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邂逅3

読んでいただき、ありがとうございます。


※本日は二話投稿します。

※次話は8時10分頃の予定。


よろしくお願いいたします。


「理子ちゃん?」

「私はあなたとこんな場所で暮らすつもりはないから」


声が震える。

それでも、毅然とした態度でマミヤに告げた。


「もしかして、バッドエンドだから怒ってるの?でも、このエンディングなら朝から晩までずっと一緒に過ごせるんだよ?僕はこっちのほうが好きだなぁ。理子ちゃんだってそう思うよね?」

「私はこんなエンディング望んでない!」

「でも、これがエイベルとのエンディングだよ。理子ちゃんの大好きなスイパラのシナリオ通りじゃないか!」


そう言いながら、目の前まで近付いたマミヤが私に手を伸ばす。

その手を、私は力一杯に払い除けた。


「触らないで!私はサディアス団長と……」


その瞬間、強い衝撃が左頬に走り、そのまま私は倒れ込む。

ジンとした痛みのあとに、マミヤに頬を打たれたのだと……理解が後から追いついた。


「り、理子ちゃんが悪いんだよ!あんな奴の名前なんて出すから!サブキャラのくせに髪まで触って……あんなことまで!僕の理子ちゃんなのに!」


頭を掻きむしり半狂乱になってマミヤは叫ぶ。


私はあんたのものなんかじゃない!

そう強く言ってやりたいのに、私の身体は震えるばかりで立ち上がることもできない。


「理子ちゃんは僕のものなんだから。ちゃんと僕の言う事を聞いてくれたらそれでいいんだよ。だから……ね?」


打って変わってなだめるような声で、再びマミヤの手が伸びてくる。


その時だった。


──パキッパキッ


薄いガラスが割れるような音が、マミヤの後ろから聞こえてくる。


異変に気付いたらしいマミヤが振り向くと、そこには投げ捨てられたはずのウサギのぬいぐるみ……ヤミーちゃんが立っていた。


──パキッパキッパキッ


絶えず発せられる音とともに、ヤミーちゃんを覆っていた青白い光の壁にヒビが入っていく。


──パキンッ


そして、一際ひときわ大きな音を出して、青白い光の壁は砕け散ってしまった。


それと同じくして、ヤミーちゃんの口元が三叉みつまたに割れ、中から黒い手のようなものが何本も這い出てくる。


「な……!?」


突然のことに動けないままのマミヤに向かって、ヤミーちゃんから伸びた黒い触手が猛スピードで襲いかかった。


「うわっ!」


結界魔法が間に合わずに、何本もの黒い触手がマミヤの身体を拘束する。


「くそっ!離せ!」


マミヤは必死に暴れているが、触手はびくともせずに絡みついたままだ。


突然のことに呆気にとられながらも、私は座ったままずりずりと後退してマミヤと距離をとる。


(これが、ヤミーちゃんの能力?)


まさか、結界魔法を破るほど強力だとは思わなかった。

あんなに可愛いウサギのぬいぐるみなのに……。


その時、サディアスが名付けていたヤミーちゃんの正式名称を思い出す。


『闇よりいでし者』


ぬいぐるみの口元は三叉に裂け、黒い触手がうねうねと這い出る様子は、前世で見たクリオネの捕食シーンを連想させる。

まさに、サディアスの名付けた通りの姿だった……。


「ふぅ……」


私は息を吐くと、ぐっと足に力を込めて立ち上がる。

この隙にアトリエから脱出するべく扉に駆け寄るが、青白い光に弾かれてしまった。


仕方なく、拘束されたままのマミヤのもとへ。


「り、理子ちゃん……」


彼は縋るような視線を私に向ける。


「この部屋の結界を解除して」

「ダメだよ!理子ちゃんはここで僕と暮らすんだから!前世で結ばれなかった僕たちがやっと一緒になれるんだよ?」

「…………」


必死に訴えかけてくるマミヤを無言で見つめる。

おそらく、彼に何を言っても無駄なのだろう……。

それでも、私は口を開いた。


「自分の未来は自分で決める。あなたが用意したエンディングなんて必要ない!」


そして、私は渾身の力を込めて、マミヤの腹に蹴りを入れる。


「ぐあっ!」


苦痛に顔を歪める彼に、今度は脅すように詰め寄った。


「もう一発蹴られたくなかったら、さっさと結界を解除して!」


ヤミーちゃんの拘束がいつまでつかがわからない以上、今のうちに結界魔法を解除して脱出しなければならない。

乱暴なやり方だとしても、躊躇している場合ではなかった。


その時、部屋全体が揺れるような振動を感じ、それと同時に激しい音を立てながら結界魔法にヒビが入っていく。


(さっきのヤミーちゃんの時と同じ……?)


