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10/31

お迎え

(昨日はひどい目にあった……)


朝、目覚めてすぐに思い出したのは昨日の出来事。

行動力のあり過ぎるストーカーが王城に侵入したせいで、共犯だと疑われた挙げ句、ストーカーホイホイな体質が知られてしまったのだ。


『絶対、秘密にしてくださいっ!!』


とりあえず、サディアスには全力で口止めをしておいた。

イアンや他の攻略キャラにバレてしまえば、好感度に何かしら影響が出るかもしれないからだ。

サディアスの話によると、取調室での問答には守秘義務があるらしく、あの騎士や文官から漏れることもなさそうだと、ひと安心する。


その後、なんとか第四魔術師団の団員たちに挨拶をして、訓練に参加することができたのだが……。


(シナリオ通り……とは言えないよね)


左手の指先に自身の髪をくるくると巻き付けながら考える。


本来は、団員たちに挨拶をした後、訓練を通じて副団長であるイアンと交流を深めるはずだった。

しかし、取り調べに時間を取られたこともあり、訓練場で挨拶をした後は、サディアスとバトンタッチするようにイアンは別の仕事があると姿を消してしまったのだ。

 

つまり、ゲームが始まってしまえばストーリーにストーカーが介入することはない……その前提が完全に崩れてしまったということになる。


──ゲームの強制力が弱いのか、私の体質が強制力を凌駕するほどに強力なのか……。


だからといって、私はストーカーに屈するつもりはない。

昨日の件で、サディアスのような地位の高い人物の一声ひとこえには、かなりの影響力があることを知った。

攻略キャラたちもそれなりに権力のある地位に就いているので、無事にハッピーエンドを迎えたあとは、恋人になったキャラに身を守ってもらおうと考える。

 

(今日から軌道修正!昨日のぶんの好感度も取り戻さないと!)


さすがに、連日イレギュラーな出来事が起こることはないと信じたい……。

私は身支度を整えると、朝食をとるために食堂へと向かう。


(あ………)


すると、廊下の先を歩く神官長レジナルドの後ろ姿が見えた。

私は早足で彼に追い付くと、元気よく声をかける。


「レジ……し、神官長様!おはようございます!」


名前で呼びそうになるのを、すんでのところでこらえた。

前世ではゲーム画面に向かって名前を呼んでいたが、さすがに現実ではまだ早すぎる。


「ああ、シュミットさん。おはようございます」


笑顔を浮かべ、挨拶を返してくれるレジナルド。

その笑顔は、私のよこしまな何かが浄化されるほどに清らかだ。


「神殿の暮らしはどうですか?」

「皆さんによくしていただいてます」


そんな彼と並んで会話をしながら食堂へと向かう。

レジナルドは、好感度を上げるために何度も会話を重ねる必要があるキャラだ。

つまり、こんな風に偶然出会えた時は、好感度を上げるチャンスでもある。


「それはよかった。今日も訓練に行かれるのですか?」

「はい!少しでも早く皆さんの力になれたらと思って」


なるべく前向きでミアのキャラに合った言葉を選ぶ。


「シュミットさんは頑張り屋さんですね」


すると、なかなか好感触な答えが返ってきた。


(いい感じじゃない?)


まだまだ当たり障りのない会話だが、好感度はこれで着実に上がっているはず……。

しかし、食堂に到着すると、朝食の座席は決まっているためレジナルドとは離れることとなってしまう。


(もう少し喋りたかったな……)


同じ屋根の下で暮らしているのだから、これからもチャンスはいくらでもあると自分に言い聞かせる。

私は食事を終えると、自室へ戻るべく食堂を出たのだが……。


「シュミット嬢!」


神官の一人が慌てた様子であとを追いかけてきた。


「お迎えの馬車が到着しております!」

「え?」


(お迎え……?)


