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Over&Over-時を超え、選び直す-  作者: うしご
第一章 旅立ち
6/24

1-6.樹木の魔物との再戦

 過去に戻る前にも通った森を再び歩いたが、この森はやはり魔物の気配がなく、無事に湖のある場所に到着できた。


 到着し次第耳を澄ませてみたが、戦闘の音は何一つ聞こえてこなかった。

 ただ、遠くから猫が鳴いているような声が微かに耳に入ってきた。おそらくあの白い豹獣人たちだろう。

 二人の声が聞こえるということは、まだ無事でいるはずだ。


 俺はその声を頼りに、慎重に接近を始めた。

 足音を殺しながら、頭の中では冷静に状況を整理していく。


 過去に戻った今、あの豹獣人が俺のことを覚えていない可能性が高い。

 そんな状態で不用意に接触すれば、敵と判断され、戦闘に発展する恐れもあるだろう。

 そうなれば、大型の魔物どころではなくなってしまう。


 彼らを連れて逃げることも一つの手だが、言葉が通じない以上、安全に導ける保証はない。


 ならば今、俺にできる最善の選択は――

 彼らに気づかれずに行動し、まずは魔物の居場所を特定することだ。


 ただ、一つ気がかりなことがある。

 彼らもネコ科の獣人であり、優れた聴覚を持っていることだ。

 小さな物音さえも聞き逃さない耳を持つ彼らに対し、少しでも不審な音を出してしまえば、簡単に気づかれてしまうだろう。


 俺は小動物になったつもりで息を潜め、一歩ずつ慎重に距離を詰めていった。


 しかし、その努力も虚しく、嫌な予感が的中する。

 遠くから聞こえていた会話が、突如として途切れた。


(気がつかれたか……?)


 声を頼りにかなり近づいたはずだが、まだ彼らの姿を確認することはできていない。

 俺は呼吸を浅くし、音を消しながら、彼らの次の行動を待つことにした。


 どのくらい待っただろうか、いくら耳を澄ませど何かが動く音は聞き取れず、聞こえるのは葉が風に揺れる音や鳥たちのさえずりだけだ。

 俺は足を屈め、低い姿勢を保つ。はたから見れば、大自然の中で用を足しているようにしか見えない格好だ。それでもこのまま待ち続けるしかない。


(早く動いてくれ……)


 その時だった。

 直ぐ近くの茂みがサワサワと揺れ、白い豹獣人の顔が不意に飛び出してきた。


クライス「ひゃいっ!」


 不測の事態に小さく声が漏れ、硬直してしまう。

 何とも言えない気まずい沈黙が流れる中、目が合った弟の豹獣人が、唐突に大声を上げた。


弟豹獣人「にゃぁぁぁぁ!!!」

クライス「うわぁぁぁぁぁ!!!」


 お互いに声を上げるなり、俺はその場を一目散に駆け出した。


 本来なら、こっそり近づいて魔物の居場所を探る予定だったのに、自分の居場所を晒すだけでなく、驚きのあまり逃げ出す羽目になるとは、とんだ大失敗だ。


 走り抜けた先には、少し開けた場所が広がっていた。

 そこは過去に戻る前、兄の豹獣人が倒れていた場所だ。

 そして、中央にはその彼が立っており、鋭い視線をこちらに向け、手にした槍をまっすぐ構えている。


(嵌められた……)


 恐らく先ほど茂みから現れ、目が合った弟豹獣人は、俺をこの開けた場所に誘導するためにわざと姿を現したのだろう。後ろを振り返れば、追いかけてきた弟豹獣人が距離を詰めているのが見える。


 俺は、目の前にいる体格の良い豹獣人を視界に収め、覚悟を決め、手にした斧を構える。


 忍び寄る恐怖によって、握りしめた手に汗がにじむ。


 これまでにも戦闘の前に恐怖を感じたことはあったが、ここまで強い恐怖を感じるのは死を体験してしまったからだろう。今も戦うことを身体が拒否しているのが分かる。

 しかし、目の前の状況を打破しなければ、悲惨な未来しか待っていない。


 目を見開き、全身に熱が駆け巡る感覚を感じると、体格の良い豹獣人に向かって全力で地面を蹴った。


 彼の鋭い槍が俺に突きつけられが、それを即座に斧で弾いた。


 一瞬の隙を見逃さずに踏み込み、彼の腕を掴み強く引く。

 バランスを崩して倒れ込む彼を背中に、そのまま斧を構え、斧を振りかざした。


 ガコン!!


