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Over&Over-時を超え、選び直す-  作者: うしご
第一章 旅立ち
18/24

1-18.対峙-後編-

クライス「俺はもう、二週目だ」

ボルグ「……なるほど。私は貴様を一度殺し損ねたと言うわけか」

クライス「……」

ボルグ「殺される可能性があるのに、なぜまた同じ道をたどってきた?」

クライス「あんたに交渉しに来た」

ボルグ「交渉?」

 ボルグはその言葉に眉を潜め、茜色の瞳でじっと俺を見据える。


クライス「一つ確認させてくれ」

ボルグ「なんだ?」

クライス「あんたが俺を殺そうとする理由は、今あるこの世界の未来を捻じ曲げる可能性があるからか?」


 その問いに、ボルグの表情がわずかに変化する。彼は静かに息を吐き、深く頷いた。


ボルグ「そうだ。君は知らないだろうが、この世界は一度、過去に戻るギフトを持った者によって過去が改変されたことがある」

クライス「……過去の改変だと?」


 その言葉に思わず息を呑む。ボルグは腕を組み、茜色の瞳でじっと俺を見据えながら語り続けた。


ボルグ「500年前、この世界には、今では想像もつかないほど発達した文明が存在するはずだった。魔術の力で街は夜も昼のように輝き、空にはいくつもの浮遊都市が浮かび、一粒の種がたった一晩で豊かな実りをもたらす、今では考えられないような世界だ。人々は飢えや貧困から解放され、魔導書の急激な発展によって誰もが簡単に魔法を学べるようになり、長年苦しめられてきた魔王軍さえ討伐される、そんな未来が、確かに存在するはずだった」


 まるで夢のような話に、俺は言葉を失う。そして、ボルグの声はより低くなり、暗い影を帯びていった。


ボルグ「だが、君と同じように、過去に干渉できるギフトを持った者が、その辿るはずだった未来を破壊した。魔法の独占の為に貴重な魔導書を焼き払い、さらには、その力で優れた魔術士たちを次々と殺害した。発展し、繁栄するはずだった世界は、その一人の行いで脆く崩れ去り、多くの技術や知識が失われた。その結果、この世界は停滞し、衰退の道をたどるしかなくなったのだ」


 まるで神話のような話に、俺はただ息を呑んだ。しかし、そのまま受け入れるには腑に落ちない点がある。


クライス「……おい、ちょっと待ってくれ。もし改変されたのが本当だとしても、その痕跡も記憶も残るはずがないだろ?どうしてそんなことが分かるんだ?」


 俺の問いに、ボルグは一瞬目を閉じ、静かに言葉を紡いだ。


ボルグ「その時代には、『未来を視る』ギフトを持つ者がいたんだ。彼は過去への干渉を感知し、改変される前の未来を視ることができた。そして、その訪れるべき未来の光景を映像として、他者と共有することが可能だった」


 その言葉に、俺は目を見開いた。もしそれが本当なら、過去の改変が伝わっている理由も理解できる……が、何かが引っかかる。


ボルグ「だが、その者は暗殺され、『未来を視る』ギフトも失われてしまった。そして今、同じ悲劇が繰り返されることのないよう、我々はギフトを厳格に管理している」


 その言葉には迷いがなかった。世界を守るために、自分の信念を決して揺るがせないという意志が滲んでいた。


 俺は息を詰めたまま、視線を外すことができなかった。


ボルグ「私も本当は、こんなことをしたくはない。未来ある冒険者の芽を摘むなんてな……。だが、この件ばかりは見逃すわけにはいかない」

クライス「俺は……」

ボルグ「すまないが、世界の為にその命を譲ってくれないか?」


 静かに、彼は机の上に一つの小瓶を置いた。透明なガラスの中には紫色の液体がゆらゆらと揺れていた。


ボルグ「これを飲めば、苦しまずに眠るように命を絶つことができる……俺を恨んでくれて構わない」


 その声には、深い悲しみと苦悩が滲んでいた。ボルグの茜色の瞳には隠し切れない痛みが宿っている。大柄な体躯の威圧感すら、今は重く沈む悲壮感に覆われていた。


クライス「何なんだよ、それ……」

ボルグ「……」

クライス「昔の悪人が、過去を改変したから、同じギフトを持つ俺も死ねってか……。そんなの、理不尽すぎるだろ……!」


 怒りと悔しさを押し殺しながら、俺は必死に突破口を探す。このまま何も言わずにいれば、ボルグの決断に従うしかなくなる。それはすなわち、死を受け入れるのと同じだ。


(俺がギフトを悪用しないと信じさせなければ……だけど、それを証明するのは難しい)


 過去の改変による被害を受けたこの世界では、俺のような力を持つ者が再び現れること自体が脅威だと見なされる。どれだけ口で誓ったところで、そう簡単に信頼を得られるものじゃない。


(何か、切り抜ける方法はないか……)


 ボルグの話を思い返す中で、ふと胸に引っかかるものがあった。


(そうだ……歴史の話の中で、妙な違和感を覚えた箇所があった……)


 それは、ボルグが語った”未来を視るギフト”についてだ。

 過去への干渉を感知し、改変前の未来を見ることができる――ボルグは確かにそう説明していた。だが、その能力の説明には、どうしても違和感を拭うことができなかった。


(もし俺が”未来を視る”ギフトを持っていたらどうする?)


