邂逅2
読んでいただき、ありがとうございます。
※今回のお話はちょっと気持ち悪いです。ご注意ください。
「どうして、私の名前……?それに、この部屋の絵は……?」
あまりの衝撃に声が震えてしまう。
しかし、そんな私の言葉を聞いたエイベルは、さらに笑みを深めていく。
「ああ、やっぱり理子ちゃんだよね?そうだよね?もちろん、僕はすぐに気付いたんだけどさ」
「気付いた……?」
「だって、『ミア』の仕草も癖も、理子ちゃんそっくりなんだもん!それに、ここは理子ちゃんが大好きなスイパラの世界でしょ?僕がエイベルなら、ヒロインは絶対に理子ちゃんだって思ってたんだぁ!」
「…………」
「ちゃんと前世の記憶もあるみたいで安心したよ。あ、ここにある絵は全部僕が描いたんだ!理子ちゃんを忘れてしまわないようにね」
早口で捲し立てるように喋るエイベル。
それは、これまでの彼の姿……ゲームで見ていたエイベルとは全く違ったものだった。
(つまり、エイベルも転生者……?しかも、スイパラと前世の私を知っている……)
嫌な予感が胸をざわつかせる。
「あなたは誰?」
私はエイベルの姿をした何者かに問いかける。
「僕のことがわからないの?」
「さっさと答えて!」
ジリジリと迫り上がる恐怖を必死に押さえ付けながら、強い口調で責め立てた。
「マミヤタイガだよ」
「マミヤ……?」
「ほら、大学の講義でも一緒だった」
「…………」
残念ながら、マミヤタイガという人物の記憶はない。
前世の顔を見れば思い出せるのかもしれないが……。おそらく、その程度の関わりしかなかったのだろう。
そのことをエイベルの姿をしたマミヤに伝えると、彼の表情が一変する。
「そんな……そんなはずない!だって、僕たちはずっと一緒だったのに!それに、理子ちゃんの最期だって、僕が看取ったんだよ!」
「は……?」
私の最期を看取った?
このマミヤという男は、一体何を言っているのだろう?
その時、前世の死の瞬間が脳裏に浮かぶ。
降りしきる雨……歩道橋の階段……そして、私の前に立ち塞がった誰かが手を伸ばして……。
「あなた……もしかして、あの歩道橋の……?」
「ああ、やっと僕のことを思い出してくれたんだね!」
そう言って、恍惚の表情を浮かべるマミヤ。
それが、私に手を伸ばした男の表情と重なって……。
「人殺しっ……!」
思わず、そう叫んでいた。
「違う違う違う!違うんだよ、理子ちゃん」
「何が違うのよ!あなたのせいで私は……!」
「僕は理子ちゃんに触れようとしただけなんだ!あ、あれは悲しい事故だったんだよ!」
「…………」
何が事故だ……。
私は無言でマミヤを睨みつける。
「でも、安心して。すぐに僕も理子ちゃんの跡を追ったから」
「え……?」
「理子ちゃんのいない世界なんて耐えられない。だから、理子ちゃんが階段から落ちたあと、僕も……」
「やめて!!」
階段下に転がる自分の死体に、見知らぬ男の死体が重なり合う……。
そんな光景を想像してしまい、あまりの気持ち悪さに手で口を覆う。
「でも、おかげで僕たちはこの世界に転生できたんだ!まさに運命だよね?」
そんな私のことなどお構いなしに、マミヤは喋り続ける。
「運命?……そんなはずないでしょ」
怒鳴る気力も失せてしまい、それでも吐き捨てるように反論を口にした。
こんなものが運命だなんて認めたくもない。
「でも、理子ちゃんは転生した僕のことを求めてくれたじゃないか!」
「求めてない」
「だって、僕のルートを開放するために、逆ハーレムを目指してたんだよね?だから、僕もエイベルに成りきって、理子ちゃんが攻略キャラたちの好感度を上げられるように協力してあげたのに……」
たしかに、ゲーム本編のエイベルはイベントを予告してくれるサブキャラだった。
それをヒントに、攻略キャラとの好感度を上げていく。
そして、全攻略キャラのクリアデータが揃うと、隠れキャラであるエイベルルートが開放される。
どうやら、マミヤはそれをこの世界で実現させようとしていたらしい。
(あ…………)
マミヤの言葉を聞き、私はあることに気付く。
ミアに転生した私は、ゲーム通りに攻略キャラの好感度を上げようと奮闘してしまった……。
マミヤの思惑に気付かなかったとはいえ、ある意味、利害が一致してしまっていたのだ。
「でも、理子ちゃんがぐずぐずしてるから、僕のほうからエンディングを用意したんだ」
「エンディング?何を言ってるの?」
そういえば、さっきもマミヤはハッピーエンドだと口にしていた。
だけど、エイベルルートのハッピーエンドに、こんな悪趣味なアトリエは出てこなかったはず……。
「え?……理子ちゃんはスイパラの全ルートをクリアしてないの?」
「ちゃんとクリアして、全部のハッピーエンドを見たけど……」
「ああ、もしかしてハッピーエンドだけ……?他のエンディングは見てないんだ?ふふっ、理子ちゃんってそういうところがあるもんね」
そう言って、マミヤは薄い笑みを浮かべる。
他のエンディング……つまり、バッドエンドのことだろうか?
「この前だって、勝手に『ミア』の髪型をやめちゃって、攻略もサボり始めて……ダメダメダメダメ!ダメだよ理子ちゃん!」
「………っ!」
マミヤの突然の剣幕に思わず怯む。
「途中でやめるなんて……絶対に許さないよ」
そして、マミヤは両手をぱちんと合わせ、ぶつぶつと呪文を唱える。
慌てて身構えるが、部屋全体が青白い光に覆われ、すぐにその光は消えてしまった。
「な、何……?」
「この部屋に結界を張ったんだ」
「結界……?」
私は部屋の中をキョロキョロと見渡す。
「エイベルは結界魔法が得意なのは知ってるよね?」
「…………」
それはエイベルルートで明かされる設定。
ピンチに陥ったヒロインを結界魔法で助け出し、『ほんと、僕がいなきゃダメなんだから』と、エイベルがデレるシーンをよく覚えている。
「もうこの部屋から理子ちゃんは出られない。それに、外部からの干渉も受け付けない。理子ちゃんはずーっと、このアトリエで僕と暮らすんだ」
そう言って、マミヤは恍惚の笑みを浮かべた。
つまり、それがエイベルルートのバッドエンド?
(冗談じゃない……)
私はポケットの中に手を入れ、護身用の魔導具ヤミーちゃんを握りしめる。
目の前のマミヤがゆっくりと一歩を踏み出す。
その瞬間、ポケットから取り出したヤミーちゃんを投げつけた。
しかし、それがマミヤに当たる直前に青白い光の壁が出現し、バチッという音と共にヤミーちゃんは弾かれてしまう。
「何、これ?」
マミヤが床に落ちたヤミーちゃんを拾い上げる。
「魔導具?こんなもの、何の役にも立たないと思うけど……まあ、念のためにこれも無効化しておくね」
そして、ヤミーちゃんは青白い光……結界魔法に覆われて投げ捨てられてしまう。
「これで、よし。理子ちゃん、これから……」
「来ないで!」
次回は明日朝8時に投稿予定です。
よろしくお願いいたします。