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心強い味方

私の質問に、サディアスがぴくりと身じろぐ。

そして、しばしの無言のあと、観念したかのように深い溜息を吐いた。


「君の言う通りだ」


自身も被害に合っていたから、こんなにもストーカーについて詳しかったのか……。

そして、毎日ルートを変えて王城に通うのは、ストーカー対策のため。

取調室での的確な質問も、これまでの経験によるものに違いない。


「だが、その被害は……おそらく君よりも酷い」

「…………」


続いた言葉に、思わず息を飲む。


「手紙ならまだマシなほうだ。贈られたハンカチの刺繍に髪が縫い込まれていたり、婚約者になれないなら死ぬとナイフを持って脅されたり、自分自身がプレゼントだと言って宿舎のベッドに潜り込まれていたこともあったな……」


(うわぁ………)


どうやら上には上がいるようだ。

内心ドン引きだったが、なるべく態度に出さないよう気をつける。


「そ、それは、大変でしたね」

「まあな。そんな奴が次から次へと現れて……もう二桁は軽く超えている」

「あ!それは私も同じくらいですよ!」


自分も同じくらいの人数に執着されたと、サディアスを励ますつもりで明るく軽いノリで返事をした。

それなのに……。


「え………?」


なぜか、サディアスが驚愕の表情を見せている。


「いや、なんでそっちがドン引きしてるんですか!」

「あ、ああ、すまない。他人ひとから聞くと思った以上にインパクトが……」

「言っておきますけど、団長に寄ってくる女性たちのほうがたちが悪いんですからね!」


前世でストーカーに殺されたことは棚に上げ、はっきりと私のほうがマシだと伝えておく。


「それなんだが……。これまで貴族に言い寄られたことはあるのか?」

「たぶん、ないと思いますけど……」


ストーカーの素性を全員確認したわけではないが、通っていた高等学院には平民しかいなかったし、私が暮らしていた街の領主様と会った記憶もなかった。

だから、ストーカーの大半……もしくは全員が私と同じ平民だったのではと、サディアスに説明をする。


「やはりそうか……。ならば、これからは貴族用の対策が必要になるな」

「平民とは違うものなんですか?」

「おそらく……君の言葉を借りるならば、貴族のほうがたちが悪い」


先ほどの私のセリフを返されてしまった。


なんと、これまでサディアスが合った被害は、全て貴族のご令嬢たちからのものらしい。

つまり、貴族だらけの王城で新たなストーカーが生み出されてしまえば、私も同じような目に合うかもしれないということ……。


「うわぁ!最悪だぁ!」


バージョンアップされたストーカーなんて求めてない。

頭を抱えて騒ぐ私に、サディアスの冷静な声がかかる。


「俺が君を守ろう」

「え?」

「魔物の討伐に聖女候補は必要だ。他から横槍を入れられるのは気に食わんからな」

「サディアス団長……!」


なんと心強い味方なのだろうかと、サディアスの言葉に感激する。

そして、私が聖女と認められれば、おそらく貴族も簡単に手出しできなくなるだろうと、サディアスが希望を持たせてくれた。


「私、頑張って聖女になります!そして、いつか恩返しをしますから!」


あと、「攻略キャラとの結婚式にも招待します!」と、心の中で付け足しておく。

そもそも、攻略キャラと結ばれ、聖女としても認められることでハッピーエンドを迎えるのだ。

私のやることに変わりはない。


そうこうしているうちに馬車は停まり、そこから魔術師団棟までサディアスに案内してもらう。

そして、訓練場に到着すると、ちょうど他の団員たちがちらほらと集まりだしたところだった。

私はサディアスに礼を告げると、そのまま団員たちに混ざりウォーミングアップを開始する。



魔物討伐。

それは、ゲーム内で何度も登場するイベント。

その成果によってもらえる報酬が、のちの攻略に影響を及ぼすのだ。


聖魔法は魔物の核を破壊するのに有効だが、それ以外はからっきしという、なんとも偏った魔法だった。

そのため、魔物の攻撃から身を守る、魔物の動きを止めるなどといった部分は、魔術師団の団員たちが担ってくれる。

つまり、聖女候補に求められるのは、魔術師団と連携を取りながら正確に聖魔法を核に当て破壊すること。


そして、聖魔法の戦闘スタイルは近距離型と遠距離型に分けられる。

ゲーム内では、前衛か後衛かを選び、魔物に遭遇するたびにどのような攻撃をするのかコマンドで選ぶだけであったが……現実にはそうはいかない。


実際に魔物の生息地まで向かい、魔物と対峙しなければならないのだ。

瞬発力や持久力といったものも必要になるゴリゴリの戦闘職だった。


(まあ、身体を動かすのは好きだから、いいんだけどね)


