1-23.武器屋と防具屋?
武器屋の中には、剣をはじめ、杖や槍、弓など、さまざまな武器が所狭しと並べられていた。店内は金属と革の匂いが混じり合い、研がれた刃物が光を反射して鈍く輝いている。
ひときわ目を引くのは、店主のいるカウンターの隣に置かれた豪華な台。その上には、選び抜かれた逸品と思われる武器がいくつか飾られていた。
武器屋の店主は、恰幅の良いドワーフ族の男だった。低身長ながらも、鋭い眼光には経験を積んだ鍛冶職人の風格が漂い、生半可な気持ちで武器を求める者なら、その視線だけで萎縮してしまいそうだ。
クライス「おやっさん、切れ味の良い槍は置いてあるかい?」
店主「お前が槍を使うのか?」
クライス「いや、俺じゃなくて、こっちの仲間が使うんだ」
そう言ってシロを指すと、シロはビクリと肩を跳ね上げた。
店主「そっちのが槍を?」
シロ「う、うん。魔物と戦うのに投擲槍を探してて」
店主「投擲槍か……」
店主はそう呟くと、カウンターを回ってこちらへ歩み寄ってきた。鋭い眼光をシロに向けると、そのままじろじろと観察し始める。
そして突然、無遠慮に腕や胸を押したり、肩の筋肉を軽くつまんだりし始めた。
シロ「ひゃいっ!?」
驚きのあまり、シロは変な声を上げ、尻尾がピンと逆立った。
クライス「おやっさん、シロが嫌がってる。触るのはやめてくれないか?」
店主「ふん、素人が……」
終始不愛想だった店主の眉間に、深い皺が刻まれる。
店主「白いの、お前の筋力なら、この槍がいいだろう」
そう言って店主が差し出したのは、短めの槍だった。柄には何やら古めかしい文字が刻まれ、穂先は複数の鋭く尖った刃が先端に向かって集束し、貫通力を高めるために設計された形状をしている。明らかに斬撃向きではなく、突き刺すことに特化して作られているのがわかる。
店主「持ってみろ」
シロ「う、うん……」
シロが恐る恐る槍を手に取った瞬間――。
柄に刻まれた文字が淡く光を放ち、槍の周囲に白く薄い靄のような光が漂い始めた。
シロ「な、何これ!?」
店主「やはりな。お前さん、魔力量が多いだろう」
店主は腕を組み、満足げに頷く。
店主「その槍は、魔力を流し込むことで威力を引き上げることができる代物だ」
シロ「すごい……。初めて持ったのに、こんなにしっくり手になじむなんて……」
店主「当たり前だ。なんたって、俺が見立てたんだからな」
誇らしげに言い放つ店主だったが、その無愛想な表情は変わらないままだった。
クライス「おやっさん、すまなかった。さっきのは最適な武器を見立てるための行為だったんだな」
店主「ふん。……その槍は5万ゼニ―だ」
シロ「え!?そんなに安い武器には思えないけど?」
店主「そいつを作った鍛冶師は頭のネジがぶっ飛んでてな。品質はこの世のものとは思えないほどいいんだが、扱える奴がほとんどいない。あいつの造る武器は、すべて誰かのための特注品だ。結果、買い手がつかずに、そいつはここで10年も眠っていたってわけだ」
店主はその槍をまるで我が子のように見つめ、感慨深げに言葉を続ける。
店主「お前が持つべき武器だったんだろうよ。あんたの手になじむなら、大事に使ってやってくれ」
クライス「そんな業物を5万ゼニ―で譲ってもらっていいのか?」
店主「俺の気が変わらねぇうちに買うことだな」
クライス「……分かった。なら、この槍を貰おう」
シロ「いいの?クライス」
クライス「あぁ。自分の感覚を信じろ。その武器が欲しいって思ったんだろ?」
シロ「……うん!」
シロは大事そうに槍を抱え、嬉しそうに会計を済ませた。
クライス「店主、ありがとう。次来た時は、俺の武器も見立ててくれないか?」
店主「ふん。気が向いたらな」
クライス「助かる」
短いやり取りを交わし、俺たちは武器屋を後にした。
クライス「まさか、こんな良い武器に巡り合えるとはな。良かったな、シロ」
シロ「うん……でも、5万ゼニ―で譲ってもらってよかったのかな?」
クライス「そんなにすごい武器なのか?」
シロ「魔術が施された武器なんて、普通なら50万ゼニ―以上はするんだよ!」
クライス「10倍!そんなに高いのか!?」
シロ「うん……だから、店主さん、本当にいいのかなって」
