この世界が終わりを告げるまで ~時間を引き延ばす能力を手に入れた僕は、世界の終わりを目撃する~
僕は、冬原 拓史と言う。中学一年生で、成績も悪くはない。が、勉強も運動も、何か群をぬいているものがある訳でもない。平凡と言うやつだ。何か得意なことがある訳でもなく、かといって、苦手な事がある訳でもないので、人を惹き付けるような魅力もない。全てが普通でごく平凡。それが、僕を表す最も簡単な表現の仕方だ。
さて、そんな僕だが、実は、異世界というものに憧れを持っていたりもする。友達に言ったりしないので、誰かに知られている訳ではないが、憧れていると言うのは事実だ。何かのきっかけが元で異世界に転移、或いは転生する、と言う物語を読んだ訳だが、正直、あり得ると信じている訳ではない。が、憧れているのは確かなのだ。故に、何かきっかけが無いかと期待したりもするのだが、当然、そんなきっかけなど、簡単に訪れてこない。実際、まだ、何のチャンスも訪れていないのだ。やはり、無理なのかと諦めかけて眠りについた、次の日の朝の事だった。
朝起きると、すぐに異変が目についた。時計が、止まっている。体感時間が1分経っても、秒針が動かないのだ。たまたまその時計だけ壊れているのかと思い、他の部屋の時計も確認してみるが、他の時計も動かなくなっていた。その後、時計を見続けていると、体感時間が5分ほど経った頃に、ようやく秒針が動いた。これは……周りの時間が遅くなっているのだろう。試しに太陽を見続けてみるが、太陽も全く動かない。ほとんど、ではなく、全く動かないのだ。まあ、太陽が動いているところを見たことがあるという確証を持っている人もほとんどいないだろうが。
と、ここで、困ったことに気づいた。他の人の話が聞こえないのだ。まあ、冷静に考えてみれば、当然の事だろう。時間が遅くなっているという事は、他の人が話すスピードも断然遅くなるということだ。ただ、困ることばかりでもないだろう。何故なら、5分に一回しか秒針が動かないという事は、時間が300倍に引き延ばされているという事で、つまり、1日が、300日に感じられるという事なので、有効時間も300倍に伸びるのだ。となると、夏休みの宿題が、毎日2時間もしなければならなかったのが、実際の時間では、たったの24秒しか過ぎていないという事になるので、残りの時間は自由に過ごせるという事になるのだ。なんと素晴らしい能力なのだろう。
さて、そうとなれば、さっさと宿題を終わらせねば。僕は、急いで宿題を終わらせ、宿題が終わるなり、自分の部屋へと飛び込む。宿題が終わった今、残りの時間は、思い切り楽しむだけだ。僕は、これまで進めていなかったゲームを始めようとした。が、またもや困ったことに気づく。ゲームを起動しようとすると、通信環境が悪いのか、動作が遅い。だが、冷静に考えてみれば、これも当然の事だ。時間が引き延ばされている以上、通信にも時間がかかる。しかも、300倍に時間が引き延ばされているという事は、通信にかかる時間も300倍になっているという事で……正直言って、時間がかかりすぎる。もっと手間のかからないもの……とは言っても、ゲーム系やテレビ系は、制限を受けてしまう訳なので、出来ることと言えば、家の本を読破するぐらいか。だが、もう家の小説もマンガも既に読破してしまっているし……やることが無いな……。だからと言って、この特殊能力を無駄にはしたくないな……そうだ。普段は運動をしないから、この機会に、公園にでも出かけてみるか。
僕はそう考え、公園へと向かうことにした。