 きっと、頻繁に未来を視て、望む未来を選択しようとするだろう。そして、もし過去が改変されたなら、未来が変わった瞬間にその異変に気づけるはずだ。


 それなら……なぜ『過去への干渉を感知』しないと『改変前の未来』を視ることができないんだ?


 この違和感は単なる勘違いか? それとも――何か決定的な矛盾があるのか?


 俺は目の前のギルドマスターをじっと見つめた。


クライス「なぁ、ボルグ。さっき言ってた”未来を視る”ギフトって、具体的にどんな能力なんだ?」


 ボルグは眉をひそめ、低い声で答える。


ボルグ「国に残されている記録によれば、そのギフトは過去への干渉を感知し、改変される前の未来を映し出せたとされている。それ以上の詳細は記されてはいないはずだ……」


 俺はその言葉を聞いて、さらに問いを投げかける。


クライス「ちょっと待て。その未来視の持ち主は、普段から未来を視ていたのか、**過去の干渉を感知した時だけ**未来を視れたのか?」


 ボルグは一瞬だけ沈黙した。


ボルグ「……記録にはそこまで詳しくは書かれていない」

クライス「じゃあ、そもそもその記録は、ただ書き残されているだけなのか? それとも、誰かのギフトで実際に過去の事実として確認されたものなのか?」


 この問いに、ボルグの眉がわずかに動く。


ボルグ「……今、私たちが管理しているギフトでは、その事実を確認することはできない」


 俺は、ボルグの返答を聞いて確信した。


クライス「だったら……」


 俺は息を整え、一歩前へ踏み出す。


クライス「その歴史書は、本当に正しいのか?」


 ボルグの表情がわずかに揺らいだ。


ボルグ「どういう意味だ?」

クライス「未来を視るギフトって言うなら、**過去の干渉を感知しないと、改変前の未来を視ることができない**っていうのは、おかしくないか?」


 俺は強く言葉を続ける。


クライス「普段から未来を視ていたなら、干渉を感知しなくても、未来の変化に気づくはずだよな?」

ボルグ「……」

クライス「例えば、100年後の文明が高度に発展した未来を視ていたとする。でも誰かが過去を改変して文明が衰退する未来になったら、過去の干渉を感知せずとも”視ていた未来”は変わるはずだ。なのに、**過去の干渉を感知しなければ**未来が視えないって……。まるで、後付けで作られた理屈みたいじゃないか?」


 ボルグは何かを言おうとしたが、言葉を飲み込む。


クライス「仮に、その歴史書が正しいなら、その未来視の持ち主は**過去の干渉を感知した時、改変前の未来を視ることができる**……でも逆に言えばそいつは、干渉を感知した時に、”改変される前の未来”しか視ることができないことになる。もし本当に未来を視る能力なら、数年後の予言や、事件を未然に防ぐとか、そういう使い方もできるはずなのに、なぜ歴史書に残されていないんだ?」


 俺はさらに続ける。


クライス「そいつのギフトって、本当に“未来”を視る力なのか?そもそもその”歴史書”が誰かによって捻じ曲げられている可能性はないのか?」


 室内が静まり返る。


 ボルグは虚空を見つめたまま、呆然とした表情を浮かべていた。


ボルグ「……私はなぜそんなことに気が付けていなかったのだ。いや、国の定めたことだからと疑問にすら思っていなかった……」


 まるで自らの思考の浅さを悔いるように、苦しげに目を伏せる。


ボルグ「確かに君の指摘は理に適っている……だが、我々はこの歴史書を信じ、ギフトの管理を徹底してきたからこそ、今の秩序が保たれている。そう簡単に歴史書の記述を否定することは――」

クライス「俺は今、あんたの目の前で生きてるんだ!」


 机に両手を叩きつけ、ボルグを真っすぐに見据えた。


クライス「俺のギフトは、“時を遡る”力だ。なのに、俺は今ここにいる。そのまま逃げて力を隠し続けることもできたかもしれない。でも、もう一度ここに来た。この現実を見てくれよ! 」


