進軍
「我々が聖王国を護る!」
叫び、敵部隊に突入したのは、まだ僅か18の少年。
彼の言葉に応えるのは、彼よりも遥かに経験を積んでいるような者たちだ。
だが、彼・・・聖王国突撃兵隊長には、そんな部下たちを従わせる何かが、確実にあった。
「ちょっと待て。進軍停止だ」
「え?」
聖王国の突撃兵・・・忠実な臣下たちはその足を止め、何事かと隊長を仰いだ。
今、突撃兵は聖王国を出たところにいる。
長年の宿敵、帝国から国を護る任務を任されて、突撃兵は意気揚々としている。
だが、この隊長はそんなときに、進軍停止の命を出した。
「どうかされましたか、隊長?」
隊の一番前方に立つ隊長は、その口を開けぬまま、部下たちを見つめていた。
まるで何かを探すように。
冷静沈着な隊長だが、いつも突撃時には勇猛な戦いぶりを見せる。
こんなに熱がないのは初めてだ。
部下たちの動揺を察したのか、隊長は少し肩の力を抜いた。
「いや、大したことじゃない。忘れものだ。悪いが、お前、伝令を頼めないか?」
隊長はそう言うと、一人の部下の肩に手を置いた。
「はい!お申し付けください」
「うん、実はな」
部下の腕を引き、隊列から少し離れる。
そこで、耳元で囁いた。
「足の怪我は命取りだ。犠牲を出したくない。聖王国での療養を命じる」
「・・・わかりました」
少し、歩行の際の足音が不自然だったのだ。
その部下は、言い当てられたためか、呆然としていた。
離れて皆に聞こえる声に切り換える。
「では、伝令を頼んだぞ?」
「承知しました。お気を付けて」
隊長は微笑んだ。
気づく者は少ないが、これは彼の優しさなのだ。
少年らしい気配り。かつ、隊長らしい判断。
それが、この男にはある。
部下が踵を返す。
その様子を見送って、隊に戻る。
放っておいたほうが良かったんだろうか。
彼は、我々と共に戦いたかったんじゃないだろうか。
そう思ったが、後悔はない。
気遣いではなく、正しいと思われる判断をしたのだ。
「隊長、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だ。有り難う」
部下に心配をかけたようだ。
まだまだ若いな、僕も。
「敵は近くまで来ていると情報が入っている。再び隊列する。突撃用意をしろ」
「はっ」
隊長の言葉に合わせて部下は動く。
それは当然のことなのだが、僕にとっては、少し違和感がある。
思い通りに人を動かせるということが。
部下たちが、自分の一言に従うということが。
運よくこの地位を手に入れたが、あまり似合ってはいないと思う。
僕が欲しかったのは力じゃない、平和なんだ。
「隊長、敵部隊が見えました!」
心の中の声は、自分の本音。
だが、それをどうしたら良いかは、自身にもわからない。
今はとにかくやるべきことがある。
「総員、突撃!自己犠牲は許さない!」
隊が行動を始める。
僕の隣を部下たちが駆けてゆく。
「我々が聖王国を護る!」




