過保護な魔術師団長様
読んでいただき、ありがとうございます。
※本日二話目です。
※最終話となります。
よろしくお願いいたします。
マミヤことエイベルの所業はサディアスによって王家へ報告された。
しかし、案の定というべきか、この件に関しては神殿に一任するという答えが返ってきたらしい。
本来なら、エイベルに甘い処罰であると、神殿側の体制を非難したいところだが……。
あのエイベルの恐怖に満ちた表情と態度を見るに、レジナルドにお任せしたほうがよっぽど罰になりそうな気がした。
それはサディアスも同じだったらしい。
ただ、このまま私を神殿内に置いておくことはできないと訴え、そこは譲歩の姿勢を見せてくれたようで、私の居住先は王城へと移されることになったのだ。
ちなみに、サディアスは自分の屋敷へ私を連れて帰ろうとしたのだが、さすがにイアンから止められてしまい、魔術師団の宿舎内に私の部屋が設けられた。
そして現在、魔術師団棟の応接室にて、同じ聖女候補であるラシェルとレベッカともにお茶を飲んでいる。
『あなたと話したいことがあるの』
今日の訓練が始まる直前、彼女たちにそのように声をかけられた。
話の内容になんとなく心当たりがあった私は、サディアスに頼んでこの場を提供してもらい、今に至る。
「単刀直入に聞くわ。『スイパラ』って……わかる?」
ラシェルがそう切り出したことで、やはり前世とゲームにまつわる話だったと身体に力が入った。
以前、図書室で声をかけられた時から疑ってはいたが、これで彼女たちも転生者であることが確定する。
「はい。前世で……」
「やっばり……」
驚く様子のないラシェルとレベッカに、彼女たちも私が転生者であると薄々感じていたのだろうと思った。
それからは、互いに情報を交換し合う。
まず、私たち三人ともが住んでる場所も年齢もバラバラで、前世で関わりはなかったようだ。
マミヤのようなストーカーではなかったことにホッとする。
そして、ラシェルとレベッカの前世の記憶が蘇ったのは、聖女候補として初めて王城を訪れる日の朝だったと聞き、私とは五年もタイムラグがあったことに驚く。
「当日の朝じゃ、もう逃げられないじゃない?なんてタイミングで思い出させるんだってイライラしちゃって……」
「わ、私も……。どうしたらいいのか不安で不安で……」
あの時の、彼女たちの態度の意味をようやく知った。
「でも、シュミットさんが先輩だって紹介されて、私がヒロインじゃないんだって安心しちゃった。ごめんなさいね」
「それは私も……」
スイパラのヒロイン候補は三人。
そこからプレイヤーに選ばれなかった二人は、ライバルとしてストーリー途中からの登場になる。
つまり、先輩聖女候補として私が登場した時点で、ラシェルとレベッカは自分たちがヒロインではなかったことを知ったのだという。
「え?普通は逆じゃないの?」
なぜ、自分がヒロインではなく、ライバルであったことに安心したのだろう?
ヒロインのほうが嬉しくないだろうか?
私はめちゃくちゃ嬉しかった。
しかし、そんな私の発言に、彼女たちは驚いたように目を見開く。
「あなた、もしかしてエンディングを知らないの?」
「ゲームは最後までクリアされましたか?」
二人同時の質問に、全キャラのハッピーエンドを見たことを告げる。
「あー……ハピエン厨だったかぁ……」
そう言ってラシェルは天井を仰ぎ、レベッカは憐れむような視線を私に向けた。
(ハピエン厨……)
たしかに、前世の私は現実逃避のために乙女ゲームをプレイしていたので、ハッピーエンドばかりを好んでいた自覚はある。
「あのね、スイパラをプレイしてて簡単過ぎるって思ったことない?」
「それは、まあ、たしかに……」
攻略サイトを見るまでもなく全キャラをハッピーエンドでクリアできるのだから、かなり簡単設定だということには気付いていた。
「このゲームはすぐに好感度が上がっちゃうから、バッドエンドになるほうが実は難しくって……。だからこそ、バッドエンドを見るためにやり込むゲームなの」
「そして、バッドエンドでは攻略キャラたちの裏の顔を見ることになるんです」
二人の説明に驚きを隠せない。
「裏の顔って……?」
しかし、私の問いかけに、二人は気まずそうな顔をする。
「これはあなたも知っていると思うけど……エイベルルートのバッドエンドで明かされるのは、実はエイベルがストーカーだったってこと」
「えっ?」
あれは、マミヤが転生したからではなかった……?
「そして、ヒロインの絵が壁中に飾られたアトリエに監禁エンド」
「…………」
マミヤが再現しようとしていたエンディングを改めて知り、頭を抱えたくなってしまう。
「だから、私たちはヒロインになりたくなかったの。ハッピーエンドでもバッドエンドでも、攻略キャラの二面性に変わりはないわけでしょ?あんなヤバい裏の顔を持つ相手と恋愛する気になんてなれないし」
だから、彼女たちはヒロインじゃないことに安心したという話に繋がる。
ライバルといえど、攻略キャラともしものことがあってはいけないからと、なるべく距離を取るようにしていたそうだ。
そして、二人の口から攻略キャラたちの裏の顔が次々と明かされていく。
チェスターは強き者に踏み躙られることを喜ぶマゾヒスト、ハドリーは美しい者を人形のように扱う人形偏愛症、レジナルドは神に背く者を躾と称して痛ぶるサディスト……
そこまで聞いたところで、マミヤがレジナルドにあんなにも怯えていた理由を察した。
ハッピーエンドとのあまりの違いに、人間不信に陥りそうだ。
「待って!じゃあ、サディアス団長にも裏の顔があるかもしれないってこと?」
その可能性に気付いた私は、思わず叫ぶ。
「まあ、それは……ねぇ?」
「ええ、あれはちょっと……」
言葉を濁し、目配せをする二人。
(サディアス団長にもそんな設定があったなんて……)
絶望的な気持ちになっていく私に、呆れたような声でラシェルとレベッカが言葉を続ける。
「まさか、冷徹な最強魔術師団長様があんなにも過保護だとは思わなかったわ」
「シュミットさんが大切なのはわかりますけど、ちょっと過保護過ぎますよね」
「え……?」
たしかに、過保護なところも裏の顔だと言えなくもない……?
