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アンディと起こった後のこと

 アンディが王都に戻ってからというものの、どことなく気持ちが軽くなった。


 彼がもう王都からこちらへ戻ってこなければいいのに、とさえ思っているわたしがいる。その一方で、彼から逃げるのではなく、彼にわたし自身の気持ちをぶつけてちゃんと話し合った方がいい、という思いもある。


 マイクは、そんなわたしの葛藤をよそにアンディがいなくなっても以前とかわらず「おふくろ亭」の手伝いをし、マーレの街の定期市で購入した軍事書を読み耽ったりして忙しくしている。


 そんなある日のこと、メリッサに買い物を頼まれた。マーレの店に注文している食材を取りに行くのだ。


 メリッサには、アンディとの間にあったこと、というか未遂に終わったあの夜のことを伝えていない。メリッサだけではない。マイクにもである。つまり、だれにもなにも言っていない。


 あの夜のことは、なぜか話せなかった。


 冷静に考えると、もしかするとアンディではなくわたしに非があったのではないのか? わたしにスキがあったのがいけなかったのではないのか? わたしが無防備すぎたから、アンディをそんな気にさせたてしまったのではないのか?


 だから、わたしが悪かったという結論にいたった。


 そういう結論から、だれかに話す気になれなかったのだ。


 それはともかく、その日は親切で頼りになる隣人トッドじいさんに馬車を借り、マイクとふたりでマーレの街へと出かけた。


 マイクは、例の軍事書を肌身離さず持ち歩いている。この日も馬車に揺られながら読み、ときには読み聞かせてくれた。


 その軍事書は、わたしもサンダーソン公爵家の屋敷で数回読んでいる。


 だからこそ、たった五歳のマイクが同じように読んでいることに感慨深いものを感じる。そして、同時にサンダーソン公爵家での日々が懐かしく思えた。


(サンダーソン公爵は、いまごろどうしているのかしら?)


 ふと考えることがある。が、すぐにそんな考えは頭を振って追い払った。


(わたしには関係のない人よ)


 そう思い直した。



 予定通りにマーレの街で食材をピックアップした。ちょうどランチタイムだったのでマーレの街の食堂でランチを食べ、それからマイクの服を購入した。


 マイクはあっという間に成長してしまう。だから、どんな服でもあっという間に小さくなる。


 これはきっと、世のお母さんたちの共通の困りごとに違いない。


 マイクの服を購入後、彼が「お母さんのスカートとシャツも買おう」と言いだした。


 メリッサがこっそり彼に金貨を握らせたらしい。


 しかし、彼女に甘えてばかりではいけない。彼女だって買いたいものがあるはずなのだ。


 だから、まずは彼女と話し合うことにした。


 マイクの残念そうな顔を見ながら、家路についた。


 が、途中で通り雨にあってしまった。さいわいにも雨宿り出来る場所があったのでそこで通り雨をやりすごした。通り雨は、しばらくするとはすぐにやんだけれど道がぬかるんでしまった。


 あらためてブライトンの街へと出発してしばらくすると、ぬかるみに車輪をとられてしまった。


 老いた馬ががんばってくれたけれど、ぬかるみから出ることが出来ない。とはいえ、レディや子どもでどうにか出来るというわけではない。それでもマイクとふたり、ぬかるみから車輪をだそうと泥だらけになって奮闘した。


「大変そうだな」


 そのような中、だれかが声をかけてきた。


 その声は、潰れていて聞こえにくかった。


「おれがやってみよう」


 泥にまみれながら車輪を浮かそうと無駄な努力をしているわたしたちにかわり、その人物の袖をまくった腕が車輪をつかんだ。


 そのときになってはじめて、その人物を見た。


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