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アンディ

 アンディは、マイクにいろいろ経験させてくれた。


 わたしには到底出来ないことばかりを、である。


 木登り、追いかけっこ、車輪まわし、泥遊び、かくれんぼ、ボール遊び、冒険や勇者ごっこ、デン作り、チェスやドミノまで。


 とにかく、メリッサやわたしでは教えられず、経験させることが出来ないありとあらゆることを、マイクに教えてくれて経験させてくれた。


 そして、マイクはそのすべてをすぐにマスターし、五歳にしては完璧にこなしたという。


 それはそれでいい。マイクのことに関しては、アンディには感謝している。


 が、アンディはこのわたしにも絡んできた。


 アンディは、控えめにいっても美しすぎる。カッコよすぎるしやさしすぎる。


 アンディは、この世の中の全レディが憧れ、いっしょにいたいと切望する完璧な男性である。


 しかし、わたしはダメ。


 もともと人と接することが苦手である。もっとも、メリッサは別だけど。お父様やお兄様たちに肉体的、精神的にひどいめにあわされたことで、とくに男性は苦手意識というよりかは恐怖の対象でしかない。


 そして、サンダーソン公爵のことがある。


 トラウマ以上のものを、男性に抱いている。


「おふくろ亭」の彼以外の男性は、まだ大丈夫である。自分でもその違いがわからない。わからないけれど、彼らとは挨拶や当たり障りのない会話を交わすことは問題ない。


 が、同じお客なのにアンディは違う。なにが違うのかは、うまく説明は出来ないけれど。


 とにかく、アンディに関しては彼がたとえ美しくてやさしくて「キングオブ紳士」であったとしても、恐怖の対象でしかない。


 が、アンディは避けようとするわたしに根気よく接してきた。無理矢理とか強引なところはいっさいなかった。とにかく、わたし自身が気がつかない間に距離を詰めていた。


 物理的にも精神的にも。


 驚くべきことに、気がついたときには彼とふつうに会話をするまでになっていた。


 さらに驚くべきことに、自分の中で彼の存在がおおきくなっていた。


 それまでは、メリッサをはじめ周囲から「だれかいい人がいれば……」と言われていた。実際、親切な人や顔の広い人たちが、こんなわたしに「いい人」を紹介してくれようとした。


 しかし、わたしはそういうありがたい話をすべて断った。


 ほんとうにありがたいことではある。みんなが心配してくれているということもわかっている。


 なにより、マイクには母親だけではダメだということも。


 マイクには、経済的なことはもちろんのこと精神的にも父親は必要である。たとえ血がつながっていなくても、遺伝子を継いでいなくても、父親と呼べる存在が必要なのだ。そのことは、頭の中では重々承知している。再婚した方がいいというよりか、再婚しなければならないということもわかっている。


 しかし、わたし自身がどうしてもダメなのだ。


 やはり、わたしはダメダメな母親なのだと、いつも自身を責めてしまう。


 わたしは、マイクから父親を奪っているばかりか与えることも出来ない。


 そう自分自身を責めまくった。


 しかし、アンディが現れた。彼は、わたしを大切にしてくれる。彼は、わたしよりマイクを大切にしてくれる。


 アンディとは、日々の忙しさの合間や「おふくろ亭」の休みの日にいっしょにすごした。もちろん、ふたりきりではない。マイクもいっしょである。わたしは、マイクがいることでアンディとすごせるのだろう。マイクがいなければ、アンディとふたりですごせることなど出来ないはず。


 そんなわたしたちを、メリッサをはじめ周囲のみんなもあたたかく見守ってくれている。


 わたしたちは、ゆっくり時間をかけ、家族のようになっていた。


 自然に、それから違和感なく。


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