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Over&Over-時を超え、選び直す-  作者: うしご
第一章 旅立ち
15/24

1-15.突破口?

クライス「がはっ!」


 意識が戻った瞬間、俺は盛大に息を吸い込み、むせ返った。


 反射的に自分の首を触る。冷たい汗を感じながら、そこにちゃんと体が繋がっていることを確認する。首はある。体もある。しかし、全身の感覚が鈍く、手足が痺れて動きが遅い。気道が詰まっているような、肺が空気を受け入れないような、奇妙な息苦しさが体を支配している。そして、突然、胃の奥から酸っぱい感覚が込み上げてくるのを感じ、俺は慌てて口元を押さえた。


クライス「うぐっ!」

店主「おい!にいちゃん大丈夫か!?」

シロ「クライスの兄貴!?」


 その場で吐き出すわけにはいかず、俺は近くにあった花壇へと駆け寄った。胃の中身はすでに消化されていて、出てきたのはただの酸っぱい液体だった。それでも吐き気は収まらず、肩で息を切らした。


シロ「クライスの兄貴、急にどうしたの大丈夫?」


 シロが心配そうに駆け寄り、背中を優しくさすってくれる。その視線が俺の顔から吐しゃ物へと移り、少し驚いたように声を上げた。


シロ「……これ、毛玉じゃん!なんだよ~、心配して損した!」

クライス「すまん……毛づくろいしすぎたみたいだ……」


 俺が気まずそうに呟くと、シロはため息をつきながらも呆れたように笑う。


シロ「クライスの兄貴、猫らしさ全開だな。次からはほどほどにしてくれよ!」


 シロの声が遠くで反響しているように聞こえる。意識は徐々に薄れていき、思考も霧の中へと沈み込んでいく。

 俺は――確かにギルドマスターに殺された。あまりにも一瞬の出来事で、痛みすら感じなかった。だが、彼が最後に放った言葉だけは、今もなお頭の中でループし続けている。


「君のギフトは、この世界にとってあまりに危険すぎる――」


 その言葉が、何度も何度も反響する。


(俺のギフトが……危険?)

(俺はただ、シロの兄貴を助けただけだぞ……)


 記憶を遡るたび、ギルドマスターの変わりようが脳裏に鮮明に蘇る。彼は、俺が精神だけ過去に戻れる能力を持っていると知った途端、表情を一変させた。それまでの穏やかさは消え失せ、冷酷な判断を下す執行人の顔へと変わったのだ。


(なぜだ……?俺のギフトがどうしてそこまで……?)


 疑問が渦巻く中、無力感だけが胸を支配していく。


シロ「クライスの兄貴、大丈夫?落ち着いた?」


 シロがヤキトリの入った葉の包みを片手に、心配そうに声をかけてきた。


クライス「あぁ……すまねぇ。もう少しだけ、休ませてくれ」

シロ「いいけど、無理すんなよ。そこに、座れる場所があるから休もうぜ」


 シロに促され、俺は花壇近くの段差に腰掛けた。息を整えながら、隣に座るシロの顔を見る。彼の目には、心配がにじんでいる。


クライス「シロ、王都に向かうためには資金が必要なのは分かってる。でも……ギルド以外で稼ぐ方法はないか?」

シロ「うーん……難しいなぁ。物を売るにしても商品がないし、魔物を狩った素材だって基本ギルドに売るのが普通だしさ」

クライス「ギルド以外の店じゃ売れないのか?」

シロ「素材って大体、下処理が必要なんだよ。それをしてくれるのはギルドだから、他で売るのはかなり難しいと思うよ」

クライス「そうか……やっぱりギルドを避けるのは無理か……」


 俺の沈んだ声に、シロは小首をかしげて疑問符を浮かべた。


シロ「そんなに魔導書読むのが嫌だったの?」

クライス「いや、そういうことじゃないんだ……」


 ギルドで何が起きたのか、ここでシロに話していいものか迷う。だが、シロを危険に巻き込む可能性がある以上、話さない方がいいだろう。知らない方が安全なこともある。


クライス「少し、考える時間をくれ」

シロ「……分かった」


 シロはそう答えたが、その表情にはほんの少し寂しさが滲んでいた。


 ギルドを避けられない以上、どうやって資金を稼げばいいのか。このままでは進む道が見えない。冒険者登録をしたとき、俺は確かに殺された――もう二度とあんな思いはしたくない。だとしたら、登録自体を避けるべきなのか?


 だが、登録しなければクエストを受けられない可能性がある。つまり、ギルドを使うには冒険者登録が不可欠だ。どうすればいい……?


 俺は一度深く息をつき、頭を横に振って考えを整理し直す。死に直結する原因をもっと掘り下げるべきだ。恐れずに、あの死の瞬間を思い返せ。


(ギルドで殺された……あの瞬間、何が引き金だった?)


