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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

原爆タイムリープ

作者: 澤西雄二郎

鳴り響く警報

辺り一面は真っ赤に染まり、黒い空に赤色をともしている

建物が泥のように溶けていく

焼けた人が川に向かって歩き出す

人がいるにもかかわらず、その上を歩いていく

なんで俺は生きてるんだ?

目の前に人がいる

大切な人だ

倒れた

その日、地獄を見た




「っ!…………」

「あらどうしたの?寝汗が酷いじゃない」

夢……?

さっきまで火の海の中にいたんじゃ……

顔の頬をひねる

「いっ……」

痛い

これが現実だ

酷い夢だった

暑さも痛みも、全てが本物のように感じた。

八月五日

夜中の1度空襲警報が発令され、おっかあに叩き起されたが、すぐに解除され、すぐに眠った。

「ほら、勇輝くん来てるわよ」

「ほんと!」

勇輝は俺の大切な友達で幼馴染

将来は一緒に国のための生きるって誓ったやつだ。

「おはよー!」

「おはよう、今日も元気だね」

けど最近は勇輝の元気がない。

なんだかやつれているような、そんな感じだ。

けどそのうち元気になるだろ

「今日さ〜変な夢見たんだよな」

「っ……どんな夢?」

「うーん、なんて言うか一面焼け野原で、もう二度と見たくないって感じだったな」

「そう……」

そう言うとまた元気がなくなってしまった。

「なんかあるんなら俺に言えよな?」

「うん、ありがと」

そうして学校につき、一日を終えた。




カンカンカンカン

「ほら起きて!」

母の緊張感のある声で目が覚める。

本日二度目の警報だ。

家族で地下のシェルターに逃げ込む。

それから何度か解除と発令を繰り返し、母と父は交代で眠っていた。

そして七時

父母両方眠っていた時にまた発令

その後ラジオ放送で「敵なし」とされ、シェルターから出て、みな朝の支度に取り掛かった。

少し遅めの朝食を平らげ、学校へと向かう

「勇輝のやつ…どこいったんだ?」

今日はいつも家にいるはずの勇輝がいない。

先に学校に行ったのだと思い、歩くスピードを早めていく。

その時

空の上で真っ赤な火の玉が現れた。

その瞬間、何者かに突き飛ばされたように、体が後ろに吹っ飛び、なにかに体をぶつけた。

明らかに軽い怪我ではない

内蔵がやられた、と本能がうったえる。

薄れゆく視界の中、昨日夢で見た景色と繋がる。



「まさか──」




「っ!」

「あらどうしたの?寝汗が酷いじゃない」

布団から飛び起きる。

聞き覚えのある母の声

「ほら、勇輝くん来てるわよ」

「……」

「どうしたの?ほら行ってきたら?」

「…………」

「あっ!こら!正之!」

勇輝には悪いが、ちょっと試してみないと行けない。

俺は学校には行かず、近くの軍隊さんたちがいる在中所に向かった。

軍兵さんたちなら、何か知っているかもしれない……

それに仲のいい人もいる

多分大丈夫だろう……



「おっ坊主、生きてたな」

「死ぬわけないでしょ、それより知ってる?」

「何が?」

どうやら明日、この街に爆弾が落ちるなんてことは知らないみたいだ。

なら教えてやらないと

そこから偉い人達にこのことが知って貰えたら……

「あのね一平さん!明日この街に……」

「敵を発見!敵発見!」

「悪いな坊主、お前は中に入ってろ」

「あっ……」

見えてしまった。

とても小さな何かが、光を反射して輝いたのが

「あの戦闘機はどこから出てきたんだ!?」

「それが……広島上空からいきなり出現したんですよ……」

「馬鹿な、そのようなことあるはずがない!」

上の階では軍兵の人達が慌てながら、敵の対処を模索する。

だがそんなのは遅い

眩い光とともに、強い熱発が全身を襲った。

体は大きく後ろに飛ばされ、意識を失った。




「っ……」

「あらどうしたの?寝汗が酷いじゃない」

また戻ってきてしまった……

体調や体の損傷などもない

あれは痛かった

壁が鉄でできているせいで、受けた衝撃は計り知れない。

「はぁ……」

そう思うと自然とため息がもれた

一平さんにに伝えたのが原因で1日爆破が早くなったのか……?

それとも明日じゃない?

