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Over&Over-時を超え、選び直す-  作者: うしご
第一章 旅立ち
20/24

1-20.情報共有

 その低く響く笑いが徐々に収まり、彼は改めて俺たちに向き直る。


ボルグ「では、場も和んだところで、本題に移るとしよう」

クライス「あぁ、頼む」


 空気が一瞬で引き締まる。先ほどまでの軽妙なやり取りが嘘のように、ボルグの朱色の瞳が鋭さを増した。


ボルグ「クライス……君のギフトは極めて危険だ。本来であれば、この場で君の命を奪わねばならぬほどにな」


 その言葉に、シロがびくりと肩を跳ねさせる。だがボルグは淡々と続けた。


ボルグ「だが、私は君の言葉に可能性を感じた。君が己の力をどう使うか——それを見極めるために、君の提案に応えることにした。このS級クエストを5日以内に完遂すること。成果次第では、君を見逃すことも考えよう」

シロ「え!?いつの間にそんなことになったの?」

クライス「俺の力が、害を及ぼすものではないと証明するために——ついさっきな。相談もせず、勝手に決めてしまってすまない」

シロ「それは良いんだけど……S級クエストを5日でって、正気なの!?」


 シロは不安げな表情を浮かべ、机の上に置かれたS級クエストの依頼書をじっと見つめる。


クライス「日数の問題なら、俺のギフトが解決してくれる」

シロ「……そうだけど」


 俺が笑みを返すも、シロの表情は晴れない。


ボルグ「今回のS級依頼は、ルプス村の失踪事件だ。目的は、失踪者の安否確認と、原因の究明」


 ボルグの表情がひと際険しくなるが、彼はそのまま言葉を繋げた。


ボルグ「事の発端は、ルプス村でB級冒険者が数名行方不明になったことだった。その報告を受け、調査の為にA級冒険者を3名送り出したんだが、誰一人として戻ってこなかった」


 その言葉に、俺とシロは息を呑む。


ボルグ「状況が余りに異常だったため、私自ら調査に向かったのだが、S級討伐に匹敵するほどの強力な魔物が現れ、まともな調査どころではなかった。ルプス村に滞在している冒険者と共に協力し、何とか対処したが……問題は、それが一度や二度ではなかったことだ」

クライス「そんな強力な魔物が何度も?」

ボルグ「あぁ。しかし不思議なことに、そうした魔物が現れるのは、私が滞在している時だけだった。ルプス村のギルド関係者に確認を取ったが、普段はそこまで危険な魔物が頻繁に現れることはないらしい」

シロ「それってつまり……」

ボルグ「誰かが意図的に仕組んでいる可能性が高いということだ」


 その言葉と共に、部屋の空気が一気に張りつめる。

 確かに、都合よく強力な魔物が現れるなど不自然極まりない。偶然にしてはできすぎている。


ボルグ「魔物を操れるとなると――おそらく魔族が関与していると思われる」

シロ「魔族!?」

ボルグ「あぁ。どれほどの強さの魔族かは分からんが、これだけ強力な魔物を何体も配下に置いている以上、一筋縄ではいかぬだろう」


 魔族。その言葉を聞いた瞬間、シロの顔がみるみるうちに青ざめていく。無理もない。彼の両親は、魔族の手によって命を奪われたのだから——。


クライス「……シロ、大丈夫か?」

シロ「……うん」


 弱々しくも頷いたものの、その拳はぎゅっと握りしめられたままだった。

 俺はそっとシロの肩を叩き、話を続ける。


クライス「魔族ってのは、魔物とは違うのか?」

ボルグ「全く違うな。魔物には知性が余りないが、魔族は我々人間の様に優れた知性を持っている。そして、魔物とは比べ物にならないほど強い」

クライス「全ての魔族がそうなのか?」

ボルグ「もちろん個体差はある。簡単に倒せる魔族だとしてもB級討伐以上は覚悟しておいた方が良い」

クライス「そんなバケモンが関わってる可能性があるのか……」

ボルグ「あぁ。そして厄介なことに奴らの見た目は我々と何ら変わらん」

クライス「なんだと!?」

ボルグ「いつどこに魔族が潜んでいるか、殆どの人間は気が付くことができん」

クライス「もし魔族が関わっているとしたら、そんな奴どうやって見つければいいんだよ」

ボルグ「人間と魔族の決定的な違いは、圧倒的な魔力量だ。もし魔力を感知できるのならば見極められるだろうが……」


 ボルグは一度言葉を切り、ゆっくりと息を吐いた。


ボルグ「賢い魔族ほど、自身の魔力を抑え込み、隠してしまうものだ」

クライス「ほぼ打つ手なしってか……他に特徴は?」

ボルグ「……そうだな。魔族は異常な回復力を持っている。人間にとって致命傷になるような傷でも、たちまち完治してしまうほどだ」

クライス「……つまり、怪しいやつがいたら、一度斬ってみろってことか?」

ボルグ「それはダメだ。もし相手が人間だった場合、命を奪うことになりかねん。だが、浅い切り傷を負わせてみて、それが一瞬で完治するようなら、魔族の可能性が高いといえるだろう」


 ボルグの厳かな声が部屋に響く。魔族の見分け方があるのはありがたいが、それを試すために刃を向けるのはリスクが高い。下手をすれば、こちらが犯罪者扱いされかねない。


ボルグ「とはいえ、実際に試すのは難しい。最終手段として頭の隅にでも入れておいてくれ」

クライス「分かった」


 とりあえず、魔族を見極める手段はある。しかし、現状では決定的な方法とは言い難い。他に何か判断材料があるわけでもなさそうなので、俺は情報を得るために失踪した冒険者について尋ねてみた。


