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Over&Over-時を超え、選び直す-  作者: うしご
第一章 旅立ち
2/24

1-2.覚醒

 意識が途切れたはずだった。しかし、いつの間にかハッキリと意識が戻っていた。声すら出せなかった激痛もすっかり消えている。不思議に思い目を開けると、そこは一面の白。永遠に続いていきそうな白い空間だった。


 意識は、確かに途切れたはずだったのに、気がつけば、最初から目覚めていたかのように、はっきりとした感覚が戻っていた。

 不思議に思いながらゆっくりと目を開けると、不思議に思い目を開けると、そこは一面の白。永遠に続いていきそうな白い空間だった。


虎「ここは……死後の世界なのか?」


 そう呟いた時、空間の中央に眩い光の球体が浮かび上がった。あまりの眩しさに一瞬目がくらんだ。再びゆっくりと目を開けると、そこには人ならざる神々しい存在が浮かんでいた。


虎「なんだ!? お前は……!」


 その存在は穏やかな笑みを浮かべながら口を開いた。


???「私の名はウルズ。よく頑張りましたね、クライス」

クライス「……何のことだ?」

ウルズ「ようやくあなたの器が完成しました。これはあなたへのギフトです」


 そう言いながら、手に渡されたのは、美しい装飾が施された懐中時計だった。


クライス「これは……? 」

ウルズ「これはあなたの秘められた力を引き出すための道具です」

クライス「力……?」

ウルズ「それではクライス、また後ほどお会いしましょう」

クライス「ちょ、ちょっと待ってくれ!聞きたいことが……」


 だが声は届かず、再び眩い光が辺りを包み込んだ。

 その光は陽だまりの様に心地よく、このまま身を任せれば眠ってしまいそうなほどだった。

 強烈な眠気が襲い、思考がぼんやりとしていく。

 心地よい風が毛並みを撫で、小鳥のさえずりが耳に届いた。俺は目覚めの良い朝だと感じながら、目を覚ます。


クライス「ふあぁ~」


 深いあくびをしながら、大きく体を伸ばした。心地よい朝の余韻に浸り、ベットから起き上がると――


ゴツッ!!


虎「いってぇっ!!なんだよ……」


 顔面を低い枝にぶつけ、思わず顔をしかめた。昨日も同じようにぶつけたことをすっかり忘れていた。


クライス「ったく……」


 額をさすりながら朝食のことを考えていると、不意に頭の片隅でノイズが走った。


 昨日”――そう、昨日頭をぶつけたのは確かだ。その後は……


 そう記憶をたどろうとした時、それを拒むかのように、全身が小さく震え始めた。


 目覚めた後、森へ行き、そして、カメレオンのような魔物に――


 殺された


 胸が急に締めつけられ、呼吸が荒くなる。

 冷たい恐怖が全身を駆け抜け、震えが激しくなる。


(死んだ?)

(俺は、死んだ!?)


 あの瞬間の焼けつくような痛み、苦しみが脳裏にこびりつく。まるで、再びその時を迎えてしまったかのように。


クライス「クソッ!」


 恐怖が全身を支配し、混乱が広がる。

 確かに俺はあの魔物に胸を貫かれ、命を落としたはずだ。それなのに、なぜまだ生きている?

 慌てて胸に手を当てて確認するが、激痛が走ったはずの場所には、傷一つ残っていなかった。


クライス「はぁ、はぁ……夢、だったのか……?」


 胸に当てた手からは、心臓の激しい鼓動が伝わり、「お前は生きている」と痛いほど力強く脈打ち、訴えかけてきていた。

 だが、夢にしてはあまりにも鮮明すぎる。あの焼けつくような痛みも、迫りくる死の恐怖も、すべてが現実そのものだった。


 ゆっくりと息を整え、なんとか落ち着こうとしていると、視界の端に人影が映った。


クライス「……誰だ!?」


 警戒しながら視線を向けると、そこにいたのは――昨日、埋葬したはずの老獣人だった。彼は微笑みを浮かべたまま、椅子に座っている。


クライス「なっ……どうなってやがる……!」


 ゾクリと背筋が冷え、一気に全身の毛が逆立つ。

 慌ててその場を離れようとした時、「ジャラジャラ」という音と共に、銀色の懐中時計が床に落ちた。

 混乱と恐怖の中にありながらも、不思議とそれが、大事なもののような気がして、無意識に手を伸ばした。


クライス「……早くここを出ねぇと」


 嫌な予感がして、拳を強く握りしめる。


 カチッ!