頭の中で考えがぐるぐると回る。

「……わかんねぇや」

バカの俺には何ひとつとして分かりやしない。

「ほら、勇輝くんも来てるわよ」

「うん、わかった」

何も全てが嘘であって欲しいとは言わない

だが少しだけ嫌なことから目を背けたかっただけなんだ。

「おはよー!」

「おはよう、今日も元気だね」

勇輝と挨拶を交わし、元気に学校に行き、1日を過ごす

当たり前で、幸せな日常

もしかすると、今までの出来事も全て嘘では無いのかと疑ってしまうほどに

(このままでいいんだ……)

そう思い布団に入った。



鐘の音で目を覚ました。

時刻は午前七時過ぎ

俺は悟った。

やっぱり夢なんかじゃ無いって

「ーー!」

家族が見える。

炎を隔てて向こう側にいる

どこに行ったって変わらないのに……

そして視界がペシャンと小さくなった。



「あらどうしたの?寝汗が酷いじゃない」

こんなの現実じゃない

「あっ!こら!正之!」

靴をはき、最後の望みにかけた。



街のはずれにあるじいちゃんの家に行った。

「じいちゃん大変だよ!」

「どうしたどうした正之よ」

「大変なんだよ……大変でっ……ゴッ……」

「落ち着いて、な?」

「ごめんじいちゃん……」

「どうせあれじゃろ?明日の爆発」

「っ!」

「わかっておる……」

じいちゃんは遠くを見つめそう言った。

「わしらにはどうすることも出来ん、ただ流れを繰り返すだけよ」

じいちゃんはそう言うが、俺には全く分からない。

「ただ気づいただけで、何も出来ん、逃げることも、抗うことも、なにも」

「俺、じいちゃんが何言ってるかわかんないよ」

俺は釈然と悲しくなった。

じいちゃんなら何か出来るかと勝手に思ってた。

じいちゃんならわかってくれると思った。

勝手に慰めてくれると思ってた。

軽いパニックだったと思う

そのまま俺は家を出た。


瞬間

閃光が走った

真っ赤な真っ赤な閃光

目が焼けるような光


目を開けると、そこには焼け野原が広がっていた。

「じいちゃん!」

唖然としていたが、すぐにじいちゃんの顔が浮かんで、後ろを向いた。

向いたはずだ

向いたはずなんだ

体が動かない

動いてくれない

機能が完全に止まっている

そう理解した。

ゆっくりゆっくり視界が狭まっていく。

「正之!正之───」

真っ暗な世界で、じいちゃんの声だけが頭の中で響く。




「───正之!正之!」

また名前を呼ばれた。

「じいちゃん!」

「どうしたんだい……寝汗びっしょりで……じいちゃんが夢にでもでてきたのかい?」

つい名前を呼ばれて、じいちゃんを呼んでしまった。

俺は寝巻きのまま家を飛び出て、じいちゃんの所へ向かった。

「じいちゃん!」

家の中に入って呼びかけたが返事がない

「じいちゃん!じいちゃん!」

寝ているかもしれないが、仕方ないと思い、寝室の襖を開ける。

「じいちゃ…………」

俺は言葉を失った。

じいちゃんが宙ぶらりんになっていた。

いつものような肌のハリは一切なく、大きく感じた体も、とても小さく見えた。

「おい、じいちゃん……」

呼びかけても、揺さぶっても、何も無い

人の死を初めて受止めたかもしれない

俺はその場に倒れ込み、うずくまって泣いた。

『おいどうした正之?』

いつも泣いている俺を見たら、そう言って励ましてくれた。

そんな思い出が、心をギュッと締め上げる

俺はまた泣いた




きっとまた焼け野原になる

そうなったらじいちゃんはどうなるのか

そんな疑問は家を出た後だった。

前回は今日のこの時間に爆発が起きたはず、

また今日に戻ったら、じいちゃんは生き返るのかな?

「…………よし」

今日はここで一夜を明かすことにした。

結末がどうであれ、少しでもじいちゃんの思い出と過ごしたかったのかもしれない

首から紐を外し、布団にそっと寝かせる。

その姿はあまりにも安らかで、死んでいることを忘れるほどだった。

「おやすみ」

ただ冷たい肉の塊にそう言い眠りについた。




木が燃える音で目が覚めた。

古い木造建築の家じゃ、1回の火事で終いだろう

(そういや、さっきも燃えてたっけ)

よく見ると天井が無くなっている。

壁も後ろに吹き飛ばされており、改めて爆破の威力が伺える。

俺は靴を履き、家を出た。

今回は生きている。

死体と寝るなんて改めておかしい

1日経って目が覚めた。

街へおりた。

前にも見た地獄だった。

ドロドロとした肉の塊が、呻き声を上げながら街を練り歩く。

「熱い……熱い………………」

はっきりと聞き取れたのはこれぐらい。

そして川には、熱さから逃れるために入った死体が、川を埋めていた。

匂いは酷いが、ハエなどは居ないものなんだな。

(このまま生き続けたらどうなるのだろう)

