魔王の食卓革命
魔王城の一室で、暇を持て余す魔王・吹雪が、顔をしかめて食卓のレシピとにらめっこしていた。
手元には「さっぱりさば味噌ドレッシング」と題された紙切れがある。
「うーん……昨日の水煮サバ缶レシピ、不味くはないが美味くもない。しかも、これだと水分量が低いんだよな」
吹雪がぼやくと、ソファで大きな体を丸めていたドラゴン・健太が、分厚い本から顔を上げた。
「吹雪、それ、昨日のやつだろう。お前、同じ過ちを繰り返すのが好きだな」
健太の言葉に、吹雪は唇を尖らせた。
「うるさいな、健太。だから改善策を考えているんだ。これを見ろ!『風味豊かさっぱりさば味噌だしドレッシング』だって。だし汁を加えるらしい」
吹雪は新たなレシピを健太に突き出した。健太はちらりと見て、鼻を鳴らす。
「ふむ。マヨネーズが大さじ2で、レモン汁または酢が大さじ2。だし汁が大さじ1〜2か。あんまり量がかわらない気がするな」
「だろ!?俺もそう思ったんだ。まあ、つまりは水分量が少なかったらだし汁を使え、ってことなんだろうな」
吹雪は腕を組み、唸る。健太はまた本に視線を戻し、興味なさげに答えた。
「そのサバ缶の量なら、せいぜい3日で使い切るのが妥当だ。無駄にするなよ」
そこへ、部屋の隅で何やらごそごそやっていた幼馴染のアリアが、満面の笑みで近づいてきた。その手には、まるで芸術作品のように美しく切り分けられたキャベツの芯が乗っている。
「吹雪、健太先輩!見てください!キャベツの芯って、レンチンしたらこんなに柔らかくなるんですよ!」
吹雪と健太は、アリアの手元を見て目を丸くした。
「おお!マジか!」
吹雪は驚き、目を輝かせた。
「今までキャベツの芯はハンドミキサーにかけてお好み焼きの材料にしていたが、それでも少し硬かったんだ。だから芯系はレンチンして柔らかくした上で、切って鍋に混ぜればいいんだな!今日は芯を細かく切らなかったのは、逆に正解だったってことか!」
健太も珍しく感心したように頷いた。
「ほう。それは賢いな、アリア。なんなら、緑の濃い葉もレンチンすれば苦みが薄まってそのままよりは美味しく食べられるらしいぞ」
アリアは、ぱっと顔を輝かせた。
「わあ、すごい!じゃあ、今日の晩御飯はキャベツ尽くしですね!」
吹雪は、改めてAIの偉大さを実感していた。
「AIのいい使い方を見つけたな。家の余っている缶詰(食べる気が低い)ものから検索して、作ってもいいものを見つければいい。料理も正直言ってAIで事足りる。むしろこっちの方が、自分に合うものを見つけることができそうだ。(昨日のドレッシングは俺には合ってなかったが…)」
吹雪の独り言に、健太は呆れたように肩をすくめた。
「魔王様がドレッシングの好みを語るとは、世も末だな」
「うるさい!こうなってくると、やっぱり普段使わない旬の食材を買ってもいいと思うんだ。どんな食材でも、使えるかどうかがわかる。ほうれん草の根とか、大根と葉の付け根とか、食べられないと思ってたんだぞ」
吹雪は興奮気味に語る。アリアはニコニコしながら頷いていた。
「もちろん汚れが取れない部分は切った方がいいですが、それ以外は食べられますもんね!」
「そうだ!食材は大体食べられるんだ!先人の生きた知恵がネットで個人的に聞ける、って感じだよな!もっと活用して自分にとって必要な情報、節約できる情報、成長できる情報を見つけていきたいんだ!」
吹雪の熱弁を聞きながら、健太は静かに微笑んでいた。
魔王が世界征服ではなく、食卓の食材活用に目を向けている。
これもまた、悪くない日々だ、と。
アリアは、そんな二人の様子を嬉しそうに見つめていた。
魔王の食卓は、今日も新しい発見で彩られていく。