公園へと向かう途中でも、様々な気づきがあった。まず、僕は、腹が減る時間や、眠くなる時間などが、普通の時間と同じになっていると言うことだ。つまり、腹が減るまでの時間も、いつもの300倍になる訳だし、眠くなるまでの時間も、いつもの300倍になるという訳だ。何故そんなことが分かったのか、それは、僕は、まだ朝飯を食べていなかったからだ。普通なら、起きてから、勉強の2時間プラス、その後どうするかを考えていた時間30分、その他諸々、合わせて3時間も飯を食べていなかったなら、そろそろお腹が空いてきてもおかしくないはずだ。だが、まだお腹が空いてこない。それどころか、まだ満腹に近い状態なのだ。という事は、僕の空腹度は、普通の時間が基準になっている事だ。
次に、どうやら、僕の姿は、他の人には見えていないようだ。恐らく、僕の動きが速すぎて、他の人には、僕の姿が見えないのだろう。勉強をしている時に、母が何の違和感も感じていなかったのは、恐らく、僕が宿題をしていた、現実の時間での24秒間は、僕の姿が見えていたからだろう。
さて、そうこう考えている内に、公園へと着いた。
公園では、平日の朝だが、すでに数十人ほどがひなたぼっこをしたり、親子連れが遊んだりしているようだ。
ベンチでは、犬を抱いた老人が、穏やかな表情で犬の頭を撫でていた。おじいさんも、犬も、とてもリラックスしているようだ。
そのベンチの前を、手を繋いだ親子連れが歩いているようだ。お母さんの方も、女の子の方も、ニコニコ笑顔だった。
そして、草原の上では、小学校中学年程の男子が五人程で集まって、何やら楽しそうにしている。どうやら、ゲームで対戦しているようだ。楽しそうで良いなと思いつつも、公園でやることか? と疑問を覚えてしまったが、それは気のせいにしておこう。
さて、そう言えば、さっきから、上空から強い圧を感じるのだが、気のせいなのだろうか……?
僕は、上空を見て、圧が気のせいなのかどうかを確かめ……目玉が飛び出そうな程驚くものを目撃した。ここから見てもかなり巨大に見える隕石のようなものが、落下して来ているのだ。時間が引き延ばされているから動きがゆっくりに感じるだけなのだろうが、時間が引き延ばされていなかったなら、凄まじいスピードで接近してきて、あっという間に世界が終わってしまうだろう。
さて、いくら時間が300倍に引き延ばされているとはいえ、残された時間はそこまで多くない。恐らく、残り1日もしない内に、あの隕石が衝突してしまうだろう。どうするべきだろうか。今から逃げたとしても、生き延びられる可能性はほとんど無い。なら、事情をいち早く把握しており、この場で一番速く動ける僕が、より多くの人々を救う方が良いのではないだろうか。
そう考えた僕は、早速行動に移る。まず最初に取り掛かったのは、先ほどの犬を抱えたおじいさんの救助だ。老人の方が、若者よりも逃げるスピードは断然遅い。それならば、まず、避難は、老人を優先させるべきだ。だが、僕には、隕石落下時の避難場所についての知識が無い。取り敢えず、学校の体育館のような丈夫な避難場所に避難させるべきだろうか。
今が夏休みだったと言うことが幸いし、すぐに学校の体育館に辿り着く事ができた。僕は、体育館の戸を力ずくで開け、その中に老人を寝かせる。それから、再び公園へと戻り、別の老人を運び出す。まだまだ時間は十分にあるが、悠長にはしていられない。何しろ、こうして老人を運んでいる間にも、隕石はどんどん迫って来ているのだから。このままだと、全員を助け出す事ができない。もっと早く動いて、できるだけ多くの人々を助け出さねば。
人々を体育館に運んで行く中で、だんだん、公園にいる人々の中にも、隕石の接近に気づいたのか、顔を青ざめさせる人や、目を見開く人などが出てきた。それを見て、あちこちに逃げ出す人々がいれば、スマートフォンを取り出して、写真を撮り始める人々もいる。前者の方は自然に逃げてくれているので、僕が助け出す必要は無いのだが、問題は後者の方だ。スマートフォンを構えているという事は、隕石の接近を他人事だと思っているという事で、つまり、自分達に損害は無いので、悠長にしていられると思っているようだ。だが、その油断が、死に繋がる事もある。今回のケースが良い例だ。早く逃げなければ、彼らは死んでしまう。老人の避難を終えた後、僕は、その人々の避難に取りかかる。
