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サンダーソン公爵の息子

 息子のマイクは、ほんとうはマイケルという名である。マイクは、マイケルの愛称。メリッサをはじめ、周囲にはマイクが本名ということにしている。


 マイケルという名は、サンダーソン公爵が最も尊敬しているらしい彼の祖父の名をもらった。


 そのことは、サンダーソン公爵家の執事から聞いた話である。


 サンダーソン公爵の祖父もまた将軍としてこの国に多大な貢献をし、おおいなる足跡を遺した人らしい。公爵はそんな祖父を尊敬し、目指し、将軍になったとか。


 マイクには、わずかでも父親のなにかを与えたかった。だから、彼の曽祖父にあたる方の名をもらったのである。


 将来、マイクの出生のことでなにかあるかもしれない。そのことで不安になったり警戒してしまう。その一方でわたしにもしものことがあったとき、マイクになにかしらの保険を残しておきたいという切実な思いもある。


 とはいえ、いまのところはサンダーソン公爵に頼ったりすがったりするつもりはまったくない。それどころか、彼のことはだれにも知られたくないという思いが強い。


 たとえマイクであっても、ほんとうの父親のことは話をしたくはない。


 いずれマイクに話さなければならないときがくる。そのときまでは、父親のことは話したくない。


 マイクには、父親は死んだと話している。マイクは、機微に敏い。そして、やさしい子である。彼は、わたしがその話をしたがらないことに気がついている。だから、尋ねてくることはない。


 しかし、わたしにはわかっている。


 マイクが父親のことを知りたがっていることを。父親を欲しがっていることを。


 こればかりは、メリッサやわたしでは代わりが出来ない。メリッサは、ある面では男性よりよほど男前だし男らしい。それでもやはり、彼女はレディ。どうがんばっても男親の代わりは出来ない。


 お店の男性の常連客や友達のお父さんたちが、マイクの相手をしてくれることはある。しかし、それもやはりほんとうの父親とはまた違う。


 親から愛されことがなく、虐げられたわたしがいうのもなんだけれど、子どもにとって母親は大切だけれど父親の存在もまた大切である。


 それを考えれば、わたしはマイクにたいして不誠実である。なぜなら、わたしの身勝手で彼から父親を奪っているのだから。


 そのことは、重々承知している。自分でもよくわかっている。わかりすぎるほどにわかっている。


 だけどいまは、母子ふたりで生きていきたい。なにがなんでも、わたしひとりで息子を育て上げたい。


 これがつまらない矜持であることもわかっている。わかってはいる。


 それにしても、わたしは強くなった。肉体的にも精神的にもサンダーソン公爵に嫁ぐ前のわたしより相当強くなった。


 あれほどわたしを嫌っていたサンダーソン公爵は、いまのわたしならばわずかでも見てくれただろうか。やさしく接してくれただろうか。愛想笑いでもしてくれただろうか。


 そして、わたしは彼をこの黒い瞳でしっかり見ることが出来ただろうか。ぎこちなくても微笑むことが出来ただろうか。


 そこまで考え、いつも苦笑してしまう。


(いまさら、ですものね。過去より未来。昔よりいまやいまからが大切)


 結局、サンダーソン公爵はわたしの前から永遠に去った。彼とは、最悪の形で別れざるを得なかった。それが事実。


 そんなサンダーソン公爵のことより、マイクのことだけを想えばいい。


 これまでそうしてきたように。そして、これまで以上に。


 マイクの穏やかでしあわせそうな寝顔を見、いつもそのように結論付ける。


 そうして、ついつい同じことを繰り返し考えてしまうのは、レディの性なのだろうか。


 それとも、わたし自身に未練があるのだろうか。


 サンダーソン公爵にたいして……。


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