クライス「なぁ、失踪した冒険者たちの証言は何か残ってないのか?」

ボルグ「これといった証言はない。調査を依頼した冒険者たちは、皆一週間以内に連絡が途絶えてしまっている」

クライス「一週間!?」

ボルグ「あぁ。早い者では三日で連絡が取れなくなった」

クライス「……みんなA級の冒険者なんだろ?」

ボルグ「……そうだ」


 短く答えたボルグの表情には、自ら動けない歯がゆさと、多くの冒険者を失った悔しさがにじんでいた。

 S級依頼なのだから、それなりの危険は覚悟していたが、想像以上のリスクがあるようだ。


クライス「それじゃあ……オリーブさんについては、何か分かってないか?」

ボルグ「オリーブか……。彼女もA級冒険者で、強力な魔法の使い手だ。三週間前に調査のためルプス村へ向かったが、到着から三日目以降連絡が途絶えている」


 ボルグは淡々と説明していたが、その声色にはかすかな焦りが滲んでいた。


クライス「見た目の特徴も教えてくれ」

ボルグ「エルフ族の女性だ。細身で低身長、翠玉色のロングヘア―が特徴的な魔導士でな……」

クライス「う~ん……何かもっと判別しやすい装備とかしていないのか?例えば、武器の杖が特注品で先端の魔石が虹色に輝くとか」

ボルグ「……それなら一つだけある」


 ボルグは机の引き出しを開け、小さく可愛らしい、白い花飾りのついた通話魔道具を差し出してきた。


ボルグ「これは、オリーブとの通話魔道具だ。他のものと区別がつくよう、デザインが統一されている。これと同じデザインの耳飾りを持っているエルフの女性がいれば、それがオリーブの可能性が高い」

クライス「これを預かってもいいか?」

ボルグ「……あぁ。他の失踪者の通話魔道具も持って行ってくれ。どれもそれぞれが同じデザインで、二個でワンセットとして作られている。もし村で片割れを見つけることができれば、本人を特定する手がかりになるかもしれん」

クライス「助かる。ありがとう」


 礼を言いながら、俺はボルグから渡された通話魔道具を背負っていた袋の中に丁寧に収めた。何気ない小さな魔道具だが、これが失踪者を見つけるための重要な手掛かりになるかもしれない。


クライス「最後に聞きたいんだが、旦那と他の調査に行った冒険者で決定的な違いはないか?」

ボルグ「決定的な違い……?」

クライス「あぁ。現時点で、ルプス村から生還できているのは旦那だけだ。ってことは、他の冒険者と旦那の違いに何か秘密があるはずだ」


 ボルグはしばらく考え込み、ゆっくりと顎に手をやる。何か思い当たる節があるのか、やがて小さく息を吐きながら口を開いた。


ボルグ「強いて言えば……滞在時間、かもしれんな?」

クライス「滞在時間?」

ボルグ「あぁ。まとまった時間が取れなくてな、調査は毎回短時間で切り上げていた。村に滞在していたのは、いずれも半日ほどだろう」

クライス「……なるほど。旦那だけが無事に戻ってこられている理由は、そこにあるのかもしれないな」


 俺の言葉に、ボルグの眉がわずかに動く。


ボルグ「つまり、余り長居はしない方が良いということか……」


 彼の低い声には、警戒心と、今まで気づかなかったことへの悔恨がにじんでいた。滞在時間が長くなるほど冒険者を消し去る”何か”が潜んでいる――その確信が、胸の奥に重くのしかかった。


クライス「さて、一通り情報も揃ったし、そろそろルプス村に向かうとするか」

シロ「おぅ!」

ボルグ「待ちなさい。馬車を使った方が早く村へ到着できる。この街の門番に言えば手配してもらえるよう、書状を用意しよう」

クライス「それは助かる」


 ボルグは手際よく筆を取り、さらさらと書状を書き始める。俺たちは、その間しばしの静寂を待つことにした。


 すると、シロが少し遠慮がちに口を開いた。


シロ「ボルグの旦那、その……ルプス村には雑貨屋とかあるのか?」

ボルグ「あぁ、あるにはある。だが、あの村は魔物の被害が多い。必要なものは、ここでしっかり準備しておいた方がいいだろう」

シロ「そうか、ありがとう」


 ほどなくして、ボルグは書状を書き終えると、それを折りたたんで俺に差し出した。


ボルグ「待たせたな。これを持っていきなさい。門番に渡せば馬車を手配してもらえるはずだ。馬車で行っても、村までは半日かかる。軽食や水も忘れずに用意しておくと良い」

クライス「助かる。色々とありがとう」


 俺は書状を受け取り、頭を下げた。


クライス「それじゃあ、行ってくる」


 謎ばかりが渦巻く不気味なS級依頼。この命を懸けた挑戦を乗り越えるために——俺たちはギルドマスターの部屋を後にした。


 部屋に一人残されたボルグは、クライス達が去った扉をしばらく見つめ、ぽつりと呟く。


ボルグ「……頼んだぞ、クライス」


 そして深く息をつき、机に目を落とすと、無造作に積まれた資料の束を手に取り、静かに目を通し始めた。

貴重なお時間を使って、お読みいただきありがとうございます。


少しでも「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけますと、大変うれしく今後の励みになります。

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