家
時計を見るともう午後一時を過ぎている。
久しぶりにこんなに寝た気がする……。
ベットから起き上がろうとすると全身に痛みが走る。
嘘……。昨日歩き回ったせいで全身筋肉痛だ……。
まだピチピチの高校生だよ!?いや確かに毎日家とコンビニの往復しかしてなかったけど!?これは落ち込むなぁ。
とりあえず痛みの少ない手で携帯を取り画面を見ると不在着信三十二件の文字に固まる。
疲れすぎて三十二件の電話にも気づかなかったの!?
はぁ……。もう自分が怖いよ。
「ピピピピッ、ピピピピッ。」
三十三回目の電話がなる。
やっぱり私より真柴の方が怖い……。
筋肉痛の体を無理矢理起こし鳴り響く携帯を片手にリビングへ向かう。
携帯をダイニングテーブルに置きその横にあるキッチンに行きシリアルと牛乳を取るとダイニングテーブルに戻る。
「ピピピピッ、ピピピピッ。」
はぁ……、うるさい。
もう何件目か分からない電話に出ると真柴の驚いた声が聞こえる。
「わ!出た!凛ちゃん大丈夫!?今どこ!?」
「どこって……、家だけど。」
「え!?家!?もしかして凛ちゃん……、今起きた?」
「まあ……、うん。」
「良かったぁーー!!」
「は?」
「何回電話しても出ないから何かあったのかと思ったよー!良かったぁー!ねぇ凛ちゃん!凛ちゃんの家ってどこ?」
「言うわけないじゃん。」
「そうだよね……。」
さっきから電話越しに車の音が聞こえるけど真柴は今学校にいるはずだよね……?
「あんた今どこにいるの?」
「いやぁ〜、それがさぁ〜、凛ちゃん全然電話に出ないから何かあったと思って学校抜け出して来ちゃったんだよねぇ〜。」
「は?」
「今から戻ったら絶対先生に怒られるし家に帰ったら母ちゃんに怒られるよー!凛ちゃん助けてー!学校が終わるまでで良いからー!」
それなのに何でこいつはそんな事したんだろう……。どうせまた何か企んでるに違いないな。
「凛ちゃん?」
だとしても私のせいで困ってる人を放っておくのは流石の私でも出来ない……。
「分かったよ。住所送るから。学校が終わるまでだからね。」
「うん!」
電話を切り住所を送るとしばらくして真柴が到着する。
「お邪魔しま〜す!」
真柴は部屋に入るなりソファーに寝転ぶ。
「あぁー!疲れたぁー!お腹空いたー!凛ちゃん何か作ってー!」
こいつは遠慮というものを知らないのかな?
「はい。」
シリアルを見せると真柴は不服そうな顔をする。
「えぇー!それだけー?」
「チッ。」
シリアルを片付けようとすると真柴は慌ててダイニングテーブルまで走る。
「ごめん!ごめん!ちょうどシリアル食べたかったんだよ!やっぱり朝ご飯はこれだよな!もう昼だけど……。」
そっか……。真柴は昼ご飯になるのか……。
一応冷蔵庫の中を覗いたけどやっぱり何も無いのでソファーに座りテレビを見る。
「凛ちゃんっていつもこんな感じなの?」
こんな感じってどんな感じよ。
「それ食べたら帰ってね。」
もう三時前だしゆっくり帰ればどうにかなるでしょ。
「えぇ〜、じゃあ明日は学校来てくれる?」
「行くわけないじゃん。」
「えぇー!来てよー!」
真柴は食べ終わるとお皿をキッチンに持って行きさっき私が使ったお皿も洗い始める。
「そんな事しても行かないからね。」
「えへへ、気づいた?」
「早く帰ってよ。」
「明日来てくれる?」
「はいはい、分かった分かった。行く行く。」
行く気はさらさら無いが早く帰って欲しいのでそう返すと真柴は手に付いた水を周りに飛ばしながら喜ぶ。
はぁ……。洗って汚してってこいつは本当何なのよ。
「やったぁ〜!やったぁ〜!明日八時に迎えに行くねー!じゃ!また明日ー!」
そう言うと真柴は颯爽と帰って行く。
やっと帰った……。ん!?今何て言った!?明日?八時に?迎えに来る!?
あーもう!何で私は家を教えてしまったのよ……。私のバカァ……。
で、でも、本当に来るかは分からないし……。いや、アイツなら本当に来るだろうなぁ。遠慮もクソも無いからなぁ。はぁ……。もうどうしようもないし諦めるしかないか……。もう本当最悪。
……で、結局一睡も出来なかったし。まあ、図書室で寝たら良いか。
準備が終わると同時にインターフォンの軽快な機械音がなる。
インターフォンの画面を見るとカメラに向かって手を振る真柴が映る。
やっぱり本当に来ちゃったよ。
玄関を出てエレベーターで一階まで降りると私に気づいた真柴がエントランスからブンブンと手を振っている。
「おっはよ〜!」
その言葉を無視して通り過ぎると真柴が後ろから着いて来る。
「えへへっ!おれ凛ちゃんと一緒に学校に行けるなんて嬉しいなぁ〜!」
私は最悪の気分よ。
学校に近づくにつれて私達に降り注ぐ視線が多くなる。
学校に着くとすぐに靴を履き替え逃げるように図書室に向かおうとすると真柴に手を掴まれる。
「ちょ、ちょっと!どこ行くの!?教室そっちじゃないよ!」
「学校に来たんだからもう良いでしょ。」
「だめだよー!」
真柴はそう言うと私の肩をがっしりと掴む。
ヤバッ、ピクリとも動かないんだけど。ていうかこれ周りから見たら抱きしめられてるみたいじゃん!
「ちょっと!真柴!離して!」
「ギャーーー!!」
なんて悲鳴があちこちから聞こえる。
もう本当最悪。
「何するつもり?」
「さぁ?」
真柴が意味ありげな笑みを浮かべると私を軽々と担ぎ歩き出す。
「ちょっ、ちょっと!真柴!」
「凛ちゃん軽過ぎだよー!もっといっぱい食べないと!」
「降ろして!降ろしなさいよ!」
「だーめっ!」
女子生徒達が目を大きく開けて固まってるし、男子生徒は私を担いでいる真柴をからかう。
真柴って友達多いんだ……。
って感心してる場合じゃなかった!
「降ろしてよ!」
真柴は一生懸命もがく私を無視してどんどん歩いて行く。
教室に着いても視線が逸らされることは無く、それどころか噂を聞いた女子生徒達が廊下に押し寄せて来る。
「はぁ……。」
私は普通に生活したいだけなのに……。本当最悪。