あいかわらず、わたしのことは大嫌いみたい
わたしは、間違ってはいなかった。やはり、彼はサンダーソン公爵だった。わたしが間違っていなかったことはいい。それはそれでいいのだけれど、それはそれで問題である。
わたしが絶望し、打ちひしがれているというのに、サンダーソン公爵とマイクはふたりで盛り上がり、どんどん親密になっていく。
サンダーソン公爵は、潰れた声を振り絞って幼いマイクが祖父の軍事書を読んでいることを大絶賛した。一方、マイクはマイクで大好きな軍事書を記した偉大なる軍人とその孫を大絶賛している。
マイクは、わたしたちの偶然に大興奮した。偶然、というよりか神の奇蹟だと表現した。
しかし、わたしにはこの出会いが偶然とは思えない。ましてや神の奇蹟でもない。
サンダーソン公爵とマイクが彼ら自身の真実を知らず、興奮してあれやこれやと話をしているのをどこか遠くで聞いているうちに「おふくろ亭」に帰って来た。
サンダーソン公爵のことは、メリッサだけでなくトッドじいさんも大歓迎してくれた。
トッドじいさんは、馬小屋に余裕があるからと公爵の愛馬ウインドを預かり、世話をかってでてくれた。メリッサは、その日にお風呂や食事を提供してくれただけでなく、空いている部屋を好きなだけ使っていい言ってくれた。
公爵は、そんな彼女らの好意をよろこんだ。そして、甘えた。
それは、わたしにとっての苦難の始まりだった。
そのときには、そう確信した。
サンダーソン公爵とわたしが会ったのは、もう六年近く前のこと。
わたしが彼をまともに見ることが出来ずに彼の顔を知らないのと同じように、彼もわたしの顔をわかっていないはず。
彼は、もともとわたしのことが大嫌いだった。顔さえ見る気にならなかったに違いない。
もっとも、見せるような顔ではないけれど。
それはともかく、たとえ彼がわたしの顔を見ていたとしても、六年近く経っている。これだけ経っていたら、彼はもう覚えていないだろう。
わたし自身、六年も経てば老けた。顔も多少はかわってしまっている。
というわけで、最初こそバレるのではないかとヒヤヒヤしたし、ビクビクしていた。
が、公爵はまったく気がついている様子がない。それどころか、彼はわたしを見ることがない。というよりか、故意にわたしを避けている。
それは、まさしく六年前のあの夜と同じだった。
あのときとまったく同じなのだ。
ということは、いまのわたしも彼に嫌われているということになる。
六年前と同じように。
六年前は、訳アリで嫁いだ。融資の担保代わりだった。
彼には外見や雰囲気や性格で嫌われているのはもちろんのこと、そういう事情からもわたしを嫌っていたのだろう。
しかし、いまは違う。
彼にすれば、通り雨のあとにたまたま出会って助けた、どこかの母子の母親にすぎない。
(それなのに、いきなり嫌うわけ?)
わたしがなにをしたというの?
(いくらなんでも初対面のレディをこれほど蔑ろにするなんて、人としてどうって感じよね)
とはいえ、わたしも彼のことが怖くて苦手なのはかわってはいない。彼のことを言えない。
彼にたいして呆れると同時に、彼もわたしも成長していないと思う。
内心で苦笑してしまった。