さっぱり意味がわからない。

それでも神官に急かされるままに準備をし、神殿の馬車停めへと向かう。


私がいつも利用しているのは、神殿所有のシンプルな馬車であった。

しかし、目の前には黒地に金の装飾が見事な大型馬車が停まっている。


「えっと……?」


そして、そんな豪奢な馬車の中から登場したのは、第四魔術師団団長のサディアスであった。


「お、おはようございます。サディアス団長」

「ああ」

「…………」

「…………」


混乱したまま、とりあえず挨拶をしたのだが、それ以上会話が続かない。


「あの……何の御用でしょう?」

「ついでだ。乗るといい」

「へ?」


ついで?………何の?


「行くぞ」


そう言って、さっさとサディアスは馬車に乗り込んでしまう。

私は慌てて、彼の後を追いかけた。


(……何だ、これ?)


馬車の中、色気がえぐいサブキャラと向かい合う意味不明なシチュエーション。

しかも、馬車の窓はカーテンが閉め切られ、外の景色は全く見えない。

照明が灯っているので暗いわけではないが、なんとなく馬車内が息苦しく感じてしまう。


「…………」

「…………」


そして、馬車が走り出してもサディアスから説明は特になく、ずっと無言のままだった。


(これはシナリオ通り?それともイレギュラーなの??)


馬車での移動について、詳しい描写なんてものはゲームに出てこなかった。

ちらりと向かいのサディアスの様子を伺うも、相変わらずの無表情でさっぱり読み取れない。


(どうして私を迎えにサディアス団長が?あー、もう、全然わからないんだけど!)


今さら馬車を降りるわけにはいかないし、どうせ目的地である王城へは着くのだからと、開き直ることにする。


「…………」

「…………」


結局、馬車の中はずっと無言のままだ。


(まあ、いっか……)


サディアスの好感度を気にする必要はないだろうと、気まずい空気をそのままにしておく。


ふかふかの座席に、程よい揺れ……さすがは貴族所有の馬車である。

魔術師団や騎士団の団員は、そのほとんどが貴族の出身であるため、団長であるサディアスも貴族……いや、おそらくは高位貴族だろう。


そんなことを考えつつ、眠気と格闘しながらしばらく馬車に揺られていると、あることに気が付く。


(あれ?いつもなら王城に着いている頃なのに……)


私は席の端に移動し、窓を覆うカーテンを少しだけ開けて外を確認する。

すると、たしかに王城は見えているが、いつもと景色が違っていた。


「ここって……?」

「南門だ」


思わず口から溢れてしまった疑問に、向かいのサディアスから答えが返ってくる。

そのことに驚きながらも、私は再び疑問を口にした。


「え?遠回りじゃないですか?」


西門から入ったほうが魔術師団棟には近いはずだ。


「ああ。今日はこのルートにした」

「今日は……って、毎日違うルートなんですか!?」


なんでまたそんな面倒なことを……。

すると、サディアスは無表情のまま言葉を続ける。


「人は気付かぬうちに、行動がパターン化されやすいんだ」

「へぇ……」


いきなり何の話だと思いつつ、とりあえず相槌を打つ。


「意識して変化を付けないと、いつの間にか同じ行動ばかり取ってしまっている。……君も気を付けたほうがいい」

「私も……ですか?」

「ああ。昨日の侵入者……あのようなタイプは相手のことをつぶさに観察し、行動パターンを把握することにけている。そして、その行動パターンを利用して近づいて来るんだ」

「…………っ!」

「これまで、行く先々に現れては、偶然をよそおって声をかけられたことはないか?」

「あります!」


そう!まさにそうなのだ!

前世を含め何度も経験をしたことがあった。


「そして、それを運命だなんだと言い始める」

「そうなんですよ!」


結ばれる運命だの、出会う運命だっただの……心当たりがありすぎる。


「全く、人為的な偶然のどこが運命なんだ」

「ほんとに、運命の解釈が根本から間違ってるんですよね」


そう言ったあと、互いに深い溜め息を吐く。


「そういったトラブルを避けるためにも、行動パターンに変化をもたせる必要がある」

「なるほど。だから毎日ルートを変えているんですね」

「そういうことだ」


サディアスは満足気に頷いた。


まさかの話題でけっこう盛り上がってしまったが、それにしてもサディアスはストーカーの生態に詳し過ぎるような……。


「あの……もしかして、サディアス団長も私と同じような目に合ってたり……します?」

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