹やクエン酸を使ったお手入れを行うと良いでしょう。

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