「ゲームに関係なくサディアス団長のことを好きになったなら、その気持ちは大切にしたらいいんじゃない?」
「攻略キャラたちは特殊かもしれませんが、人間誰しもが色々な一面を持っているものですし」
「………っ!」
二人の言う通りだ。
サディアスと向き合うと決めたはずなのに、またゲームだ何だと騒ぎそうになった自分を恥ずかしく思う。
その時、ノックする音が聞こえ、扉が開くとともにイアンが顔を出す。
「お話し中にごめんね。神殿からお迎えの馬車が到着したみたいなんだ」
「もう、そんな時間ですか?」
「話の続きは明日でも大丈夫かな?」
「もちろんです!」
私は宿舎に帰るだけだが、ラシェルとレベッカは神殿に戻らなければならない。
「馬車乗り場まで送って行くよ」
イアンからの申し出に、二人は顔を引き攣らせながら全力で拒否をしている。
(そういえば、イアンの裏の顔を聞きそびれちゃったな……)
しかし、目の前のラシェルとレベッカの態度を見るに、他の攻略キャラのようにハードな裏の顔であることが予想できた。
(知らないままのほうがいいのかもしれない……)
そのほうが、心の中の平穏が保たれる気がする。
「ミア。終わったのなら宿舎まで送ろう」
そこにサディアスも現れて、その場は解散となった。
◇
夕闇が広がる中、王城の庭園をサディアスと並んで歩いていく。
宿舎に向かう途中に、寄り道をしようとサディアスから誘われたのだ。
「うわぁ……すごく綺麗」
「ああ。それに、この時間は人が少ないと聞いたからな」
「人目を気にせずにゆっくり見れますね」
そのまま、しばらく歩いた先にガゼボを見つけ、そこで休憩をとることにした。
「先ほど、頼んでいた新居の図面が届いた」
「ほんとですか?見てみたいです」
それはサディアスからの提案で、二人で暮らす家を用意したいと言われていたのだ。
王都にサディアス個人の私邸があると聞いていたので、そこに私が引っ越しをすればいいと伝えたのだが、私のストーカーホイホイな体質を考慮した家にしたいと却下されてしまった。
それに、マミヤのことがあったばかりで、安全面を理由にされると断りづらい気持ちもある。
こうして、新居を構える計画が動きだしたのだが……。
「要塞の図面ですか?」
「いや、二人で暮らす新居の図面だ」
そうはいっても、見せてもらった図面上には物騒な魔導具の名前がこれでもかと記載されている。
「ちょっと過剰防衛過ぎません?」
「ミアを守るにはこれでも足りないくらいだ」
これはちょっと意見の擦り合わせが大変そうだ。
「あと、これも受け取ってほしい」
そう言って、サディアスは懐から小さな水色の箱を取り出し、私の手のひらの上にそっと乗せた。
「開けてもいいんですか?」
「ああ」
箱を開けると、大粒のアメジストが台座に取り付けられた銀の指輪が入っている。
「これ……婚約指輪……!?」
少し前に、サディアスとともにデザインと宝石を選んだものだった。
「完成したと魔導具課から連絡があってな」
「え?」
「どうした?」
「魔導具課?ジュエリーショップじゃないんですか?」
「魔導具製作はプロに頼むべきだろう」
「じゃあ、この指輪って……?」
戸惑いながら、箱の中の指輪を見つめる。
すると、サディアスが箱から指輪をそっと取り出し、もう片方の手で私の左手を持ち上げ、薬指に指輪をゆっくりと嵌めていく。
サディアスの瞳と同じ紫のアメジストが、私の薬指に美しく輝いている。
「ミア、君を愛している。これからも君を守り、共に歩んでいきたい」
彼の熱の籠もった言葉に、私の胸は高鳴っていく。
そして、なぜか視界が滲んで涙が溢れた。
「はい。私もサディアス団長を愛しています。あなたの隣で……ずっとずっと一緒に……」
私は、目の前の彼が愛おしくて仕方ない。
そんな、サディアスを想う気持ちが涙とともに溢れ出す。
「サディアスと……そう呼んでくれ」
「サディアス……」
「ミア、愛している」
互いの視線が絡み合う。
そして、目を閉じて口づけを交わした。
これからの未来を、共に歩もうと言ってくれる人がいる。
愛し、愛されることの喜びを教えてくれる人がいる。
それが、こんなにも幸せであることを、サディアスのおかげで知ることができた。
「この指輪には、ミアを守るための魔法をこれでもかと詰め込んでおいた」
「ふふっ、これも過剰防衛ですよ」
「ああ、そうかもしれない」
そうして、私とサディアスは見つめ合い、再び口づけを交わすのだった。
これにて完結となります。
久し振りの連載だったので、最後まで書き切ることができてホッとしております。
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本当にありがとうございました!




