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Over&Over-時を超え、選び直す-  作者: うしご
第一章 旅立ち
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1-5.再出発

 豹獣人と別れの挨拶を交わした直後、俺は盛大に地面へと突っ伏した。足元の石に引っかかったのだろう、あまりに情けない失態だ。


クライス「ははっ……転んじまっ……」


 苦笑いを浮かべて誤魔化すつもりだったが、立ち上がって目にした景色に言葉を失った。


 そこには、白い花が一面に咲き乱れる花畑が広がっていた。中央には樹齢何百年とも思える立派な大樹がそびえ立ち、大樹から伸びる柔らかな木陰には、煌びやかな水晶のようなものが散りばめられた大きな石が鎮座している。


クライス「あれ……?俺、戻ってきた……?」


 記憶が錯綜さくそうする中、俺の視線は自然とその大きな石へと向かった。記憶に新しいそれは、俺がここを発つ前に作った老獣人の墓だ。更に言えば、老獣人を埋葬した後、過去に戻るポイントを生成していたはずだ。


クライス「戻ってるな……」


 俺は呟きながら、手に握りしめた懐中時計に目を落とした。時計は、規則的なリズムで秒針を動かしている――ように見えたが、すぐに異変に気がついた。


 時計の針が、明らかに逆回転していたのだ。


クライス「げっ!転んだ拍子に壊れたか!?」


 慌てて懐中時計を念入りに調べてみたが、破損や外傷は見当たらない。少し不安になりつつも、試しにギフトを使って過去へ戻る操作をしてみた。幸いにも、時計自体の機能に問題はなさそうだ。


クライス「……良かった。ギフトはちゃんと使えるようだな」


 胸を撫で下ろしながら、改めて状況を整理することにした。


 偶然にも、俺は過去へと戻ってきた――それも、あの豹獣人が命を落とす少し前に。


 後悔からか、先ほど助けることができなかった豹獣人の顔が脳裏に浮かぶ。隣で涙を流しながら呆然と立ち尽くしていた若い豹獣人の姿も思い出され、胸が強く締め付けられる。


(あの時、もっと素早く行動できていれば……)


 自分がもたもたと森を抜けたせいで、彼らを絶望に追いやってしまったのだという思いが、頭を離れない。


 だが、今回は違う。


 前回、慎重に森を進んでいた自分とは異なり、今の俺は状況を把握している。あの森が比較的安全だと知っているのは、前の経験があったからだ。

 その分、行動を素早く起こすことができるだろう。


クライス「間に合うかもしれねぇな……」


 自然と拳を強く握りしめていた。先ほど目の当たりにした絶望的な未来を変えられる可能性が、今ここにあるのだ。


 急いで魔物が現れた場所に向かい、”豹獣人を救う”。


 それが俺に出来うる最善の行動だ。すぐさま走り出そうとした時、大事なことを思い出した。


クライス「おっと!部屋に食料と水の入った袋があったはずだ」


 これから入る森は、比較的安全とはいえ、食料や安全な水が簡単に見つかるかは別問題だ。


 戻ってくる前に見つけた湖の水が飲めない可能性もあるだろうし、このまま手ぶらで飛び出せば、未知の地で食料や水に困るのは目に見えている。


 失敗を繰り返さぬよう、俺は一度部屋に戻った。


 クライス「あったあった」


 袋を開け、中を確認すると、数日分の食料と水が入っていた。

 他にも何か入っていないかと水瓶をどかしてみると、パンと果物の合間から何やらキラリと光るものが目に入った。


クライス「ん?これは?」


 気になって取り出してみると、薄いエメラルドグリーンの液体が入った小瓶が出てきた。

 いわゆるポーションというやつだ。見た目の色からして、恐らく傷を治癒するものだろう。


 握っている小瓶は手の中にすっぽりと納まり、エメラルドグリーンの色合いもあって、まるで宝石のようだった。

 確認すると、同じ小瓶があと二本。合計で三本入っていた。


クライス「まさか治癒のポーションまで入ってるとはな。こりゃ取りに来て正解だったな」


 魔物との戦闘に怪我はつきものだ。それを放置すれば、傷口は化膿し、最悪の場合は感染症に至る。


 だが、それ以上に厄介なのは痛みだ。深い傷を負った状態で戦い続けるなど、到底無理な話だ。痛みが容赦なく集中力を奪い、まともに武器を振るうことすら困難になるだろう。


 戦闘中に致命的な隙を生むことは火を見るよりも明らかだ。


クライス「他にも、使えそうなもんがあるかもしれねぇな……」


 そう呟きながら、もう一度部屋の中を見回す。


 目に入るのはベッドと、その傍らに、袋が置かれていた小さな机。老人が腰かけていた椅子にテーブル。テーブルの上には、ひび割れた丸い石と魔導書が一冊。


クライス「……魔導書には触れねぇぞ」


 誰に言うでもなく、思わず口をついて出た。


 ちらりと冷たい視線を魔導書に向けた後、気を取り直して、今度はベッドの下を覗き込んだ。

 もちろん、怪しいものを探しているわけじゃない。ただ、何か使えそうなものがないか確認しただけだ。


(……っ!!)


 そこには、ピンクの雑誌――ではなく、一丁の斧があった。俺が普段使うものより小ぶりだが、片手で扱えるちょうどいいサイズだ。


 斧の柄の部分は植物に侵食され、そこから蔓や枝が刃先に絡みついている。だが、刃は錆びておらず、見た目以上に鋭利そうだった。山小屋で見つけた斧よりも遥かに切れ味が良いだろうと思えた。


クライス「最初から部屋を調べるべきだったな……」


 こんなにも役立つものが部屋にあったとは思いもしなかった。もし最初から確認していれば、また違った結果になっていたかもしれないが、過ぎたことを悔やんでも仕方がない。

 むしろ、ここで武器を手にしたことによって、今回は山小屋に立ち寄る必要がなくなった。

 そのお陰で大きく時間を短縮することができるだろう。


クライス「よし、これ以上めぼしいものはなさそうだし……そろそろ行くか」


 俺は、大きな袋と斧を手に取り、部屋を後にした。

貴重なお時間を使って、お読みいただきありがとうございます。


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