 その時、金属が押される音が鳴ると同時に、目の前に半透明の自分とそっくりな存在が現れた。


クライス「っ……!今度はなんだ!?」


 突然、俺の頭の中に声が響いた。


???「これが、あなたの”ギフト”の能力です」

クライス「うわっ!なんだ!?声が頭に!?」

???「驚かせてしまってごめんなさい。私の名はウルズ」

クライス「ウルズ? これは一体なんなんだ!?」

ウルズ「クライス、どうか落ち着いてください。あなたは今、死んでしまった恐怖によって、正常な思考ができていないはずです。まずは深呼吸を」

クライス「そうなんだよ! 俺は、死んだのか? 何がどうなってるんだ?」

ウルズ「クライス、大丈夫です。あなたは今生きています。死んではいません」

クライス「生きてんのか……俺……」

ウルズ「えぇ、ですからまずは呼吸を整えて、気持ちを落ち着かせましょう」


 俺はウルズの言葉に従い、大きく息を吸い込んで吐き出した。何度も繰り返すうちに、心臓の鼓動が少しずつ落ち着いていく。肺がしっかりと空気を取り込み、体の中に生命が宿っている感覚が戻ってきた。


クライス「……生きてる……」

ウルズ「ごめんなさい。もっとあなたの心に寄り添うべきでした」

クライス「いや、俺の方こそ……取り乱して悪かった。大分落ち着いてきた」

ウルズ「安心しました。本当は、先ほどの空間でお話すればよかったのですが……あの空間は人に与える影響が未知数なんです。ですから、あなたを現実へ戻す判断をしました」

クライス「現実……」


 ウルズの話す内容は、理解の範疇を超えており、聞き返したいことも沢山あったが、自分の身に何が起きているのかを知ることが、今は何よりも大切なはずだ。そう思い直し、彼女に尋ねてみた。