クライス「あの表情を見ただろ? まるで子供を送り出す親みたいだった。きっと、扱える者が現れたことが嬉しかったんじゃないか?」
シロ「……そうだといいな」
シロは槍を優しく握りしめながら、小さく呟いた。
クライス「ま、何にせよ良い買い物だったな」
シロ「うん!オイラこの槍大事にするよ」
シロの眩しい笑顔が俺に向けられる。
心の底から喜んでいるのが伝わってきて、俺もつられるように笑みをこぼした。
シロ「あとは、防具とスペルシートだね! 防具屋はすぐそこだから、覗いてみる?」
クライス「近いなら、寄っていくか」
武器屋を出たすぐ側には防具屋が構えていた。
俺たちはそのまま店の扉を押し開け、中へと足を踏み入れる。
店内には、鎧やローブ、軽装といったさまざまな防具が所狭しと並べられていた。その中には、どう見ても防御力より露出を優先したとしか思えないデザインのものまで混じっている。これで本当に身を守れるのかと、思わず疑問を抱かずにはいられなかった。
クライス「……あれ? さっきの武器屋の店主?」
シロ「本当だ、さっきの人だよね?」
カウンターにいたのは、先ほどの武器屋にいたドワーフの男そのものだった。
クライス「さっきは良い武器を見立ててくれてありがとう。今度は防御性能の高い防具が欲しいんだが、もうあまり予算がなくてな。お手頃な防具を見せてもらえないか?」
店主は無言で頷くと、カウンターを回り込んでこちらへと歩み寄ってくる。そして、俺とシロの全身をじろじろと観察し始めた。
その後突然、店主の手が俺の腕や胸に伸びてきた。ぐにぐにと揉まれ、腹の筋肉を撫でまわされる。
クライス「ひゃい!」
俺は変な声を上げ、尻尾がピンと逆立ってしまう。
クライス「うわ、ちょっと!勘弁してくれ!」
店主「あら、強靭な筋肉♡」
店主の口調は、妙に艶めかしかった。
クライス「……お、おぅ。そりゃ、どうも」
店主「予算はおいくら?」
その問いかけに答えようとしたが、気になっていたことが無意識に口から洩れた。
クライス「えっと……さっきの武器屋の店主だよな?」
俺の言葉を聞いた途端、店主の顔が真っ赤に染め上がり、鬼の形相で俺を睨みつけてきた。
店主「失礼ね!あんなむっつりスケベと一緒にしないで!」
クライス「すまない。そっくりだったので、同一人物かと――」
店主「やめてちょうだい!あんなずんぐりむっくりと一緒にされるなんて!とんだ侮辱よ!」
怒りの感情に任せてまくし立てる店主を、俺は必死に宥めようとする。
クライス「俺が悪かった。落ち着いてくれ」
店主「落ち着けるわけないじゃない!! ……脱ぎなさい!!」
クライス「え?」
店主「いいから脱ぎなさい!!」
ぐいっと詰め寄られ、俺は圧倒されるがままに上着を脱ぐ。
店主「下も脱ぎなさい!!」
クライス「い、いや――」
店主「ずべこベ言わずに脱ぐ!!」
もはや逆らうこともできず、俺はズボンまで脱ぎ、パンツ一枚の姿になった。
しかし、それでも終わらなかった。
店主「あんたも何ボサっとしてるの!さっさと脱ぎなさい!」
シロ「はいっ!!」
店主の怒号に、シロは慌てて衣服を脱ぎ、俺と同じくパンツ一枚の姿で並ぶことになった。
(……どうしてこうなった)
その間に、店主はどこからともなく椅子と机、そしてキャンバスを取り出し、まるでデッサンでもするかのように筆を走らせ始める。
俺たちをじっくりと見つめながら、何やら真剣に書き込んでいるようだ。
しばらくして、満足げな表情を浮かべた店主が、こちらへと目を向けた。
店主「それで、予算はおいくら?」
クライス「えっと……手持ちは約4万ゼニ―しかない。この後にスペルシートも買う予定なんだが……」
パンツ一丁の男二人と、椅子に足を組んでふんぞり返るドワーフの店主。
はたから見たら、どう見ても身売りをしに来た哀れな獣人にしか見えない。
店主「あら~、それだと足りないわね~」
クライス「今ある装備より、少しでも防御性能を上げたいんだ」
店主「なら、1万ゼニ―から3万ゼニ―の間で選びなさい」
クライス「え?」
店主「値段に見合うものを仕立ててあげるわ」
(……怪しい。確実に怪しい)
(防具を仕立てると言うが、こんな格安で作ってくれるものなのか?)
