電話
「起きてー!おーい!凛ちゃーん!」
「ん……?」
あれ?私寝てたんだっけ?
周りを見渡すと教室には私と真柴の二人だけしかいない。
「もう皆んな帰ったよ!凛ちゃん寝過ぎだよー!」
私そんなに寝てたんだ。
「全然学校来ないし来たと思ったら放課後までずっと寝てるし、凛ちゃんって本当に面白いね!じゃ、おれ帰るから凛ちゃん明日も学校来てね!」
真柴はそう言うと小走りで教室を出る。
明日は絶対に休んでやる。
そう思いながら机の横に掛けてある鞄を取り、教室を出ると誰かとぶつかりそうになる。
「っ!……嶺夜!?」
ずっとずっと会いたかった嶺夜が今目の前にいる。
嶺夜。そう呼びたいのに声が出ない。
あの頃とは少し違う雰囲気の嶺夜は私を見て驚いた表情を浮かべる。
「凛……。」
久しぶりに聞くその声に出そうになる涙を堪える。
「何でお前がいるんだよ。」
あぁ、そうだった。そうだよね。私達はもう昔みたいに笑い合えないんだよね。
「クソビッチ。」
嶺夜はそう吐き捨てて通り過ぎる。
もう慣れたその言葉が胸に刺さる。
嶺夜だけは信じて欲しかった……。
足早に家に帰るとそのままベットにダイブする。
はぁ……。今日は散々な日だったな……。
「ピピピピッ。」
鳴り響く機械音に目を開けるとカーテンの隙間から太陽の光が差し込む。
あれ?私あのまま寝ちゃったんだ……。
鳴り響く機械音が止まったかと思えばしばらくしてまた機械音が鳴り響く。
「うるさいなぁ。電話なんて誰からだろう……。」
リビングに行き鞄から携帯を取り見てみると知らない番号が表示されている。
誰だろう……。
考えると一人の男が頭に浮かぶ。
「あのハズレくじか……。」
電話を切りまた鞄に携帯を入れると、また部屋に機械音が鳴り響く。
「あー!もう!うるさい!」
雑に携帯を取り通話ボタンを押す。
「しつこい!」
「わ!やっと出た!ねえねえ今日は学校来ないの?」
え……、誰?
「おーい!聞いてるー?」
「誰?」
「えぇー!凛ちゃんおれの事覚えてないのー?昨日話したじゃん!星太だよ!真柴星太!」
「真柴?何であんたが私の番号を知ってるのよ。」
「だって昨日凛ちゃんが寝てる時に見たもん!」
「は?」
見たもん!って……。
「もうすぐ授業始まるよー!早くおいでよー!あ、やべ!先生来た!とりあえず学校来てね!じゃ、また後でね!」
一方的に切られた電話に少し苛立ちながらもう一度ベットに戻り二度寝しようとしたが真柴のせいでぱっちり目が覚めてしまった。
「チッ。」
とりあえずシャワーを浴びてソファーの上でくつろいでいるとまた機械音が鳴り響く。
「もしかしてこれがずっと続くの?耐えられないんだけど……。」
鳴り響く電話を切りさっき脱いだばかりの制服を着て学校へ向かう。
「絶対に番号を消させてやる。」
学校に着いたは良いが今は授業中なので今教室に入ると変に注目を浴びる事が目に見えている。
「やっぱり帰ろうかな……。」
と帰ろうとした時屋上に目が行く。
そういえば屋上って行った事ないなぁ。ていうかこの学校の事あまり知らないし散歩でもしようかなぁ〜。
少しワクワクしながら階段を上り屋上の扉を開けようとしたが鍵が掛かっていて開かなかった。
「チッ。」
そのまま引き返し一通り校内を散歩をした所でこの校内で唯一安らげる図書室に向かう。
この学校の図書室はほとんど使われてなくて人が来ないのでここを見つけてからは殆どをここで過ごした。まあ、すぐにここにも来なくなったけど。
「ふぁぁ〜。」
程よく射し込む太陽の光が心地良くてつい眠ってしまった。
「ピピピピッ、ピピピピッ。」
今朝と同じ様に鳴り響く携帯に目を開け時間を見ると午後一時を過ぎた所だった。
ヤバッ!
電話を切り真柴を探しに教室へ向かう。
変に注目されるのが嫌で時間を潰してたのにさっきから何度切っても鳴る機械音のせいで皆んなからの視線が痛い。
そんな視線を無視して教室に急ぐ。
「はぁー、やっと着いた。」
皆んなの視線のせいで長く感じたよ……。
教室の中を覗くと携帯に向かってぶつぶつ何かを言っている真柴の背中が見える。
その背後から携帯を取ろうと慎重に忍び寄る。
後一歩……。
「ピピピピッ、ピピピピッ。」
「わぁ!?なんだ!?って凛ちゃん!?びっくりしたぁ!ていうか何でこんな近くにいるの?」
機械音に驚いて真柴が振り返ってしまった。
「……チッ。」
後もうちょっとだったのに!!
「え!?何?何?何?何で舌打ち!?」
真柴を睨み自分の席に座る。
これは失敗か……。
どうやって番号を消させよう……。
「はぁ……。」
五時間目は歴史の授業。心地良い太陽の光に先生の声が子守唄に聞こえ瞼が降りてくる。
さっきまで寝ていたのに私はどれだけ寝たら気が済むんだろう。きっと昨日から慣れないことをしているからだろうなぁ。
でも今日真柴の携帯から私の番号を消したらまた平和な日々が戻るんだ!絶対に消してやる!
そう決心し隣の席を見ると真柴が私を見てニヤニヤしている。
「何?気持ち悪いんだけど。」
「凛ちゃんはさ、何で学校に来ないの?」
何でこいつにそんな事言わないといけないのよ。
それにしてもこいつ何でさっきからニヤニヤしてるんだろう。私何かした?
「やっぱり凛ちゃんは最高だね!」
「は?」
「ねぇ、明日から一ヶ月毎日学校に来てよ。」
「無理。」
「えー、来てくれたら番号消そうと思ったのになぁー。」
こいつ……、気づかれてた……。
「凛ちゃんが分かりやすいんだよ。ずっとおれの携帯睨んでるんだもん。」
だからさっきからニヤニヤしてたのか。
「今すぐ消して。」
「や〜だ〜!」
「消してよ!」
「や〜だね〜!」
「消して!」
「こら!そこ静かにしなさい!!」
先生の声と共にクラス中の視線が私達に集まる。
「すいません……。」
何だか今日は真柴のせいでずっと視線を浴びてる気がする。
隣の席を睨むと当の本人は笑って人差し指を立てて口に当てている。
「凛ちゃん、し〜、だよ!」
「チッ。」
はぁー、もう面倒くさい。
机に頭を伏せ子守唄の様な先生の声を借りて夢の中へと逃げる。
全部夢だったら良いのに……。