だが、僕に避難させられた人々は、やはり、驚きを隠せないようだ。体育館の外に出て、状況確認をしようとしている人々が大勢いた。僕は、その人々を体育館の中に戻し、再び公園にいる人々の避難を進める。
半日ほどかけて、ようやく公園にいた人々の避難を終えた。次は、周辺の人々の避難と、避難済みの人々が逃げ出さないようにの見張りだ。僕は、公園の周りにいる人々を一人見つけて避難所に運んでは、体育館から出ようとしている人々を体育館の真ん中付近へと連れ戻す。その作業の繰り返しだ。
3時間ほどかけて、公園の周辺にいた人々の避難を完了させた。だが、もう隕石は近くに迫って来ていた。もうこれ以上他の人々を助けるのは時間の関係上無理そうだ。僕は、そう考え、その時に備えて準備を進める。
隕石が衝突した時、恐らく、衝撃波が生じるはずだ。その衝撃波によって、ガラスが割れでもしたら、とんでもない事になるだろう。それを防ぐために、超特急で家へ帰り、テープを取って、また学校へと戻る。それから、体育館の窓全てに、テープを交差させて貼りつけていく。ガラスの飛散防止のためだ。さらに、人々を、できるだけガラスから離れさせる。これで、ガラスの飛散による、人々のけがのリスクを抑える事ができた。
そうこうしている内に、隕石は、地上に限りなく近づいていた。もうあと数分程すれば、隕石が地上に衝突してしまう。僕は、頬を二回叩き、気合いを入れる。
ここからが、正念場だ。
・・・・・・・・・
激しい轟音が立ち、地面が揺れる。
「……来たか」
僕は、そう呟く。それから、僕は、吹き飛ばされないように、床に伏せる。直後、ガラスが割れたような音が鳴ったかと思うと、衝撃波が、僕の背を撫でた。僕は、伏せている間に、恐ろしい光景を目にした。隕石が衝突したところから、細かい塵のようなものが高く上がっていったのだ。これは、恐らく、恐竜を絶滅させた隕石が衝突した時と同じ現象だ。恐竜を絶滅させた隕石が衝突した時、塵や岩石が大気に舞い上がり、森林火災が発生して、動物は生きたまま焼かれ、日光が遮断されて、地球上の多くの生物が死に至ったと聞いた事がある。もし、それが今からここで起こるのならば、勘弁してほしいというのが本音だ。だが、僕は、今までで、100人以上もの人を救うために、必死で動いていた。ここで人々を見捨てて自分だけ遠くに逃げるなんて真似は到底できない。今、一番素早く動けるのが僕な以上、僕が、人々の命を救うために動くしかない。
僕は、人々と隕石の間に立ち塞がり、人々を熱風から守る。背中がどんどん焼かれていく。僕の顔も、それにつれて苦しそうなものへと変わっていく。さらに、体育館が、ミシミシと音を立てている。このままでは、体育館ごと押し潰されてしまう。それだけは避けなければ。僕は、体育館の中に避難している人々を、体育館の隕石の反対側の外に動かしていく。僕は、熱風を全身に浴びながら、人々の避難を終える。そして、僕が体育館の外に飛び出した途端、体育館が崩壊した。何とか、九死に一生を得た。だが、まだ終わりではない。未だに熱風は出続けており、さらに、隕石の衝突地点からは、溶岩のような物体が流れ出していた。そして、その物体は、四方に流れ出していた。
これは、僕がどうのこうのできるような物では無さそうだ。老人二人を抱えて、逃げていく。
背後から、激しい熱気を感じる。かなりの距離があってこれだ。もっと近づいたり、追いつかれてしまったりでもしたら、ただでは済まないだろう。本気で逃げていく。