(いや、そもそも何を仕立てる気なんだ?)
(ここは……逃げた方がいいんじゃないか?)
クライス「やっぱり、防具は今は必要ないかな?な、シロ!」
シロ「う、うん!防具無くても大丈夫かも!」
店主「馬鹿言うんじゃないわよ。もう準備は整っているのよ?今からキャンセルだなんて、騎士様に突き出されたいの?」
クライス「突き出されたくないです!」
今ここで騎士に突き出されたら、どれだけ時間を無駄にしてしまうか分からない。
逃げ場のなくなった俺たちは、覚悟を決めるしかなかった。
クライス「シロ……諦めろ」
シロ「やだ!オイラ、綺麗なままでいたい!」
店主「もっと美しくなるのよ」
クライス「ここで騎士に突き出されたら、どれだけ時間が無駄になるか分からない!覚悟を決めろ!」
シロ「やだ!!」
そんな俺たちのやり取りを、店主はどこ吹く風といった様子で眺めながら、机の上に置いてあったブドウをひと粒つまみ、ゆっくりと口に運んだ。
一粒ずつ、まるで舐めるように――
クライス「そ、そしたら、一人1万ゼニ―でお願いできないか?」
店主「ふふ、一人1万ゼニ―コース……本当にそれでいいのかしら?」
クライス「あ、あ、あぁ……」
シロ「オイラは、嫌だ!!」
店主「それじゃぁ、白い子ネコちゃんから始めましょうか」
シロ「やだぁぁぁぁぁ!!!」
シロの叫び声が防具屋に響き渡る。
しかし、ドワーフの太い腕にがっちりと絡め取られた彼は、抵抗むなしく奥のカーテンが張り巡らされた部屋へと消えていった。
シロ「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
店主「ふん!ふぅん!!」
謎の雄たけびが店内に響く。
(……な、何をされているんだ……!?)
俺はその場に立ち尽くし、ガクガクと震える足を何とか押さえ込もうとするが、嫌な想像ばかりが頭をよぎる。
そして、しばらくすると――
静寂が訪れた。
(……終わった、のか?)
俺はそろりとカーテンの方へ視線を向ける。
すると、暗い隙間から、ぬるりと腕が伸びてきた。
そして、ゆっくりと……手招きするように動いた。
店主「いらっしゃ~い♡」
クライス「うわぁぁぁぁ!!」
全力で逃げようと背を向け、足に力を込めた。
――が、まったく動けない。
クライス「な、なんで!?足が……!?」
気づけば、俺の足はすでに太い腕に絡め取られ、拘束されていた。
クライス「やっぱり嫌だ!やめてくれ!!」
店主「元気のいいネコちゃんたちだこと♡」
ご機嫌な様子の店主は、そのまま俺の足を両脇に挟み、ずるずるとカーテンの奥へと引きずり込んでいった。
運び込まれたカーテンの先には――シロが、放心状態で立ち尽くしていた。
クライス「シロ……お前、大丈夫か……!?」
シロ「……クライス、オイラ……もう戻れないかもしれない……」
うつろな目をしたシロは、どこか虚空を見つめ続けていた。
その言葉を聞いた店主は満足げに頷くと、俺の前に立ち、筆を手に取った。
店主「さぁ、いくわよ♡」
店主の側には何やら光り輝くインクが入ったビンが置いてあり、店主の掛け声に反応して、インクが筆先に絡みつく。
そして、俺の体にゆっくりと滑らせるように模様を描き込んでいった。
クライス「あははははは」
くすぐったい。とにかく、めちゃくちゃくすぐったい!!
