出会い
桜は全て散り今日から五月。
「はぁ……、あのクソ教師。」
そう呟きながら胸下あたりまである黒髪を丁寧に梳かしている私は若月凛、少々口の悪いピチピチの高生二年生!だけど去年の九月頃から全く学校に行っていない。俗に言う不登校ってやつだ。
入学する時に学校の近くのマンションに引っ越して一人暮らしを始めたのでこんな私をとやかく言う人は誰もいないし、私の通う高校は偏差値が低くテストでまあまあ良い点を取っていた私は学校に行かなくても難なく進級する事が出来た。
だけど今日は二年生になって初めての学校に行く。昨日の夜に担任の観山晃大という男から電話がかかってきて、そろそろ学校に来ないと単位をあげないと言われたのだ。
どうやら今回の担任はハズレだったみたい。
「はぁ……。本当最悪。」
白色のブラウスに赤色のリボン、茶色のチェックスカートに白色の靴下を履いてベージュのブレザーを羽織り、茶色のローファーを履いて家を出る。
学校に着いたのはちょうど昼休みが始まる午後一時。私にしては頑張った、よね?……うん。そういう事にしておこう。
この学校は比較的新しく校舎も綺麗だ。靴を履き替え中に入ると一階に職員室や保健室、二階に三年生の教室、三階に二年生の教室、四階に一年生の教室があり、その両脇に階段がある。
そういえば私何組なんだろう。これじゃあ教室も分からないじゃん。はぁ……。担任に会うのは嫌だけど仕方ない、職員室に行こう。
周りにいる生徒の視線を感じつつ職員室に行くと、私に気付いた担任が目にかかる前髪をかきあげ気怠そうに手を振る。
「お〜やっと来たか〜!今日も来ねーかと思ったぜ〜!」
何この男。妙に語尾長いし、気持ち悪っ。
「何組?」
「お前な〜、少しくらい俺の話を聞けよ〜。お前が学校に来ないから俺の肩身が狭いんだよな〜。」
「何組?」
「はぁ〜、お前な〜。」
「帰る。」
「おいおいおい!それは困るぜ〜。お前は五組だからな〜!午後の授業はちゃんと受けろよ〜!ちなみにお前の席は窓際の一番後ろだからな〜!」
窓際の一番後ろか……。それが唯一の救いかな。
「言っとくけど帰ったら単位あげね〜からな〜。そうなったらこの学校は留年無しだから退学だな〜。」
「チッ。」
ニヤリと笑みを浮かべる担任を睨み職員室を出る。
「流石ハズレくじ。」
職員室を通り過ぎ階段を上り三階まで行くと右側にあるトイレを通り過ぎ、五組と書かれた教室に入ると急にザワザワと騒がしくなる。
「ねぇあの子って一年生の時嶺夜くんと付き合ってた子だよね?」
「でもすぐ別れたし遊ばれてただけでしょ。」
「あの子三回も中絶したらしいよ。」
「嘘、最低。嶺夜くんを汚さないでよね。」
「何であんなビッチが嶺夜くんなんかと付き合えたのよ!」
「顔が良いだけのくせに。」
うるさいなぁ。
中絶なんて一回もした事ないし。まあそんな事言っても信じてもらえないんだろうけど。
入学して半年くらいしか学校に行ってない私だけど、きっとほとんどの人が私を知ってると思う。
それは私が一年生の時に深影嶺夜という人と付き合っていたから。
嶺夜は入学早々ファンクラブが出来るほどの人気で、付き合っていた当初は嫉妬した女子生徒達からのイジメも酷かった。
まあそんなの痛くも痒くもなかったけど。だって私には嶺夜がいた。嶺夜さえいれば他には何もいらなかった。どんな事にも耐えられた。
そんな事を思えたのは嶺夜が初めてだった。嶺夜は私の初恋で、きっと最後の恋。
今でも私は嶺夜が大好き。だからこそ嶺夜のあんな顔を見るのが辛くて、苦しくて、私は学校に行くのをやめた。
「はぁ……。」
大きなため息を吐きながら窓際の一番後ろの自分の席に座る。
「わぁーー!!!凛ちゃんだ!!!」
え!?何!?
「ねえねえねえ!凛ちゃんだよね!?」
明るい色の髪に緩くパーマをあてている可愛い顔をした男子生徒がこちらに走って近づいて来る。
びっくりしたぁ。何この人……。
ていうかこの人が大声で私の名前呼ぶから皆んながこっちを見てるじゃん。最悪なんだけど。出来るだけ静かに過ごしたかったのに。
「ねえねえ!?凛ちゃんだよね!?」
どうしよう……。なんか面倒くさそうだしここは寝たふりをしてやり過ごそうかな。
そう思い机に顔を伏せるとその男は隣の席に座る。
「ねえねえ!寝るの?ねえねえ!起きてよー!」
うるさいなぁ。早くどっか行ってよ。
「ねえねえ!おーい!ね〜え〜!ねえってばー!凛ちゃーん!」
「うるさい。」
顔を伏せたまま返事をする。
「お!やっと喋った!おれ真柴星太!隣の席だからよろしくね!」
「……。」
「クールだねぇ〜!新学期始まったのに隣の席一ヶ月も誰もいないんだもん!おれ寂しかったよぅ〜!」
寝たふり続けてるのに何で喋り続けてるのよ……。
「ねえねえ起きてよー!話そうよー!ねえねえ!凛ちゃん明日も来てくれるー?」
窓際の一番後ろの席で喜んでたさっきの自分をぶん殴ってやりたい。
こんな面倒臭い人が隣の席だなんて二度と来たくないよ。
そんな事を思っていると扉の方から甲高い女の人の声が聞こえる。
「星太〜!」
「ん?おー!翠先輩!どうしたんですか?」
真柴はそう言うと翠という人のいる扉の方に近づく。
やっと真柴から解放された。
周りを見渡すと皆んなは私を見てヒソヒソと何かを話しているし、真柴と話している翠という金髪の女の人は私を睨んでいる。
先輩って言ってたからあの人は三年生か。面倒くさい事にならないと良いけど……。
それにしてもこの感じ、あの時と一緒だ。
周りの様子を見る限り真柴もそこそこ人気そうだしそんな人が隣の席だなんて嫌な記憶が蘇る。
何で私ばかりがこんな事にならないといけないのよ。
まあ今日来たのは担任から電話来たからだし、明日からまた休めば良いんだ!今日だけの辛抱!
そう考えると降り注ぐ日の暖かさがお布団に包まれてるみたいで眠たくなってきた。
「ふぁぁぁ〜。」
あくびをしながら机に伏せ目を瞑るとすぐに深い眠りに包まれる。