 重い衝撃が腕にのしかかり、金属と木が激しく軋む音が森に響き渡る。


 俺の斧は、魔物の太く鋭い枝を真っ向から受け止めていた。


クライス「クソッたれが!」


 斧越しに伝わる重圧に耐えながら、全身の力を込めて一気に押し返した。


 瞬間的に距離が生まれたが、魔物は間髪入れず、鎌のような枝を大きく振り払ってきた。

 その攻撃に合わせるように、俺とすでに起き上がっていた彼は、同時に後方へ跳び、地を蹴って間合いを取る。


弟豹獣人「にーにゃん!」


 追いついてきた弟豹獣人が、焦った声で叫んだ。


 静かだった森は、今や緊張と殺気に満ちた戦場へと変わっていた。


クライス「大丈夫か!?」


 声をかけると、体格のいい豹獣人は敵から目を逸らすことなく、しっかりと頷いた。

 その反応を確認し、俺も再び目の前の魔物に意識を集中させる。


 この魔物の最大の脅威は、幹の両側から伸びた、鎌のような鋭く太い枝だ。あの枝の攻撃は見た目以上に素早く、範囲も広い。下手に近づけば一撃であの世行きの危険性がある。

 さらに厄介なのは、一発一発の威力が異常なほど重いことだ。

 たとえ受け止められても、そう何度も耐えられる攻撃じゃない。


 そして、もうひとつ問題は――


 "過去に戻る前とは状況が違う"ということだ。


 以前は幹が大きく抉れており、そこを狙って斧を叩き込むことで倒すことができた。

 さらに、あの時は不意打ちの利があり、相手がこちらに気づく前に攻撃を仕掛けられたのが、決定的な勝因だったと思われる。


 だが今回は、幹は無傷で、俺たちの存在はすでに気づかれている。


(……これ、戦うより逃げた方が賢明なんじゃないか?)


 そんな考えが脳裏をよぎった。


 今ならまだ距離が取れており、さらには全員ネコ科の獣人である俺たちならば、逃げ切れるはずだ。

 言葉が通じるか分からなかったが、ダメ元で提案してみた。


クライス「安全を取って逃げるってのはどうだ?」

体格の良い豹獣人「シャー!」

弟豹獣人「シャー!」


 ものすごい勢いでシャーシャー言われた。

 2人とも全身を逆立て、完全に戦闘態勢だ。牙を剥き、目には怒りと殺意が宿っている。


(ダメだな、これは……)


 彼らからは、まるでこの魔物を狙ってここまで来たような気迫を感じた。

 きっと、彼らにとってこの敵は見過ごせない存在なのだろう。


 俺は逃げる選択肢を捨て、腹を括った。


(あの幹に、一発でも叩き込めりゃ……)


 狙う場所は以前と同じ。ただ、そこまでどう持っていくかが問題だ。


 そう考えていた矢先――

 魔物の背後から、蔦のようなものがいくつも伸び始めた。


 細く、しなやかに揺れながら、まるで意思を持った生き物のように、うねうねと動いている。


 次の瞬間、それが鞭のような鋭さと速さで襲いかかってきた。


クライス「っ!」


 俺は反射的に身を捻り、その場から飛び退いた。

 直後、振り下ろされた蔦が地面を叩き、土を抉る鋭い音とともに、小石と土埃が激しく舞い上がった。


クライス「どんな威力してんだよ!?」


 迫る蔦をかわしながら、俺は斧を振り上げ、何本かを叩き斬った。

 だが、切った端から新たな蔦がうねり出し、再びこちらを狙ってくる。


(切ってもキリがねぇ……この勢いのままだと防戦一方だ……!)