 思考を巡らせるたび、ギルドマスターの変わりようが頭をよぎる。それまで比較的穏やかだった彼が、俺のギフトについて話した途端、冷酷な表情に一変し、俺を殺害した――。


「君のギフトは、この世界にとってあまりに危険すぎる」


 その言葉が頭の中で反響する。


(俺のギフト……精神だけを過去に戻す能力。確かに珍しい能力かもしれないが、危険?何がそんなにまずいんだ?)


 ふと、ギルドマスターが発した問いが脳裏によみがえる。


「その力で、何かを変えたことはあるのか?」


 その質問に、俺はシロの兄貴を助けたと答えた。だが、ボルグの反応は明らかにそれ以上の警戒心に満ちていた。


(何かを“変える”こと……?それが、俺のギフトの危険性に関係している?)


 謎の輪郭が、霧の中から少しずつ浮かび上がる。ギルドマスターの殺意を引き起こしたのは、俺のギフトの「使い方」にあったはずだ――つまり、精神を過去に戻すことで「何かを変える」可能性。それが、この世界にとって脅威とみなされた。


(過去に戻れる力があれば、未来を捻じ曲げることもできる……)


 冷たい汗が背筋を伝う。この世界において、運命がどれほど重んじられているのかは分からない。だが、俺の力がそれを揺るがす存在だと認識されたのなら――ボルグの行動も理解できる。


(それなら……俺のギフトを隠せば、殺されることは防げるのでは?)

(でも、サーチグラスを使われたら……いや待て、良く思い出せ)


 先ほどの「サーチグラス」の測定時、リリアは俺やシロがギフトも持っていることを口にしたが、能力の詳細に関しては、俺たち自身で説明していなかったか?つまり、ギフトの詳細はあの魔道具では確認できない。俺が自ら口にしなければ、ギフトの能力は知られないままで済むのではないだろうか。


クライス「これなら、隠し通せるか?」

シロ「ん?何のことだ?」


 一つの可能性に光を見出し、思わず呟くと、隣でヤキトリを頬張っていたシロが不思議そうに首をかしげた。このまま黙っているべきか、それとも彼に話すべきか――迷いが胸を締め付ける。だが、シロの助けがなければこの先進むことはできない。


クライス「シロ、何度も同じこと聞いてしまって悪いんだが、最後にもう一度だけ聞かせてくれ」


 俺は真剣な面持ちでシロの顔をまっすぐ見つめた。シロは少し呆れた表情を浮かべ、軽くため息をつきながら口を開いた。


シロ「もう~、危険に晒されるのは百も承知だよ。普通に集落で暮らしてたって、魔物に襲われるなんて日常茶飯事なんだからさ。心配しすぎだっての」

クライス「でも、それ以上の危険だ。黒い鎧の男に襲われた時みたいな、普通じゃ起こりえないような――」

シロ「クライスの兄貴、うるさい!もうとっくに覚悟はできてるってば!」


 シロの声が一瞬鋭さを帯びた。俺の言葉を遮るその声には、確かな決意が込められていた。


シロ「嫌だったら、黒い鎧の奴と対峙した後、集落に帰るって言ってるだろ?でも……でもオイラは逃げたくないんだ!もう、二度と逃げたくないんだよ!」

クライス「シロ?」


 彼の握りしめた拳が震えている。涙を浮かべたその視線の奥には、ゆるぎない決意が宿っていた。


シロ「あんな力の差を見せつけられたら、本当は怖いに決まってる。逃げたいって思った。でも……オイラ、父ちゃんと母ちゃんに誓ったんだ。オイラを庇って二人が魔族に殺されたあの日に……もう逃げないって!」


 震えながらもはっきりとした声で、シロは胸の内を吐き出す。その言葉が俺の心に深く突き刺さった。


シロ「オイラはもっと強くなりたい!にーちゃんみたいに、クライスの兄貴みたいに、誰かを護れる力が欲しいんだ!護られるだけじゃなくて、今度はオイラが護る側になりたいんだよ!」


 その言葉はまるで彼自身の心の奥底から溢れ出た叫びのようだった。


クライス「……シロ」


 俺はシロの涙に満ちた目を見つめたまま、言葉を失った。


クライス「……何度も聞いて悪かった。だた、これだけは約束してくれ。生き延びるためにできることは全部やれ。その中に、逃げるって選択肢があってもいい。誰かを守るために、まずお前が生きてなきゃ、守れるもんも守れないだろ」