だが、溶岩のような物体は、凄まじい速度で迫って来て、僕との距離も縮まっていく。僕の背中に感じる熱気も、さらに強くなってくる。僕の背中から、汗が滝のように流れ出る。だが、走る速度は緩めない。何せ、足を止めたその時が、僕の命の終わりなのだから。
しかし、僕に抱えられた老人以外の人々は、次々に溶岩のような物体に飲み込まれていく。僕の救おうとした人々が次々に命を落としていく、そう考えると、胸が痛くなる。だが、今は後ろの人々を救える程に余裕があるわけではない。力を振り絞って、足を大きく踏み出す。
だが、今度は、上空から、たくさんの塵が降ってきた。塵は、目の中に入ってくるため、まともに目を開ける事すらできない。僅かに目を開け、周囲の状況を把握する。後ろの溶岩のような物体は、先ほどの距離を維持している。しかし、海に目を向けると、ある異変に気がつく。海水面が大幅に下がっているのだ。干潮だ、満潮だ、というのは関係ない。何せ、干潮時でも水の中にあるはずの海底が、地上に露出していたのだ。さらに、海水が減っていくのが、目で見て瞬時に判断できる。空は、隕石が衝突した際に巻き上がった塵などで覆いつくされつつあった。これは、本当にこの世界が滅ぶのかもしれない。僕は、周囲の状況を確認してそう思った。
さらに、塵などで空が覆いつくされたせいで、だんだん肌寒くなってきた。これは、本当に駄目かもしれない……
しかも、学校は、四方を森に囲まれていて、その森が燃え始めたのだ。火は、他の木へと燃え移り、その結果、四方の森全てが燃えるという、最悪のシチュエーションとなってしまった。僕は、四方全てを火に囲まれて、逃げる気力を喪失してしまった。と、そこへ、溶岩のような物体が迫って来て、そして――
僕、冬原 拓史の人生は、そこで終わりを告げた。
・・・・・・・・・
その後、学校で起きた火は燃え広がり、溶岩のような物体と共に、市街地を火の海に様変わりさせた。さらに、発生した熱風によって、世界中が影響を受けた。さらに、空を覆い尽くした塵により、世界各地で被害が続出、その上、日光が遮られたせいで、農作物が育たず、そのまま餓死する人々が続出。さらに、熱風によって、世界各地で森林火災が発生し、それによって命を落とす人々も続出した。また、日光が遮られ、海の中の植物プランクトンが光合成を行えなくなった結果、それらをエサにしていた水中の動物も死んでいき……
結果、地球は絶望の時代を迎えることとなった。
こんにちは、子りっくです。この度、私の小説家になろう投稿一周年を記念して、この作品を投稿させていただきました。私が投稿一周年を達成できたのは、私の作品を読んでくださった皆さんのお陰だと思っております。そして、この小説で初めて私の作品を読んだ、という方々、たくさんいると思います。そのような方々、私の代表作、『ゲームプログラマーのゲーム世界冒険記』の方も読んで頂けるとありがたいです。
さて、私のこの短編小説、いかがでしたでしょうか。良かった、という方や、そこまででも……と思った方もいらっしゃると思います。ぜひ、良かったという方は、評価等をしていただければと思います。また、そこまででも……という方、感想等、お寄せください。そして、まだ諦めないでください! まだ、私の代表作、『ゲームプログラマーのゲーム世界冒険記』が残っています! ぜひそちらの方も読んでみてください。そちらは、この作品よりは自信があります! 私の作者ページからお探し頂くか、作品検索画面から探してみてください!
さて、本日、この後、活動報告を更新致します。そちらの活動報告のコメント欄に、応援コメント等お寄せ頂ければ幸いです。
これからも、私と、私の作品をどうぞ宜しくお願い致します。