 攻撃の糸口を探していたそのとき、体格の良い豹獣人の声が響いた。


体格の良い豹獣人「にゃん!にゃにゃん!」


 声の方へ視線を向けると、体格のいい豹獣人が弟豹獣人を庇いながら、迫る蔦を次々と斬り払っているのが見えた。


 動きに無駄はなく、魔物の周囲を時計回りに回り込みながら、着実に距離を詰めている。その背後では、弟豹獣人が槍を構え、真剣な眼差しで隙をうかがっていた。


クライス「何か策があるのか!?」

体格の良い豹獣人「にゃにゃん!にや~んにやん!」


 予想はしていたが……やはり猫語だ。

 内容はさっぱり分からなかったが、その動きに迷いは一切見られない。おそらく何らかの策があるのだろう。


 ならば、俺にできることは一つ。


 二人に攻撃が集中しないよう、できる限り魔物の注意を引きつけるしかない。

 迫りくる蔦を斬り払いながら、必死に思考を巡らせる。


(くそっ……どうすれば魔物の意識をこっちに向けられる!?)


 斧を振るうのに精一杯で、妙案など浮かんでこない。


(……何か……何でもいい……!)


 その時、ふと足元に転がる小石が視界に入った。

 俺は即座にそれを拾い、魔物の顔――いや、たぶん顔と思われる場所めがけて、全力で投げつけた。


 小石は一直線に飛び、「コツッ」という小さな音とともに、魔物の眉間の隙間に挟まった。


 その瞬間――


 魔物の巨大な眼がギロリと動き、真っ直ぐに俺を捉えた。

 そこには明確な怒りの色が宿っている。


クライス「やっべ……」


 それまで豹獣人たちに向けられていた蔦が、ピタリと動きを止め、一斉に俺めがけて襲いかかってきた。


クライス「に゛ゃぁぁぁ! 流石にその量は無理だって!」


 情けない叫びを上げながらも、俺は飛びかかってくる蔦を斧で斬り払い、必死に身を躱す。

 いくつかは避けきれず、頬や腕をかすめ、鋭い痛みに、顔をしかめる。

 血が滲み出るのがわかったが、今は気にしている余裕などない。


 視界の端で、豹獣人たちがすでに魔物の背後へと回り込んでいるのが見えた。

 俺が囮になっている間に動いていたのだ。


 ヒュン!


 弟豹獣人の投げた槍が、風を切る音を残しながら一直線に飛び、魔物の背中へ深々と突き刺さった。


魔物「ぐおぁあぅうぅぅ!」


 怒りと痛みに満ちた咆哮が、森の奥深くまで響き渡る。

 その声は空気を震わせ、木々の葉をざわめかせるほどの迫力だった。


 その直後、暴れ回っていた蔦が、意思を失ったかのようにピタリと動きを止め、力なく地面へと崩れ落ちた。


体格の良いの豹獣人「にゃんにゃ!」


 その声を合図に、俺は斧を構えて全力で魔物へと駆け出した。腕に力を込め、大きな弧を描くように斧を振り抜く。


クライス「おりゃぁぁ!」


 刃が樹皮に食い込んだ瞬間、ずしりとした衝撃が腕を駆け抜けた。

 斧の刃先は、わずかに幹の中心へと食い込んでいくが、分厚い樹皮は鉄の様に硬く、少し抉るので精一杯だった。


 同時に、体格の良い豹獣人が一気に踏み込み、鎌のような枝の根元へ全力の一撃を叩き込んだ。鋭く走った刃が樹皮を裂き、見事枝は断ち切られた。


魔物「ぎぐぎゃぁぁ!」


 怒号のような咆哮が森に響き渡るが、魔物はまだ倒れない。その巨体はゆらりと揺れ、怒りを込めて根を地面に何度も叩きつけ始めた。

 地面が震え、土が跳ね、俺たちの足元が不安定になる。


(まずい――!)


