パフェと動物園
「凛ちゃん!凛ちゃん!もう放課後だよー!本当によく寝るねぇー!」
デジャブだ……。
「はぁ……。」
「何?まだ寝足りないのー?でももう帰ろー!」
あ!そういえば番号消せてない!あぁ、私の平和な日常がぁ……。
「ねーえー!帰ろうよー!」
「うるさい。早く帰って。」
「えぇー!やーだー!今日は凛ちゃんと帰るって決めてたもん!ほら、行こ!」
真柴は私の手を強引に引く。
「ちょ、ちょっと!離してよ!」
「やーだー!」
そういえばまだ番号消せてないんだった……。
携帯はどこだろう……。ポケット?いや、膨らんでないな。じゃあ鞄の中かな?
「携帯はここだよ〜んっ!」
真柴がニカッと笑いながら携帯を見せつける。
「ムカつく。」
「へっへ〜んっ!」
「ねぇ、私の家こっちじゃないんだけど。」
「おれ行きたい所あるから付き合ってよ。」
「無理、帰る。」
手を払い帰ろうとしたが真柴の力には勝てず引き戻される。
「はぁ……。もう最悪。」
「まあまあ!こっちこっち!ふんっふふんっふふ〜んっ!」
ご機嫌に鼻歌を歌いながら歩き出す。
あー、全力で他人のフリをしたい。
「やっと着いたぁー。ここだよ凛ちゃん!」
そう言って真柴が指差すのは今流行りのパフェ屋さん。
確かにこういう所は男一人では入りづらいか……。
ていうかここ前にテレビで見て行ってみたかったんだよね〜!もう仕方ないなぁ〜!
「今日だけだからね。」
「やったぁ!早く並ぼ!」
しばらく列に並んでいると思ったより早く私達の順番が来た。
お店に入るとふわっと甘い香りが広がり、メニューを開くとどれもこれも美味しそうで写真を見てるだけでヨダレが垂れそうになる。
うーん、このチョコバナナにしようかなぁ。あ、でもこっちの苺がいっぱい乗ったこのパフェも美味しそう……。どうしよう。選べないよー!
「凛ちゃんこの二つで迷ってるの?」
あぁ、また心を読まれてしまった……。
「すいません。」
真柴が店員さんを呼ぶと私が迷っていた二つを頼む。
「真柴は?」
「おれは凛ちゃんの少し貰うー!」
何それ。でもまあこれで二つ食べれるしラッキーだ!あぁ、もう待ちきれないよ〜!早くぅ〜!
そんな私を見て真柴がニヤニヤと笑う。
ヤバッ、パフェに気を取られすぎて真柴の事全然気にしてなかった。
「ねぇ凛ちゃん。」
「何。」
「明日も学校来てよ。」
「何でそんなに私を学校に来させようとするのよ。」
「それは……、だって、ほら!隣に人いないと寂しいじゃん!?」
「何それ。」
「お待たせしました〜。」
そう言って店員さんがテーブルにパフェを置く。
うわぁ〜!美味しそう〜!
「いただきます。」
宝石のように輝く苺を口に運ぶと口いっぱいに甘味が広がる。
何これ……。今まで食べたパフェの中で一番美味しいよ!あぁ、神様。こんなに美味しいものをありがとうございます!
「やっぱり凛ちゃんは笑ってる方が良いよ!」
「何そのドラマとかでありそうな言葉。」
いや、そんな事よりこのパフェ美味しすぎるよ!
無我夢中で二つのパフェを食べ続ける。
結局私ばかりが食べてここに来たがっていた真柴はニ、三口しか食べなかった。
ふぅー。お腹いっぱい。流石に二つは食べ過ぎたかなぁ?いやぁ、満足!満足!いや、満足以上だよ!
「そろそろ出よっか。」
「ん。」
お店を出て家へ帰ろうとすると真柴に手を引かれる。
「もう一件。」
「もうお腹いっぱい。」
「次は食べないから。ふふっ、ほらこっち!」
こいつ今笑いやがった!ていうかそういう事は先に言ってよ……。
大人しく真柴に着いて行くと着いた場所は動物園。
「さぁ!張り切って行くぞー!」
手をブンブンと振り回し動物園へ入る。
「痛いよ。ていうか手離してよ。」
「だめ!凛ちゃん逃げちゃうじゃん!」
「逃げないから。」
「だーめ!」
あぁ、恥ずかし過ぎるよ。すれ違う人皆んなに見られてる気がする。
でも一番多いのは頬を赤らめた女の子達の視線だ。
さっきはパフェに夢中で気づかなかったけどそういえばさっきのお店でも真柴を見る女の子の視線が多かった気がする。
確かに整った顔をしてるけど……。
「何?恥ずかしいよー。おれじゃなくて動物見てよー。ここ動物園なんだから。」
間違いない……。なんだか真柴にまともな事言われるとムカつくな……。それにしても何で動物園に来たんだろう。
さっきのパフェもニ、三口食べて終わりだったし、今は何かを探しながら淡々と進んで行くし、さっきの言葉をそのまま返してやりたい。
そんな事を思っていると早くも出入口に戻ってきた。
「……もう一回。」
不服そうな顔をして同じ道をもう一度進む。
本当に何がしたいんだろう?
動物園に来て動物を見ない二人がスタスタと歩いているという異質な状況でまた出入口に着いた。
「……もう一回。」
「無理。」
「もう一回!」
「うるうるした目で駄々をこねてももうこれ以上は本当に無理だから。帰る。」
「絶対におかしい!!」
「ちょ、ちょっと!いきなり叫ばないでよ!」
「だって……。」
真柴は少し何かを考えた後出口の方へ歩き出す。
やっと帰る気になったか。
真柴に着いて出入り口の方へ行くと真柴は出入り口に立っているスタッフさんに話しかける。
「イルカはどこだ!」
……え?
スタッフさんが困った顔で私を見る。
「ねぇ。」
「ちょっと待ってて凛ちゃん。絶対に凛ちゃんに見せたいものがあるから少しだけ待ってて。」
「何を見せたいの?」
「内緒!」
「もしかしてだけど……、イルカ?」
「え!?凛ちゃん何で分かったの!?」
「イルカって動物園じゃなくて水族館じゃない?」
「え?……か、か、帰るぞ!」
「え?あ、うん。」
スタッフの人に会釈をして恥ずかしそうに動物園を出る真柴に思わず笑うと睨まれてしまったので大人しく後ろを着いて行く。
今から水族館に行くと言われたが流石にもう疲れたので今度行くと約束してどうにか今日は帰る事が出来た。
「はぁ……。」
今日はとにかく疲れたな……。