 少し微笑みながらシロの顔を見る。シロは一瞬目を丸くして、ちょっとだけ涙ぐんだ声で呟いた。


シロ「……おぅ」

クライス「よし、それなら遠慮なしだ。これまでにあったことを全部話すぞ。嫌だと言っても逃がさねぇからな~」


 俺は少し意地悪そうな表情を作り、シロをからかうように笑った。


シロ「望むところだ!」


 シロの表情にいつもの明るさが僅かに戻り、俺は胸をなでおろした。


 そして、腹を決めて口を開く。俺のギフトの能力、そして過去に戻る前にギルドで起きた出来事――すべてを、シロに打ち明けることにした。


 シロは俺の顔をじっと見つめながら、真剣な表情で最後まで話を聞いてくれた。


シロ「クライスの兄貴が……一度死んだ……?」


 その言葉には、信じられないという驚きが滲んでいた。


クライス「間違いなく殺された。そして過去のポイントを更新したこの時間に戻ってきた」

シロ「身体は平気なのか!?」


 シロは勢いよく俺に詰め寄る。その顔には、心配がありありと浮かんでいた。


クライス「問題ない」

シロ「……でも、精神的にはどうなんだよ?」


 その言葉に、一瞬だけ言葉が詰まる。


 死の瞬間――あの冷たい感覚、視界が闇に閉ざされた感覚、そして、息をすることすら許されなかった時間――思い出すだけで、背筋が寒くなる。


クライス「正直、戻ってきた時は恐怖に耐えきれなくて吐いた。ついでに毛玉もな」


 俺は努めて軽く笑い、冗談交じりに言ったつもりだったが、シロの表情は固いままだった。


 やがて、シロは静かに視線を落とし、拳をぎゅっと握りしめる。そして、決意を込めたように俺を真っすぐ見つめた。


シロ「今ここに居るクライスは無事ってことなんだよな?何も影響はないってことなんだよな?」

クライス「あぁ、大丈夫だ」


 そう言って、シロの頭をそっと撫でた。彼の不安を和らげるように、できるだけ優しく。すると、シロの肩の力がふっと抜け、張り詰めていた表情が和らいでいく。


シロ「そしたら……どうしたらいいか考えよ!」

クライス「あぁ、そうだな」


 シロが力強く言い、俺も気を引き締める。

 そして、先ほど考えたことをシロに伝えていく。


クライス「一つ前提として、ギルドマスターに俺のギフトの能力が知られるとまずい」

シロ「バレたら、すぐ殺されちゃうってことだもんね」

クライス「そうだ。そして俺の推測だが、サーチグラスではギフトの詳細までは見抜けないんじゃないかと思ってる」

シロ「何でそう思うの?」

クライス「リリアさんがサーチグラスを使った時、俺たちにギフトがあるとは言っていたけど、どんなギフトなのかは口にしなかった。ギフトの内容について説明していたのは、俺たち自身だったんだ」

シロ「……えっ、そうなの?」

クライス「あぁ。だから、自分から能力を話さなければ、バレる心配はないはずだ。まぁ万が一聞かれたとしても、適当にごまかせばいい」

シロ「……いや、それで本当にうまくいくの?」

クライス「分からん!」

シロ「え~!そんな楽観的で大丈夫なのかよ?」


 シロが呆れたようにため息をつくが、俺はニヤリと笑いながら懐中時計を取り出し、ジャラリと音を鳴らす。


クライス「もし失敗しても、その時はやられる前に戻ればいいさ」

シロ「そうか……クライスは何度もやり直せるんだもんな!なら成功するまで繰り返せばいいのか」

クライス「あぁ。……ところでシロさん、どうして急にクライスの兄貴って呼んでくれなくなっちゃったんだい?」


 俺がふざけ半分に尋ねると、シロは慌てふためきながら顔を赤くして答えた。


シロ「う、うるせぇ!クライスはクライスなんだよ!」


 その必死な様子があまりにおかしくて、俺は思わず声を出して笑った。


シロ「もういい!二度と兄貴なんて呼んでやんねぇ!クライスの分のヤキトリも全部食っちまうからな!」


 そう宣言すると、シロは俺の目の前でヤキトリをガツガツと食べ始めた。


クライス「シロ大先生!ごめんなさい!せめて1本でいいからくれ!」

シロ「や~だね。これはオイラが買ったヤキトリだ!」

クライス「そんな~!」


 俺の情けない声をよそに、シロは楽しそうに笑いながらヤキトリを頬張っている。その笑顔を見て、俺は自然と肩の力が抜けた。彼にいつもの笑顔が戻ったことが何よりの救いだった。


 俺は懐中時計を操作し、過去に戻るためのポイントを更新する。すると、シロが満面の笑みを浮かべながらヤキトリを差し出してきた。


シロ「ほらよ、兄貴」


 その一言に、俺もつられて笑みを浮かべた。

貴重なお時間を使って、お読みいただきありがとうございます。


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