 俺は跳ぶように後退し、揺れる地面を蹴って、衝撃の範囲から離れた。

 体格の良い豹獣人も俊敏な動きで攻撃をかわし、同じく距離を取っている。


豹獣人「にゃおにゃお!」


 遠くにいた若い豹獣人が何かを叫ぶと、何故か魔物の背に刺さっているはずの槍が彼の手元に戻っていた。


 彼は直ぐに槍を構え、渾身の力で再び投げ放つ。

 風を裂くような鋭い音が走り、槍は一直線に魔物の顔へ飛んで行った。

 そして、鈍い金属音が響き渡ると、槍は寸分の狂いもなく、魔物の眼を正確に貫いていた。


魔物「ぐぎぎゃぁおうぅ!」


 怒りに満ちた咆哮が森全体に響き渡る。

 根の動きがさらに荒れ狂い、地面は大きく裂けるほどの衝撃に揺れた。


 そして次の瞬間――


 奴は地に叩きつけていた根をバネのようにしならせ、その反動を使って弟豹獣人のもとへと一気に跳躍した。


(なにっ――!?)


 さっきまでの鈍重な魔物とはまるで別物だった。

 わずか数瞬、こちらが目を見張る間に、魔物は弟豹獣人を射程に捉える。


 ザシャッ!


