息子は人気者
「カヤ、いつものを頼むよ」
「おれも、いつものをよろしく」
「おーい、カヤ。こっちは今日のランチを頼む」
「わたしたちは、今日のパスタをお願いします」
今日のランチタイムも目がまわるほどの忙しさである。
朝食のときも大忙しだった。わずかな休憩時間の後、ランチタイムが始まった途端に店内はいっぱいになった。当然のことだけど、店の前には数組のお客さんが待ってくれている。
「マイク、いくらだい?」
「いつもの通り銅貨一枚だよ、おじさん。ぼくにチップをくれるのなら、二枚でも三枚でもいいけど」
「坊主、言うじゃないか」
「おふくろ亭」内が笑い声に満ちた。
息子のマイクは、はやくも四歳になった。母親のひいき目にすぎないのだけれど、彼はすごく頭がいい。というのも、わたしが読書好きなのが影響してか、彼も本をよく読むからかもしれない。
マイクがそうだから、てっきりいまどきの子どもは三、四歳で字が読めるようになると思っていた。が、メリッサが言うには違うらしい。他の子どもは、絵本を見る程度とか。
このサムズ王国の国民の識字率は、けっして低くはない。よほどの地方ではないかぎり、ある程度の年齢になると字や計算を学ぶ。
わたし自身、やはり亡くなった母親が本好きだったこともあってわりとはやくから本を読んでいた。もっとも、マイクほどはやくはなかったけれど。しかし、母が亡くなってからは図書館にさえ行くことが出来なかった。不要の外出を禁止されていたからである。その為、母の遺してくれた本や屋敷内に放置されている本を繰り返し読んだ。サンダーソン公爵家に嫁いでからは、屋敷内に蔵書が驚くほどあったので仕事の合間に貪り読んだ。それだけでは飽き足らず、町の図書館で借りることが出来たので借り漁り読み漁った。
それはともかく、息子のマイクは、字が読めるだけではない。計算も出来る。最近、彼に「おふくろ亭」のお会計を任せるようになった。お客さんたちも、小さなマイクがお会計をするのに驚いたり、あるいは癒されたりしている。
ほんとうは、子どものマイクに仕事をさせるのには抵抗があった。わたしがそうだったからではないけれど、やはり子どもは子どものときにしか出来ないことをすべきだと考えていたから。しかし、すぐに思い直した。マイクが「おふくろ亭」の手伝いをしたがるのだ。その彼の意思を尊重すべきだ、と。なにより、手伝ってもらったら彼を側に置いておける。それから、人手はないよりあったほうがいい。メリッサも大賛成してくれた。
いろいろ悩んだり相談したりした結果、マイクにお会計を任せるようにした。
マイクは、いまやこの店の人気者になっているばかりかなくてはならない存在になっている。