店主は、先ほど描いていたキャンバスをチラリと見ながら、慎重に筆を走らせていく。
そして、しばらくすると、満足げに筆を置いた。
店主「出来上がり♡さぁ、さっきの場所に並んでちょうだい!」
俺とシロは言われるがままに、先ほどデッサンされた場所へと立たされた。
店主「やだ~素敵じゃない!今月一の出来栄えよ~♡」
店主はテンションは高く、俺たちの身体を様々な角度から舐めるように見まわしている。
その視線の先にある俺とシロの身体には、不思議な模様が描き込まれており、それは、かっこよくもあり、少し気恥ずかしいデザインでもあった。
クライス「えっと……これで、防具は仕立ててもらえるんだよな?」
店主「何言ってんのよ!もう終わったわよ!」
クライス「え?」
店主「あなたたちの身体に描き込んであるじゃない!あたしにボディーペイントを描いてもらえるなんて幸運よ。感謝なさい」
クライス「……まさか、これが防具なのか?」
店主「そうよ。魔力を施した特性インクで、特殊な防御術式を描いたの。これがあなたたちを護る鎧になるのよ!」
クライス「つまり……このペイントが防具の役割を果たしてるってことか?」
店主「そういうこと!今回は特別にあなたたちの身を、ある程度護ってくれる防御術式にしたわ。ただし、ボディーペイントの効果は魔力によって維持されているの。施した魔力以上の攻撃を受けたら効果も消えちゃうから、その点は注意なさい」
俺は自分の腕に書かれた模様をまじまじと見つめた。
確かに、ただのペイントではない独特な青白い輝きがあり、不思議と身体が軽くなったような感覚がある。
クライス「……防御性能は、どれくらいなんだ?」
店主「ライトアーマーと同等くらいかしらね。そこらのナイフなんかじゃ傷すらつけられないわ」
クライス「凄いな……魔力の残量はどう確認したらいいんだ?」
店主「色で判断なさい。今回の術式だと青が最大で次に黄色、赤になったらもう魔力は殆ど無いと思った方がいいわ。そんなことより、とっても動きやすいでしょ?」
言われてみれば、確かに防具を着込むよりもずっと身軽だ。
制限はあるものの、まさかこんな形で防具を手に入れられるとは思ってもみなかった。
店主「この店の防具はどんなに安くても5万ゼニ―はするわ。本来なら、予算不足の時点で帰ってもらう所だけど――」
そういうと、店主は武器屋のある方向をギロリと睨みつけ、机の上に置いてあったリンゴを乱暴に手に取りかぶりついた。
店主「……あのずんぐりむっくりが、良い武器を見立てたって聞いたら悔しいじゃない!」
リンゴをバリバリと豪快に噛み砕きながら、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
店主「だから、あたしもあたしのやり方で、あんたたちに満足してもらっただけよ」
クライス「そうか……疑ってすまなかった」
シロ「ありがとう、おっちゃん!」
店主「おっちゃんじゃないわ!おねぇさんとお呼び!」
シロ「ありがとう、お姉さん!」
店主「ふふっ、素直な子は嫌いじゃないわよ」
ご機嫌な店主に見守られながら、俺たちは、床に無造作に転がっていた衣服を拾い、急いで身支度を整えた。
そして、シロは足早に会計を済ませてくれた。
クライス「お姉さん、ありがとう」
店主「もっとすんごいのが欲しくなったら、いつでも来なさい♡いいもの見せてもらったし、あんたたちならサービスするわよ」
クライス「あぁ、また必要になったお願いする」
最後にもう一度軽く礼を述べ、俺たちは店を後にした。
シロ「なんかすごかったね……」
クライス「すごかったな!まさか防具を描き込むなんてな!」
シロ「そっち!?……まぁ、オイラもこんなの初めてだけど」
クライス「鎧や盾は防御性能は高いが、動きにくいからな……けど、このボディーペイントってやつは画期的だな!」
シロ「特に獣人族にとっては、動きを制限されないのがありがたいよね」
クライス「だな。こんなに快適なら、もう普通の防具には戻れないかもしれん……」
シロ「そんなに気に入ったの!?」
クライス「あぁ! 次もぜひお願いしたいくらいだ!」
シロ「実はオイラも……。とはいえ、残りも少なくなってきたね」
シロが袋を軽く揺らすと、硬貨がチャリチャリと寂しげな音を立てる。
クライス「あとは、21,000ゼニ―か……」
シロ「スペルシートは、そんなに買えないね」
クライス「ポーション買いすぎちまったかな?」
シロ「治癒魔法が使えないから、買いすぎって程ではないと思うけど」
クライス「今後のことも考えて、魔法屋に行ったら治癒魔法の魔導書の値段も見ておくか」
シロ「そうだね。治癒魔法が使えた方が安全だからね」
そんな会話を交わしながら、俺たちは魔法屋へ足を運んだ。
貴重なお時間を使って、お読みいただきありがとうございます。
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