ふと思った。

今回は火傷がある程度で、死ぬようなののでは無い。

毎回俺が死ぬ事で、爆破が起きる前の日に戻っていた。

だが今回は生きている。

俺は走った。

安全な場所へ行くためだ。

家族や友達のことは考えなかった。

それよりも、この地獄を抜け出すことが一番大事だと思ったから。

じいちゃんの家を横目に走った。

家は跡形もなく、今でも赤い炎を出し続けている。

街の外に行くと、生きている人がいた。

だがそこも建物が燃えていたり、余裕があるようには思えなかった

とにかく走った。

走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走り続けた。

太陽が傾き始めた頃

ようやくなんの被害もない民家をみつけ、助けを求めた。

「おぉ大丈夫か!」

ようやく救われる。

そう思った。

暖かい湯に入り、暖かく、美味い飯を食い、疲れのまま眠ってしまった。





目を開けた瞬間、また母親の声がするのではと、内心ビクビクしていた。

「おはよう」

聞きなれない声を聞いた途端、地獄から抜け出せたのだと知り、泣いてしまった。

男と女はいきなり泣き始めた俺に焦っていたが、大丈夫だと伝えると、心配そうにこちらを見た。

朝食を食べ終えると、男が

「何があったのか、少しでもいいから教えて欲しい。」

それが衣食の恩返しになると思い、時間が巻き戻ったこと以外全てを話した。

男は目を伏せ、女は泣いていた。

そして2人顔を見合せ頷いた。

「帰るあてもないなら、しばらく、いや、独り立ちするまで家にいなさい」

「いいんですか?」

これからの事をどうしようかと思っていた時にこれはまさに願ったり叶ったりだ。

「けど生活とかは……」

「いいの、元々子供が欲しかったのだけどね、私の体じゃ無理で」

「元々子供に使うはずのお金だ。ここで使ったって後悔はしないさ」

「ありがとうございます!」

俺は誠心誠意を持って感謝し、この家での生活を始めた。

この家のものはみな優しく、和気あいあいとしていた。

時には川に遊びに行ったり、

時には男と相撲をしたり、

時には勇輝の夢も見たが、そんなことでへこたれる俺じゃない。

そして時には女の出産に立ち会った。

男と女は泣いていた。

「真弓……真弓……!」

男は女を抱きながら泣いた。

(いよいよかな……)

小さな命を見つめた。

それは俺よりもずっと綺麗で、輝いていた。




荷物はこれぐらいでいいだろう。

今日この家を出る。

あの二人には世話になったが、本物の子供が出来たんだ、俺はもういらない。

礼を言えないのが残念だが、これでいいのだろう。

玄関を空け、朝靄に包まれる道に目を向け、歩き出した。

「おい!」

聞き馴染みのある声がした。

振り返ると、男が必死に走っている。

どうしてと思った。

「どこ行くつもりだよ!」

「あんたらには子供が生まれた。正真正銘本物の、なら俺はもう必要ないんだろ?」

「そんなわけないだろ……」

そう言って俺を抱きしめた。

「俺たちさ、子供が出来たって言ったけど、お前だって俺の大切な子供だ」

「え……」

「それに……手伝って欲しいんだよ、俺たちだけじゃ、優斗を上手く育てられるか不安なんだよ……」

「だから家にいてほしい、というか居てくれ」

「なんだよそれ……」

卑怯じゃないか

そんな泣き顔見せられたらよ

「わかったよ、こっちこそごめんな。勝手に居なくなったりして」

「いいんだよ、なんかそんな気はしてた。これからどうする?」

さすがにもう成人も近いし、仕事を見つけなければいけない。

タダで飯食って生きていく訳にはいかない

「働くよ、なるべく友達の近い場所で」

「そうか」

男はそう言い、また歩き出した。




その後、仕事を続けながら被爆者の話を聞いてまわった。

こんな残酷な出来事を風化させない。

ほかの仲間も同じ気持ちだ。

15回目の墓参り、その年にガンが見つかった。

決定的な証拠はないが、おそらく被爆したのが原因だと言っていた。

「優斗も大きくなってな……」

「そんな悲しいこと言うんじゃねぇよ……」

優斗は今年で十六歳、十歳しか変わらないのにまだまだガキっぽい

「なぁ」

「どうした」

男に話しかける。

「俺原爆の時に死んでたんだよ」

「……」

「けど今生きてる、きっと神様がいるんなら相当優しいし、慈悲深いんだろうな」

「……あぁ」

今何を喋っているのかなんて、俺でも分からない。

けどそれを男は最後の言葉と思ってくれている。

「真弓さん、ご飯とっても美味しかったです。優斗、迷惑かけてもいいが、親泣かせるなよ……」

「俺は……?」

「あんたは……」

なにか言おうとしたが出てこない。

胸が感謝でいっぱいなんだ。

「まぁありがとう」

「なんだよそれ……」

そうハミカミながら、涙を脱ぐう。

「俺、天国に行けるよね」

「あぁ……当たり前だ……」

「生かせてくれてありがとう、父さん、母さん……」

三人の泣き声と感謝の言葉を聞きながら、息を引き取った。

目覚めることの無い、永遠の眠り













「───之!正之!」

そんなわけが無い

「正之!正之!」

「っ!」

「あらどうしたの?寝汗が酷いじゃない」

どうやら天国には行かせてくれないようだ

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