そして、一層激しい音とともに部屋全体を覆っていた結界魔法が砕け散る。


「どうして僕の魔法がっっ!?」


驚いているマミヤの反応を見て、彼が結界魔法を解除したわけではないことを悟る。


すると、激しく扉を叩く音と、ガチャガチャと乱暴な金属音が聞こえ……ものすごい勢いで扉がひらいた。


「ミア!」


サディアスが私の名を呼びながらアトリエに飛び込み、そのあとにレジナルドと数人の神官が続いた。


「あ………」


目が合うと、サディアスは一目散に私に駆け寄り、強く強く抱きしめられる。


「ミア!無事か!?」

「はい、なんとか……」


サディアスの腕の中から顔を上げると、紫の瞳が私を見下ろす。

その瞳が、ハッと何かに気付いたように見開かれた。


「ミア……」


サディアスの右手が、そっと私の左頬に触れる。


そういえば殴られたんだった……と、今さらながら左頬の痛みを自覚した。

それどころではなかったため、すっかり失念していたのだ。


「よくもミアをこんな目に……」


そう呟いたサディアスは怒りの色を露わにする。


「楽に死ねると思うなよ」


物騒な言葉が飛び出たので、慌ててサディアスにストップをかけた。


「だ、大丈夫です!私が自分でやり返しましたから!」


思い切り腹に蹴りを入れたと説明するも、サディアスの怒りが治まらない。


「理子ちゃんに触るな!」


その時、神官に囲まれたマミヤが声を上げた。


「どうしてお前なんかが理子ちゃんに……!サブキャラのくせに!僕の理子ちゃんなんだぞ!」


拘束されたまま喚き散らすマミヤ。

その異様さに、サディアスの表情は怒りから困惑へと変わっていく。


「リコ……?あの男は一体何を言っているんだ?」

「あー……その、私を誰かと勘違いしているというか、思い込んでしまっているというか……」


前世の記憶や乙女ゲームを説明するわけにもいかず、あやふやな答えになってしまう。


「つまり、ミアをリコという人物だと思い込んでいると?」

「はい……。あ、この絵の人物が理子さんだそうですよ」


サディアスは部屋中に飾られた絵画に視線を向け、私の顔に視線を戻すと、眉根にシワを寄せながら首を傾げる。

髪も瞳の色も顔立ちも、何一つ外見的特徴は一致しないことをサディアスは不審がっているようだ。


ただ、部屋中の絵画を見れば、マミヤの『リコ』という人物への執着がわかるはずで、異常性は十分伝わったと思う。


「お前ら、さっさと出て行けよ!ここは僕と理子ちゃんだけの部屋だ!」


さらに喚くマミヤの声に、サディアスがピクリと反応し、口を開いた。


「神官にあるまじき醜態だな」

「うるさいうるさい!僕と理子ちゃんは誰にも邪魔されずに、ずっとここで暮らすんだ!」

「誰にも邪魔されず?あの程度の結界魔法で何を言っている」


その言葉で、マミヤの結界魔法を破ったのがサディアスであることを知る。

そのことがマミヤにも伝わったのだろう……彼の表情が醜く歪んでいく。


「クソッ……!なんでサブキャラごときがっ!!」

「お前の妄言は取調室でゆっくり聞いてやる。だが、ミアを傷付けたこと……決して許さんぞ」


サディアスの声に再び怒りが宿る……。


その時、成行きを見守っていたレジナルドが動いた。


「サディアス団長、お待ちください」


そして、マミヤを背に庇うかのようにして、サディアスと向き合う。


「エイベルは神官……つまり、この者の処遇の決定権は神殿にございます。どうか我々にお任せを」


そんなレジナルドの言葉に、サディアスは眉を吊り上げ、冷たい視線をレジナルドへ向ける。


「いくら神殿内の出来事とはいえ、王家に報告をし、しかるべき処罰を受けるべきだろう」

「その処罰も我々の役目でございます」

「何を言っている?聖女候補が監禁され、暴力を受けたんだぞ!?」


サディアスが声を荒げようとも、レジナルドは表情一つ変えずに言葉を続ける。


「ええ。その聖女候補も神殿の所属にございますゆえ」

「だが、ミアは……!」

「サディアス様との婚約は、まだ整っていないと聞いておりますが?」

「…………」


レジナルドの言う通り、神官も聖女候補も神殿の所属であり、王家であっても神殿内の出来事に手を出すことは難しいと聞く。

せめて、私とサディアスの婚約が結ばれていたなら、もう少しどうにかできた可能性もあるが……。


レジナルドの後ろで話を聞いていたマミヤは、勝ち誇ったかのようにニヤついた笑みを浮かべている。


「しかし、その男を野放しにすれば、ミアが再び危険に晒される」

「そのようなことは二度と起きないと、断言いたしましょう」

「………どのようにするつもりだ?」

「僕が直々に彼を再教育いたします」


レジナルドのその言葉を聞いた途端、先ほどまでニヤついていたマミヤの表情が固まった。


「え……?」


そして、困惑の表情を浮かべるマミヤに、レジナルドは近付いていく。


「ああ、エイベル……。神に仕える身でありながら、何ということを……。安心なさい。忠実なる神の下僕げぼくとなるよう、この僕があなたを躾直してあげますからね」


そう言って、極上の笑みを見せるレジナルドに、なぜかマミヤは怯えたように身体を震わせる。


「い、嫌だ……」

「ふふっ。あなたがこんなにも生意気で、躾がいのありそうな子だとは思いませんでしたよ」


すると、マミヤがこちらに顔を向け、必死の形相で叫ぶ。


「僕を王城に連れて行って!ちゃんと罪を償うから!お願いだからっ!」


あまりに急なマミヤの態度の変化に、私とサディアスは思わず顔を見合わせてしまう。


しかし、そんなマミヤの訴えも虚しく、レジナルドは触手の拘束の解除をサディアスに頼み、神官たちが縄でマミヤを縛り上げた。


「僕の研究室へ連れて行きなさい」

「かしこまりました」


レジナルドの指示にうやうやしく一礼すると、神官たちはマミヤを担ぎ上げる。


「は、離せ!どうして僕がレジナルドルートのバッドエ……」


布で口を塞がれてしまったマミヤは、そのまま神官たちに運ばれていってしまう。


ただ、マミヤの言いかけた言葉が、私の頭の中をぐるぐると回り続けていた。




次回は最終話です!

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