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Over&Over-時を超え、選び直す-  作者: うしご
第一章 旅立ち
17/24

1-17.対峙-前編-

 リリアに案内され、俺は立派な扉の前に立っていた。その扉は、以前連れて行かれた石造りの部屋の無骨な鉄扉とは全く違う。少し大きめの扉には繊細な装飾が施され、扉の中央と少し下側にライオンの顔を模した重厚なドアノッカーが据えられている。部屋の持ち主が重要な地位にいることを象徴しているかのようだった。


 リリアはそのドアノッカーを軽く握り、丁寧にノックする。


リリア「ボルグ様、ギフトを授かった冒険者登録希望の、クライス様がお越しです。ご面会をお願いできますか?」


 間もなく、扉の奥から低く響く声が返ってきた。


ボルグ「左様か。入りなさい」


 リリアが静かに扉を押し開けると、部屋の中には巨人族のギルドマスターが座っていた。大柄な体に比べてやけに小さく見える机と椅子に腰を下ろし、手元の資料に目を落としている。その姿は、以前感じた冷たい威圧感をまるで感じさせない。


リリア「こちらが先ほどお話ししたクライスさんです。ギフトを授かっており、冒険者登録をご希望されています」


 ボルグは資料を閉じて顔を上げた。朱色の瞳がこちらをじっと見据えるが、その視線は柔らかく穏やかだ。


ボルグ「君がクライス君だな。私はこの街のギルドマスター、ボルグだ。よろしく頼む」


 彼の声は低く響いていたが、どこか親しみを感じさせる口調だった。


クライス「ああ、クライスだ。こちらこそ、よろしく頼む」


 俺が簡潔に返すと、ボルグは軽く頷き、表情を少し引き締める。


ボルグ「それでは早速聞かせてもらおう。なぜ君は冒険者になりたいと思ったんだ?」


 俺は一呼吸置いて答える。


クライス「……俺は今、自分の過去をほとんど覚えていない。異世界から来たって話だが、元の世界の記憶がない以上、自分が何者なのかすら分からない。それを知るために、王都にある異世界研究所を訪ねようと思ってる。ただ、その旅路に必要な資金が足りないんだ。だから、それを稼ぐために冒険者になろうと考えた」


 俺の言葉を聞いたボルグは顎髭に手をやり、ゆっくりと目を閉じた。


ボルグ「自分探し、か……」


 彼は呟くように言い、わずかに笑みを浮かべた。その表情はどこか懐かしさを含んでおり、まるで自身の過去に想いを馳せているようだった。


 俺は無言で彼の様子を見つめながら、その背後に漂うかすかな温かさを感じ取った。部屋には短い沈黙が流れたが、それは決して重苦しいものではなく、むしろ心を落ち着かせる静けさだった。


ボルグ「ふふ、良いではないか。では本題に移ろう」


 ボルグは目をゆっくりと開き、俺に視線を戻した。だがすぐに、彼の表情が少し呆れたようなものへと変わり、入口の方へと視線を向ける。


ボルグ「リリア君、悪いが席を外してもらえないか?これは規則だ」

リリア「ボルグさん……」


 リリアの声には未練がにじんでいたが、ボルグは冷静に遮った。


ボルグ「そんな顔をしても駄目だ。良からぬ情報を知った時、危険にさらされるのは君自身なんだ」

リリア「……分かりました」


 肩を落としながら、リリアはしぶしぶ部屋を後にする。


ボルグ「すまんな。彼女はギフトに関する情報を集めたがる癖があってな」

クライス「いや、構わないさ。彼女には随分と助けてもらったからな」


 軽い言葉を交わしたものの、穏やかな会話はここまでだろう。ここからの発言は一つ一つが命取りになる。


ボルグ「では、話を戻そう。君のギフトについて詳しく聞かせてもらいたい」


 彼は両手を顎の前で組み、ゆっくりと瞼を上げた。その茜色の瞳が鋭い光を宿し、全身に緊張が走る。俺はそれに抗うように、冷静さを装いながら言葉を紡いだ。


クライス「その前に、その腰に付けている大剣を、外してもらえないだろうか?」

ボルグ「ほう……なるほど。良いだろう」


 感心したように声を漏らしながら、彼は腰に備えていた大剣をゆっくりと外し、机の上に置いた。金属が机に触れる音が重々しく響き、部屋の空気は一層緊張感を帯びる。


 俺は呼吸を短く吐き出し、意を決して口を開いた。


クライス「俺のギフトは『ウルズ』。時を遡る力だ」


 その一言が空気を切り裂く。ボルグの表情から笑みが消え、代わりに冷徹な鋭さが瞳に宿る。


ボルグ「君のギフト、『時を遡る力』とは、具体的に何をどのように戻せるんだ?」

クライス「俺の能力では、自身の精神だけが過去に保存したポイントに戻ることができる。物や他人には使えない」


 ボルグは俺の言葉を聞き、一瞬だけ目を見開いた。次にはその茜色の瞳は鋭さを増し、眉間に深い皺が刻まれる。


ボルグ「精神だけ、か……。その力で、何かを変えたことはあるのか?」


 低く響く声に、俺は短く答える。


クライス「シロの兄貴を助けたくらいだ。その他には、特に何もしていない」


 そう言った途端、ボルグの眉がわずかに動いた。


 気のせいか、部屋の温度が一気に下がったような気がする。


 張り詰めた沈黙が訪れる。


 ボルグはゆっくりと目を閉じ、長く息を吐いた。


 そして、静かに、だが、底知れぬ覚悟を滲ませながら一言を告げた。


ボルグ「……残念だよ、クライス君」

クライス「……残念だよ、クライス君」


 同時に放たれたその言葉を聞いた瞬間、ボルグの瞳が見開かれる。その驚きは隠しようもなく、彼の表情が硬直していた。


クライス「俺はもう、二週目だ」

ボルグ「……なるほど。私は貴様を一度殺し損ねたと言うわけか」

クライス「……」

ボルグ「殺される可能性があるのに、なぜまた同じ道をたどってきた?」

クライス「あんたに交渉しに来た」

ボルグ「交渉?」

貴重なお時間を使って、お読みいただきありがとうございます。


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