 ボルグは息を詰め、沈黙する。


クライス「曖昧な歴史書を基に、俺の命を決めるよりも、今の俺を見て判断してくれないか?」


 俺は静かにそう言った。


 ボルグは俺の言葉を黙って聞いていた。その表情には、これまで見せてきたゆるぎない信念とは異なる、わずかな迷いが浮かんでいる。そして彼は、机の上の小瓶に視線を移し、深く息を吐いた。


ボルグ「……君の言葉が真実なら、君のギフトは人を救う可能性を秘めているのかもしれないな」


 低く静かな声。その言葉に、一瞬だけ希望の光が差し込んだように思えた。しかし、ボルグは再び険しい表情を浮かべた。


ボルグ「だがな、クライス……“信じる”だけでは、世界は守れないんだ」


 その重い言葉に、俺は一瞬言葉を失ったが、すぐに意を決してポケットから一枚のクエスト依頼書を取り出し、机の上に叩きつけた。


クライス「このS級クエストを5日で解決してみせる」

ボルグ「……なに?」

クライス「この依頼書、あんたが出したものだろ?」


 俺の言葉に、ボルグの表情が一瞬、驚きに揺らぐ。


クライス「S級依頼、農村地域ルプス村の失踪事件。失踪した冒険者多数。依頼完了条件は、失踪者の安否確認とその原因究明……」


 俺は依頼書に視線を落とし、特定の名前を指差した。


クライス「ここに書かれている失踪者名簿に、オリーブさんって名前がある。この人、あんたにとって特別な人なんだろう?」


 ボルグの目が微かに見開かれる。その一瞬の反応だけで、俺の言葉が的を射ていることがはっきりと分かった。


クライス「俺がこの依頼をこなして、オリーブさんの安否を突き止めてくる。それで、俺がこの力を悪用しないって信じてもらえないか?」


 机の向こうで、ボルグは静かに依頼書を見つめている。彼の茜色の瞳に浮かぶ感情は読めないが、その揺るぎない眼差しは、俺の言葉をしっかりと受け止めている証拠だった。


 やがて、彼は顔を上げ、俺をじっと見据えた。その茜色の瞳が柔らかな朱色へと変わる。


ボルグ「私のギフトは『達眼』だ。この眼は、相手の真偽や隠された悪意を見抜く力を持っている。だが、君の言葉には一片の嘘も悪意も感じられなかった。この依頼を5日で成し遂げてみせなさい。オリーブのことは気にしなくていい」

クライス「……え?」


 予想外の言葉に、思わず反応が遅れた。


ボルグ「ルプス村の被害は日に日に拡大している。このままでは、更なる犠牲が出るだろう……君のギフトで救える者がいるのであれば、その可能性に賭けてみたいと思った」


 その言葉には計り知れない重みがあった。決して軽い気持ちではなく、冷静な判断の上で下された決断——そこには責任感と、わずかながらも俺に対する期待が込められているように感じた。

 だが、その一方でボルグの目はなお鋭く、完全な信用には程遠いことを物語っていた。


ボルグ「……とはいえ、君を完全に信じるわけにはいかない。念のための措置だ——これを装着しなさい」


 そう言いながら、ボルグは引き出しから首輪型の魔道具を取り出し、机の上に置いた。


ボルグ「これは私の魔力に反応して起動する魔道具だ。今から5日分の魔力を注ぎ込む。もし期限内に戻らなければ、その時は——」


 言葉を切り、彼は一瞬だけ目を伏せる。そして、無言のまま魔道具に手をかざすと、淡く赤い光が灯った。


ボルグ「この首輪が、君の命を絶つだろう」


 俺は無言でそれを手に取り、じっと見つめた。冷たく硬い金属の感触が、まるで俺の運命を拘束する鎖のように思えた。

 それでも、俺は躊躇わず首に装着する。


クライス「……分かった」


 金具がカチリと音を立てて締まり、肌にひやりとした感触が広がる。けれど、それ以上に俺の中で強く燃え上がったのは、覚悟だった。


ボルグ「それと、これも持っていきなさい」


 今度はポケットから小さな袋を取り出し、俺に差し出してくる。袋の中で、硬貨が音を立てるのが聞こえた。


ボルグ「金が無いと言っていただろう。旅の資金だ」

クライス「……いいのか? 金まで貰っちまって」


 思わず問い返すと、ボルグは僅かに口元を緩め、低く笑った。


ボルグ「金を稼いでいる間に死なれても困るからな」


 フッと漏れた笑い声が、重苦しい空気をわずかに和らげる。その声音には俺の無事を願う気持ちが、ほんの僅かに込められているように思えた。


クライス「……ありがとう。必ずやり遂げて、戻ってくる」


 そう誓いながら、拳を強く握りしめた。首に装着された魔道具の冷たい感触が、これからの戦いの厳しさを改めて実感させた。

貴重なお時間を使って、お読みいただきありがとうございます。


少しでも「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけますと、大変うれしく今後の励みになります。

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