 肉を裂く生々しい音が、耳を貫いた。


 もう一方の鋭い鎌のような枝が振り下ろされ、鮮血が宙に舞う。


 周囲の草花や地面を真っ赤に染め上げるように、血が勢いよく飛び散った。


クライス「クソ野郎がぁぁ!!」


 怒りで身体が無意識のうちに動き、俺は無我夢中で斧を構え直し、猛然と走り出した。

 バランスを崩している魔物を狙い、全力で地面を蹴り上げる。


クライス「うおぉぉぉぉぉっ!」


 身体を回転させ、その勢いを乗せて斧を振り抜いた。鈍い衝撃が腕に伝わり、刃が硬い樹皮を切り裂く感触を捉える。

 今度は確かに、魔物の幹の中心――柔らかい部分まで刃が達していた。


魔物「ぐぎゃぁぁぁおぉぉぉ!」


 悲鳴のようなうめき声を上げ、魔物の幹がゆっくりとしなり……

 バキィッという音と共に、崩れ落ちる。


 再び森に静寂が戻った。


 倒れた魔物が完全に動かないことを確認すると、俺はすぐさま根を跳び越え、豹獣人たちのもとへ駆け寄った。


クライス「大丈夫か!?」


 目に飛び込んできたのは、背中を深く裂かれ、地面に座り込む体格の良い豹獣人の姿だった。

 その腕の中には、弟豹獣人が、しっかりと抱きかかえられていた。


クライス「待ってろ!今、ポーションを……!」


 慌てて隣に膝をつき、背負っていた袋を引き寄せてポーションを探る。


 彼の呼吸は浅く、今にも途切れそうなほど微かだった。

 それでも彼は、震える唇をわずかに動かし、かすれた声を絞り出す。


体格の良い豹獣人「……おにゃ……にゃおん……」


 その声に顔を向けると、驚くほど真っ直ぐな瞳が俺を見据えていた。

 意識を保つことすら困難なはずなのに、その眼差しには確かな意思と、強い光が宿っていた。

 視線はすぐに、自分の腕の中にいる弟豹獣人へと移る。

 その後、彼の身体はふっと力を失い、ぐったりと地面に倒れ込んだ。


弟豹獣人「……にーにゃん?」


 弟豹獣人は、目の前で起きている現実が受け止めきれず、まるで時間が止まったかのように、遠くを見つめている。


クライス「まだ死んじゃいねぇ!気をしっかり持て!!」


 俺の叫びが届いたのか、彼はハッと目を見開いた。

 すぐに倒れている兄の豹獣人の背中に手を添え、懸命に傷口を押さえ始める。


弟豹獣人「にーにゃん!にーにゃん!!」


 必死の声とともに震える手で傷口を押さえるが、血は止まる気配もない。

 指の隙間から溢れ出した鮮血が、土を赤黒く染めていく。


 俺はようやく見つけたポーションを掴み、強引に蓋を外し、彼の背中に刻まれた深い傷口へと振りかけた。


クライス「……頼む、効いてくれ!」


 それは神にすがるような声だった。

 この場で彼の命が尽きれば、隣にいる弟豹獣人はまた、大切な存在を失ってしまう。

 その悲しみを、あの目にもう二度と映したくはなかった。


 俺の目の前で、ふわりと温かな光が舞い上がる。


 ポーションが傷口に染み込んだ瞬間、淡く柔らかな緑の光球がいくつも浮かび上がり、宙に広がったのだ。

 それは、まるで命の鼓動そのもののような温もりを帯び、優しく傷を包み込むように輝いていた。

 流れ続けていた血がすうっと引き、見る間に裂かれた肉が再生していくのが見て取れた。


 やがて光が収まると、そこには、あれほど深かった傷が嘘のように跡形もなく消えていた。


クライス「……すげぇ……」


 思わず、感嘆の声が漏れた。

 あれほど深かった致命傷が、まるで最初から存在しなかったかのように、きれいに癒えている。

 その光景を目の当たりにして、彼が助かったのだと胸を撫で下ろした――だが、安堵はすぐに不安へと変わる。


 ポーションで傷は塞がったものの、血だまりに横たわる彼の呼吸は未だ浅く、意識も戻らない。


クライス「……もしかして、血が足りてないのか?」


 その可能性を感じ、俺は迷わず袋へと手を伸ばした。


クライス「ポーションを飲ませるぞ!」


 これは一種の賭けだった。

 ポーションといっても、何でもかんでも治癒できるような万能薬ではなく、その効果は品質によって大きく左右される。

 しかし、先ほどの奇跡的な治癒を目の当たりにした俺には、このポーションに賭けるしか選択肢がなかった。


 俺は彼の体をそっと仰向けにし、膝で上体を支える。

 そして2本目のポーションの蓋を開け、瓶の口を彼の唇にあてがい、ゆっくりと、少しずつ中身を流し込んでいく。


 ゴクリ――


 彼の喉がわずかに動いた。


クライス「……そうだ、そのまま……」


 さらに少量ずつ注ぎ込むたびに、呼吸がわずかに深くなっていく。

 胸が上下するたびに、かすかだった命の気配が、次第に確かなものへと変わっていった。


 そして、瓶の中身がすべて尽きた頃には、呼吸は明らかに落ち着いていた。


クライス「……よかった。これなら、もう大丈夫だな」


 安堵の声を漏らしながら視線を横に向けると、隣では弟豹獣人がじっとこちらを見つめてきた。

 その目には、未だに不安と緊張が宿っており、今にも崩れてしまいそうだった。


 俺はそっと手を伸ばし、彼の頭をやさしく撫でた。


クライス「心配すんな。もう、大丈夫だ」


 その言葉に、彼の耳がピクリと動いた。ほんの少しだけ、目元が緩んだ気がした。


クライス「……このままここにいるのは危険だ。一度、お前さんたちの集落に戻ろう。案内、頼めるか?」

弟豹獣人「にゃ~ん」


 彼は笑顔で頷く。その反応に、俺は確信めいたものを覚えた。彼らの猫語は理解できないが、少なくとも俺の言葉は通じているみたいだ。これまでのやり取りを振り返ってみても、その可能性は高い。


 そんなことを考えながら、俺はゆっくりと体格の良い豹獣人を背負い上げた。その体はずっしりと重かったが、その重さこそが”命”の重みなのだと実感した。


弟豹獣人「にゃっににゃお~。」


 弟豹獣人が何か言いながら手招きしてくる。

 その仕草に頷き返し、俺は足元に注意を払いつつ、ゆっくりと歩を進めた。


 風が木々の間を通り抜け、どこか穏やかな音を立てている。その音は、不思議と心を落ち着かせてくれる気がした。

貴重なお時間を使って、お読みいただきありがとうございます。


少しでも「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけますと、大変うれしく今後の励みになります。

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