彼の事情 sideサディアス
読んでいただき、ありがとうございます。
※今話はサディアス視点になります。
よろしくお願いいたします。
面談の担当者がようやく現れたので、ミアを応接室に残し、俺とイアンは退室する。
「いやぁ……元気で可愛い子だったね」
王城の廊下。隣を歩くイアンがへらへらと笑いながら話しかけてくる。
「元気で可愛い……?」
「さっきの聖女候補の子!ミアちゃんだよ!」
名前にちゃん付けで呼ぶイアンの気安い調子に驚きながらも、先ほど出会ったばかりの少女の顔を思い浮かべる。
それと同時に、俺を睨みつける鋭い目付きと、小気味よい舌打ちの音が脳裏に蘇った。
「気性が荒そうだとは思ったが……」
「でも、あれはサディアスが悪いんだろ?」
イアンに詳しく事情を聞かれ、ノックもなしに入室して舌打ちをした俺の態度が悪いと指摘された。
「……まあ、お前の気持ちもわかるけどさ」
「…………」
その後に続くのは、俺に寄り添うような言葉。
第四魔術師団に所属する仲間であり、幼馴染でもあるイアンは、俺の特殊な事情を知っている数少ない理解者であった。
俺は女性からの好意が苦手だ。
それは、『好きだから』という理由で付き纏われ、追い回され、散々な目にばかり合ってきたから。
それも一度や二度ではない。さすがに二桁はオカシイだろう……。
それでも周りは、『女にモテて困るだなんて贅沢な悩みだ』などと言って、俺の気持ちに理解を示してはくれなかった。
酷い時には『アイツが誘惑したんじゃないか?』と、被害者であるはずの俺の態度に問題があるのだと、悪しざまに陰口を叩く奴もいた。
そうこうしているうちに『あの事件』が起こり……その結果、ようやく俺の置かれている状況の異常性が浮き彫りとなったのだ。
侯爵家の次男という立場と魔力の強さがなければ、今頃はどうなっていたのかわからない。
そんな苦い経験を重ねた俺は、女性との関わりを断つべく動き始める。
『微笑みかけられたから』という理由で付き纏われたので、人前では無表情を貫くようになった。
『会話が弾んだから』という理由で怪しげな贈り物が届くようになったので、口数を減らした。
『自分の瞳と同じ色の服を纏っていたから』という理由で勝手に婚約者だと思い込む者が現れたので、外では制服しか着用しなくなった。
その結果、サディアス・ウェバーは女性に見向きもしない冷徹な男だと噂されるようになる。
それでも、俺に執着する女性は未だに後を絶たない。
そんなこともあり、今回も俺目当ての女が応接室に忍び込んでいたと思ったのだ。
そのような相手に隙を見せてはいけない。
不快感を顕にした表情と態度で相手を威圧する。
そうでなければ、彼女たちは自分に都合よく解釈し、事実を捻じ曲げてしまうからだ。
しかし、ミアはそんな俺を睨みつけると、舌打ちまでしてみせた。
あまりに予想外の態度に面食らってしまう。
その後、応接室に現れたイアンによって、ミアは聖女候補としての面談に訪れただけであったことが判明する。
彼女には、あの後きちんと謝罪をしたのだが……。
『そんなぁ……全く気にしてませんよぉ』
語尾にハートが付きそうな甘ったるい声と笑顔のミアだったが、俺に向けられたその目は全く笑っていなかった。
まあ、初対面で舌打ちをされれば、誰だって悪感情を抱くだろう。
そんな当たり前のことが、俺にとっては新鮮だった。
(それにしても、あの顔……)
イアンに舌打ちを暴露した時もそうだったが、顔は笑顔のまま、その目は怒りの感情を雄弁に語りかけてくる。
(なんとも器用なことだ)
それを思い出すと、再び笑いが込み上げてきた。
「ん?どうした?」
「いや、何でもない」
俺は咳払いをすると、表情を消す。
「まあ、これから訓練で顔を合わす相手がまともでよかったよ」
イアンがしみじみとした口調で言う。
聖魔法を発現する者はかなり珍しい。それが、三年前のほぼ同時期に三名も現れたのだ。
彼女たち全員が聖女になれるかは未知数だったが、新たな魔術師団を設立するきっかけとなる。
そうして、第四魔術師団が新設され、俺は団長として任命された。
現在は、第一から第三までの魔術師団が、現役の聖女たちとともに魔物討伐の任務を引き受けている。
第四魔術師団はミアたち三名の聖女候補とともに訓練と演習を重ね、いずれは魔物討伐の主力となっていくはず……。
それなのに、訓練にかこつけて俺に付き纏うようなことがあれば、面倒くさいことこの上ない。
その点、俺に好意の欠片も無さそうなミアならば安心できる。
「ああ、そうだな」
そう返事をしながらも、好意を持たれないほうが安心だなんて滑稽だと……今更そんなことを思ってしまった。