クライス「……なぁ、ウルズさん、今俺に何が起きてるんだ?」


 その問いに、ウルズは一瞬だけ表情を曇らせ、ゆっくりと頷き、言葉を選ぶように口を開いた。


ウルズ「クライス。これから、あなたが置かれている状況についてお話しします。どうか、心を強く持って聞いてください」


 ウルズの声は静かだったが、その響きにはどこか慎重な色が混じっていた。


ウルズ「……あなたは、一度、死にました」


 その言葉を聞いた途端、背筋が凍りつき、心臓が跳ね上がった。死の恐怖が、再び容赦なく俺の心を支配していく。


クライス「……夢だったんだよな? あれは……」


 夢であってほしい。

 あの瞬間の、身を焼き切るような痛み、苦しみ、恐怖――あれはただの悪夢だったのだと、そう言ってくれれば、少しは救われる気がした。


ウルズ「夢ではありません」


 希望に反したその言は、俺を踏み潰すように重く響いた。心のどこかで分かっていたはずなのに、どうしても受け入れることができなかった。


クライス「だったら……どうして俺は生きてるんだ!?」


 “死”という現実を突きつけられた一方で、今この瞬間、自分が確かに呼吸をし、立っているという矛盾に頭をかき乱され、気づけば声が荒くなっていた。


 ウルズはそんな俺の動揺を受け止めながら、わずかに間を置いて、静かに口を開いた。


ウルズ「あなたは、死を迎えることで――“時を遡る”力を得たのです」

クライス「……時を、遡る? 」


 現実離れした響きに、思わず聞き返してしまう。


ウルズ「それが、あなたに授けられたギフト……特殊な能力です」


 とても信じがたいが、今こうして生きている事実を前に、完全に否定することはできなかった。


クライス「……何で俺にそんな力が?」

ウルズ「ギフトを授かるきっかけは人それぞれです。あなたの場合は、“死”を経験することでその力に目覚めました」

クライス「……なんとも受け入れがたい条件だな」


 死ななければ手に入らない能力。その代償は、あまりにも重すぎた。死の恐怖を知ってしまった今となっては、素直にその力を欲しいと思うことは難しい。


クライス「……それで、俺は……この力で“死ぬ前の時間”に戻ったってことなのか?」

ウルズ「はい。生成された“過去のポイント”に、あなたの精神が戻ったのです」

クライス「ちょっと待ってくれ。俺はそんな“過去のポイント”なんて作ってないぞ?」

ウルズ「確かに、ギフトを授かった時点では、過去に戻るポイントが生成されていません。ですが、今回だけは特別に私が生成しておきました」

クライス「……ウルズさんが?」

ウルズ「えぇ。けれど、これからはご自身の意思でポイントを作っていただきますので、意図的に過去へ戻ることが可能になります」

クライス「意図的に戻るだと!?」


 驚きと戸惑いが入り混じった。時を遡る力を持つと知らされた時点で非現実的だったが、自らの意思で過去へ戻るなど想像もしていなかった。


ウルズ「実際に試してみましょう。あなたの持つ、その懐中時計の上部を押してみてください」


 ウルズに言われるがままに、俺は懐中時計の上部を押した。

 すると、懐中時計が光り輝き、先ほどまでそばにいた半透明の自分が消えた。そして代わりに、うっすらと輝く俺そっくりの幻影が再び現れた。


クライス「うぉっ!」


 目にするのは2度目ではあるが、非現実的な現象に驚きの声が漏れた。


ウルズ「こちらの幻影は、あなたの力で作り出したものです。この幻影が“過去に戻るためのポイント”となります」

クライス「……これが?」

ウルズ「えぇ。ギフトを使って過去に戻った時、今作り出したこの時間に”精神だけ”戻ってくることができます」

クライス「精神だけ?」

ウルズ「肉体は戻ることができません。ですが、”記憶”はそのまま引き継がれます」


 記憶が引き継がれる――。つまり、今の記憶を持ったまま過去に戻ることができるという事だ。


クライス「……やり直せるってことか?」

ウルズ「はい。ですが、過去に戻るポイントはその都度更新されますので、戻れる範囲は限られています」

クライス「直前のポイントにしか戻れないって訳か」

ウルズ「その通りです」


 過去に戻れるとはいえ、好きな時代に飛べるわけではないということだ。とはいえ、それでも十分すぎる力だ。


クライス「なぁ、どうやったら戻ることができるんだ?」

ウルズ「実際に過去に戻ってみましょう。そちらの袋の中にあるビンを割ってみてください」


 俺は机の上の袋から水の入ったビンを取り出し、地面に叩きつけた。ビンは派手に割れ、中の水が床一面に広る。


ウルズ「では、懐中時計の裏面を強く押すか、戻りたいと強く心に念じてみてください」


 ウルズの言葉に従い、俺はそっと目を閉じた。

 俺は心の中で「モドリタイ」と呟いた。しかし、何か変化したようには思えない。


クライス「戻ったか?」

ウルズ「……戻っていません。」


 疑問に思いながら、もう一度「モドリタイ」と心の中でつぶやく。しばらく静寂が続いたが、耐えきれず再び口を開いた。


クライス「戻ったか?」

ウルズ「……戻っていません。」


(モドリタイ)


 ……。


クライス「戻ったか?」

ウルズ「……戻っていません」

クライス「騙したな!」

ウルズ「思いの力が弱かっただけです」


 ウルズは感情のない声で即座に返してきた。

 突如訪れた沈黙に、俺の顔がじわじわと熱くなっていくのを感じた。


 その後、何事もなかったかのように懐中時計の裏面を強く押す。その瞬間、時計が眩しく光り始め、針が高速で逆回転を始める。


クライス「うわっ! なんだ!」


 周囲が歪み、身体がふわふわと宙を漂うような感覚に陥る。そして、意識が遠のいていった。


 気づけば、さっきいた場所から、少しずれた所に立っていた。


クライス「……戻ったのか?」

ウルズ「えぇ。今度はしっかり過去に戻りました。床を確認してみてください」


 半信半疑で視線を落とすと、濡れた跡も、ガラスの破片も散らかっていなかった。


クライス「……マジかよ」


 思わず小さく言葉が漏れた。


ウルズ「最後に一つだけ。もし命を落とすような事態になったとしても、“死にたくない”と強く念じれば、作成したポイントに戻ることができます」


 命を落とす。

 その言葉に、身体がびくりと反応する。


ウルズ「クライス。あなたの中にあるその恐怖は、あなたが命を軽視しないための大切な感覚です。その感覚がある限り、あなたは簡単に死を選ぶことはないでしょう」


(……忘れられるものか。忘れたくても、忘れることなどできない)


 あの死の感覚。全身を焼き尽くす絶望。二度と、あんなものを味わいたくはない……。


ウルズ「ヒトは、死の恐怖から解放されると、命を粗末にしがちです」


 ウルズの声が、一層静かに響く。


ウルズ「“死にたくない”と感じなくなった時、貴方は過去に戻ることができません。そのことを決して忘れることのないよう、強く心に刻んでください」

クライス「あぁ……」

ウルズ「そろそろ時間のようです。クライス、これからの貴方の人生が幸多きものとなることを願っています。また、器が強化される時にお会いしましょう」

クライス「え?まだ聞きたいことが――!!」


 思わず聞き返したが、ウルズからの返答は無かった。その後何度呼びかけても、返事はなかった。


クライス「クソ……ここがどこかなのかは、分からずじまいのままか……」

貴重なお時間を使って、お読みいただきありがとうございます。


少しでも「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけますと、大変うれしく今後の励みになります。

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