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たったひとりで出来るのかしら?

(レディひとりで、というかわたしひとりで子どもを育てられるのかしら?)


 出産までの日々は、不安と心細さでいっぱいだった。


 その反面、わが子が一日一日お腹の中で育っていくことが楽しみでならなかった。自分の胎内でわが子が育っているのだと自覚するたび、そのような不安や心細さはふっ飛んだ。


 もしかすると、わたしひとりだけなら絶望でどうにかなっていたかもしれない。


 そして、絶望と情けなさの中ですべてに終止符を打っていたかもしれない。


 夫を、いいえ、元夫を略奪したあのレディの言った通りに。


 みずからの命を終わらせたかもしれない。


 そうならなかったのは、やはりわが子の存在があったから。


 わが子がこの世に生まれてくるという希望があったから。


 しかし、やはり不安は拭えなかった。


 わが子が生まれてくるのはいい。わが子を産むこと自体はかまわない。


 実際のところ、問題はそのあとのこと。


 産んでからの方が、産むまでよりもあらゆる面で大変であることはいうまでもない。


 だからこそ、わが子が生まれるまでに母子ふたりが生活出来るだけの手は打っておかなければならなかった。つまり、わが子をきちんと育てられる環境を整えておきたかった。


 とはいえ、わたしにはなにもない。


 実家? ニューランズ男爵家に頼るわけにはいかない。


 訂正。男爵家に頼ることなど出来るわけはない。


 そこにわたしの居場所はない。というよりか、わたしはとっくの昔に男爵家の「不要なもの」になっている。だから、頼るどころか帰ることさえ出来ない。


 というわけで、王都に戻っても仕方がない。実家以外でも、王都に知り合いはひとりもいない。下手に王都に戻り、実家のだれかに見つかれば、あるいは略奪婚をされて戻って来たという噂が家族の耳に入りでもすれば、お父様をはじめ家族はぜったいに許しはしない。見つけだされ、よりいっそうこき使われたり、ひどいめに遭わされる。それどころか、どこかに売り飛ばされるかもしれない。


 もちろん、お腹の子は産むことは出来ない。どのような手段を使ってでも殺すだろう。


 そう確信出来る。だからこそ、王都にはぜったいに戻りたくない。


 じつは、わたしがサンダーソン公爵家に嫁いだ理由であるお父様の事業は、あっという間に失敗していた。


 お父様は、ある事業を思いついた。その資金をかき集める中で、だれかを仲介人にしてサンダーソン公爵から融資をしてもらうという約束を取り付けた。


 詳しいことはわからない。たとえば、どうして公爵家が男爵家に融資をする気になったのか? しかも不安要素の拭えない事業に。それとか、その担保としてどうしてわたしが嫁ぐような羽目に陥ったのか、といういくつもの疑問は謎のままである。


 もっとも、わたしが詳細を知る必要もない。知っても仕方のないことだから。だから、いまでも知ろうとは思わない。


 当時のわたしは、言われるままにサンダーソン公爵に嫁いだ。かえって実家での地獄のような毎日から逃れられるのだとうれしくなった。


 とはいえ、現実は実家での地獄のような日々同様に厳しかった。


 嫁いだはずのサンダーソン公爵から、初夜に「愛するつもりはない」と宣言されてしまった。


 自分は彼に嫌われている。まったく望まれていない。


 それは、家族と同じだった。家族はわたしを必要としなかった。いいえ。わたしは、彼らの家族ではなかった。


 それとまったく同じだった。それまでの日々とかわらなかった。


 絶望した? それよりも、諦めの気持ち強かった。諦めることには慣れているから。


 すべてを諦めたタイミングで、サンダーソン公爵はわたしを荒々しく蹂躙した。


 わたしの体を。そして、心を……。


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