前世でもストーカーから身を守るためにキックボクシングを習っていた。

結局、ハイキックを披露することなく階段から落ちて死んでしまったので、受け身を学べる格闘技にすればよかったとちょっぴり後悔しているが……。


ウォーミングアップを終えると、さっそく訓練を開始する。

五メートル程離れた先に、魔物を模した人形が置かれ、その胸元にはまとが貼り付けられていた。

私は右の掌に魔力を集中させると、狙いを定めて解き放つ。

すると、小さな魔力塊がまるで弾丸のように人形めがけて飛んでいき、ボンッと音を立ててまとの中心に着弾する。

それを数回繰り返したあと、今度は両手をパチンと合わせて魔力を練り上げた。

現れた短剣サイズの魔力塊を手に、人形に駆け寄り、まとを目掛けて勢いよく振り降ろす。


「あっ……」


どうにもうまく当たらない。

いや、まとには当たっていたが、狙ったはずの箇所よりズレてしまうのだ。


私は遠距離攻撃のほうが得意なタイプだった。

しかし、その一撃の威力は、近距離で与える攻撃よりも劣ってしまう。

魔物は人形のようにじっとしているわけではない。核に何度も魔力塊を撃ち込むより、近距離で一撃を与えるほうが確実に魔物を葬ることができる。

そう考え、近距離攻撃もマスターし、オールラウンダーな戦闘スタイルを目指しているのだが……。


(やっぱり短いからかなぁ……)


理想としては長剣のような魔力塊を出したいところだが、こちらもうまくいかない。


「振り降ろすよりも、突き刺すほうがいいのかも」


穏やかな声がかかり、ぱっと後ろを振り向くと、そこには笑顔のイアンが立っていた。


「昨日は大変だったみたいだね」

「あはは……なんか頭がおかしい人だったみたいで」


ストーカー男の話だとすぐに気付き、慌てて用意しておいた言葉を返す。

ストーカー男の頭がおかしいのは事実なので、勘違いで疑われたということにしておいた。


「それじゃあ、いろいろな動きを試してみようか」

「はい!お願いします!」


それからは、イアンにアドバイスをもらいながら様々な攻撃を試してみる。

だけど、どうもしっくりこない。


「うーん……」

「そんなに焦らなくても大丈夫。ちゃんとまとには当たってるんだし、上出来だよ」


良いところを見つけて、しっかりと褒めてくれるイアン。


「でも、実際の核はこのまとよりも小さいんですよね?」

「それは魔物の種類によって様々だね」

「そうですか……」


私としては技の精度を磨き、ちょっとでも討伐の成功率を上げたい。


「ミアちゃんは頑張り屋さんだね」

「え?」


すると、イアンの口から、レジナルドと同じように好感触な言葉が飛び出す。

しかも、名前呼びで!


「ああ、ごめん。名前で呼ぶなんて馴れ馴れし過ぎたかな」

「そ、そんなことありません!」


私は食い気味に返事をする。


「そう?じゃあ、これからはミアちゃんって呼ばせてもらうね」

「はいっ!」


これはもう確実に好感度が上がっているだろう。

私は心の中でガッツポーズをとる。


「さあ、そろそろお昼にしようか」


イアンはそう言うと、他の団員たちに向けて休憩の合図を出す。


「ミアちゃん、食堂の場所はわかる?」

「いえ、まだ行ったことがなくて……」


昨日は、あのストーカーのせいで昼食を食べ損なってしまったのだ。


「じゃあ、僕が案内するよ。ついでに一緒に食べようか?」 

「はい!」


トントン拍子に進む展開。

これぞスイパラだ!


浮かれた気分のまま、イアンとともに訓練場を出ようとすると……そこに思わぬ人物が立ちふさがった。


「どこへ行く?」


突然サディアスが現れ、口を挟んできたのだ。


「ミアちゃんを食堂に案内するところだよ」

「……彼女は他に行くところがある」

「そうなの?」

「ああ。だから食堂は今度にしてくれ」


そして、勝手にイアンの誘いを断ってしまう。


「ちょっと!何を勝手に……」

「行くぞ」


そして、私の言葉を遮り、サディアスはさっさと歩きだしてしまった。


「タイミングが悪かったみたいだね。それじゃあ、またあとで」


そう言って、イアンもあっさりと食堂へ向かってしまう。

残された私は、慌ててサディアスの後を追いかけるしかなかった。




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